91 / 121
番外編③
4
しおりを挟む
その日の夜。
「ごちそうさま。後片付けしてくるから、璃空は休んでてね」
「うん。ありがと」
晩御飯を食べ終えた二人分の食器を下げ、優斗が流し台に立つ。
ジャー。
水の音がテレビ音に混じり聞こえてきた。
璃空はちらっとキッチンに目を向けた。優斗は視線に気付かず、お皿を洗っている。それを確認した璃空は、そっとナイトテーブルに近付いた。膝立ちのまま、ごそごそと引き出しを探る。
(確か……いつもここから出して──)
「何か探し物?」
びくっ。
すぐ背後から響いた声。驚き、璃空の手から落ちたものは。
──コンドーム。
優斗はそれを拾い「待ちきれなかったの?」と嬉しそうに微笑んだ。
明日が休みの土曜の夜に、セックスをする。それはここ最近の恒例となっていた。
璃空は恥ずかしさから「あの、えっと」と俯いていたが、決心したように顔を上げた。
「今日は、ゴムなしでしてみたい」
突然の申し出に優斗は目を丸くしたが、すぐに「──駄目」と却下した。
あまりに早い返答に困惑しながらも、璃空は食い下がった。
こんなことで負けてはいられないのだ。
「な、何で。おれは女じゃないから、妊娠しないし」
「駄目。お腹壊したらどうするの?」
「そんな簡単に壊さないよ」
「駄目です」
優斗は頑なだった。取り付く島もないとはこのことか。
璃空はぎゅっと拳を握りしめ「じゃ、じゃあ。ゆ、優斗の舐めさせて」と顔を若干赤くしながら訴えた。
優斗は心の中で可愛いなと呟きながらも「それも駄目」と表情を変えなかった。璃空の願いは全て叶えてあげたいが、ことこれに関して譲るつもりはない。
二つ目の案も却下され、璃空は口調を荒げた。
「──何で! 優斗はおれの……その、してくれるじゃん!」
「俺は璃空に、そういうことさせたくないんだよ」
璃空は眉を寄せ「……おれが、女じゃないから?」と訴えた。
優斗は「そんなの関係ない。大切だからだよ」と璃空の左頬に手を添えた。それから右頬にも手を当て、ぐっと顔を近付けた。
「──それで?」
「え?」
「何があったの?」
どきっ。
璃空があからさまに動揺する。目を逸らしながら「な、何でもない」と言っても何の説得力もない。
「何もなくて、急にこんなこと言うかなあ」
どうしてこうも優斗は察しがよいのか。いつもなら嬉しいが、こういう時は非常に困る。
「──女の人と付き合うよりも、いいことあるって思ってほしくて」
俯き、ぼそぼそ答える。優斗は「? どういう」と璃空の両頬から手を離そうとしたが、その手を璃空が掴んだ。
璃空が、がばっと面を上げる。
「おれが。おれが男だからこそできることがあると思ったんだ。妊娠しないから中出しできるし! フェラだって、男だからこそどこが気持ちいいか分かるし!」
一気にまくし立て、力説する璃空。優斗は理由が分かり、少し安心していた。何かあったわけではなく、璃空のネガティブモードが発動した結果なのかと納得してしまった。
「あのね、俺は璃空が好きだからセックスしたいと思うんだ。ただ気持ちよくなりたいだけじゃなくてね」
「でも生でするほうが気持ちいいんだよね? おれはしたことないから分かんないけど」
後半口調が強めになったのは、気のせいだろうか。
「璃空とのセックスは、いつも気持ちがいいよ。好きの伴うセックスは、こんなにも違うものなんだね」
「ゴムなしだと、もっと違うよ」
心からの言葉も、今日の璃空には届きそうもない。
「……因みに、コンドームをどうするつもりだったの?」
「ハサミで切り刻もうかと」
「…………」
その後。
どうしてゴムを着けるのか。その必要性を璃空に納得してもらうのに、優斗は二時間を費やした。
「ごちそうさま。後片付けしてくるから、璃空は休んでてね」
「うん。ありがと」
晩御飯を食べ終えた二人分の食器を下げ、優斗が流し台に立つ。
ジャー。
水の音がテレビ音に混じり聞こえてきた。
璃空はちらっとキッチンに目を向けた。優斗は視線に気付かず、お皿を洗っている。それを確認した璃空は、そっとナイトテーブルに近付いた。膝立ちのまま、ごそごそと引き出しを探る。
(確か……いつもここから出して──)
「何か探し物?」
びくっ。
すぐ背後から響いた声。驚き、璃空の手から落ちたものは。
──コンドーム。
優斗はそれを拾い「待ちきれなかったの?」と嬉しそうに微笑んだ。
明日が休みの土曜の夜に、セックスをする。それはここ最近の恒例となっていた。
璃空は恥ずかしさから「あの、えっと」と俯いていたが、決心したように顔を上げた。
「今日は、ゴムなしでしてみたい」
突然の申し出に優斗は目を丸くしたが、すぐに「──駄目」と却下した。
あまりに早い返答に困惑しながらも、璃空は食い下がった。
こんなことで負けてはいられないのだ。
「な、何で。おれは女じゃないから、妊娠しないし」
「駄目。お腹壊したらどうするの?」
「そんな簡単に壊さないよ」
「駄目です」
優斗は頑なだった。取り付く島もないとはこのことか。
璃空はぎゅっと拳を握りしめ「じゃ、じゃあ。ゆ、優斗の舐めさせて」と顔を若干赤くしながら訴えた。
優斗は心の中で可愛いなと呟きながらも「それも駄目」と表情を変えなかった。璃空の願いは全て叶えてあげたいが、ことこれに関して譲るつもりはない。
二つ目の案も却下され、璃空は口調を荒げた。
