77 / 121
番外編②
1
しおりを挟む
身体が強張る。足が動いてくれない。
何で。
みな璃空に無関心に、スマホを見たり誰かと話しをしているだけなのに。
恐怖が身体中を走る。
強張った身体が、徐々に震えていく。
(電車に乗るのが、怖い……?)
そんな。
あんなことぐらいで。