「──何で! 優斗はおれの……その、してくれるじゃん!」
「俺は璃空に、そういうことさせたくないんだよ」
璃空は眉を寄せ「……おれが、女じゃないから?」と訴えた。
優斗は「そんなの関係ない。大切だからだよ」と璃空の左頬に手を添えた。それから右頬にも手を当て、ぐっと顔を近付けた。
「──それで?」
「え?」
「何があったの?」
どきっ。
璃空があからさまに動揺する。目を逸らしながら「な、何でもない」と言っても何の説得力もない。
「何もなくて、急にこんなこと言うかなあ」
どうしてこうも優斗は察しがよいのか。いつもなら嬉しいが、こういう時は非常に困る。
「──女の人と付き合うよりも、いいことあるって思ってほしくて」
俯き、ぼそぼそ答える。優斗は「? どういう」と璃空の両頬から手を離そうとしたが、その手を璃空が掴んだ。
璃空が、がばっと面を上げる。
「おれが。おれが男だからこそできることがあると思ったんだ。妊娠しないから中出しできるし! フェラだって、男だからこそどこが気持ちいいか分かるし!」
一気にまくし立て、力説する璃空。優斗は理由が分かり、少し安心していた。何かあったわけではなく、璃空のネガティブモードが発動した結果なのかと納得してしまった。
「あのね、俺は璃空が好きだからセックスしたいと思うんだ。ただ気持ちよくなりたいだけじゃなくてね」
「でも生でするほうが気持ちいいんだよね? おれはしたことないから分かんないけど」
後半口調が強めになったのは、気のせいだろうか。
「璃空とのセックスは、いつも気持ちがいいよ。好きの伴うセックスは、こんなにも違うものなんだね」
「ゴムなしだと、もっと違うよ」
心からの言葉も、今日の璃空には届きそうもない。
「……因みに、コンドームをどうするつもりだったの?」
「ハサミで切り刻もうかと」
「…………」
その後。
どうしてゴムを着けるのか。その必要性を璃空に納得してもらうのに、優斗は二時間を費やした。
16
あなたにおすすめの小説
幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?
【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる
ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。
そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。
「一緒にコラボ配信、しない?」
顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。
これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。
※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。
【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~
上杉
BL
ずっとお前のことが好きだったんだ。
ある日、突然告白された西脇新汰(にしわきあらた)は驚いた。何故ならその相手は幼馴染の清宮理久(きよみやりく)だったから。思わずパニックになり新汰が返答できずにいると、理久はこう続ける。
「驚いていると思う。だけど少しずつ意識してほしい」
そう言って普段から次々とアプローチを繰り返してくるようになったが、実は新汰の方が昔から理久のことが好きで、それは今も続いている初恋だった。
完全に返答のタイミングを失ってしまった新汰が、気持ちを伝え完全な両想いになる日はやって来るのか?
初めから好き同士の高校生が送る青春小説です!お楽しみ下さい。
うまく笑えない君へと捧ぐ
西友
BL
本編+おまけ話、完結です。
ありがとうございました!
中学二年の夏、彰太(しょうた)は恋愛を諦めた。でも、一人でも恋は出来るから。そんな想いを秘めたまま、彰太は一翔(かずと)に片想いをする。やがて、ハグから始まった二人の恋愛は、三年で幕を閉じることになる。
一翔の左手の薬指には、微かに光る指輪がある。綺麗な奥さんと、一歳になる娘がいるという一翔。あの三年間は、幻だった。一翔はそんな風に思っているかもしれない。
──でも。おれにとっては、確かに現実だったよ。
もう二度と交差することのない想いを秘め、彰太は遠い場所で笑う一翔に背を向けた。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
【完結】「奥さまは旦那さまに恋をしました」〜紫瞠柳(♂)。学生と奥さまやってます
天白
BL
誰もが想像できるような典型的な日本庭園。
広大なそれを見渡せるどこか古めかしいお座敷内で、僕は誰もが想像できないような命令を、ある日突然下された。
「は?」
「嫁に行って来い」
そうして嫁いだ先は高級マンションの最上階だった。
現役高校生の僕と旦那さまとの、ちょっぴり不思議で、ちょっぴり甘く、時々はちゃめちゃな新婚生活が今始まる!
……って、言ったら大袈裟かな?
※他サイト(フジョッシーさん、ムーンライトノベルズさん他)にて公開中。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる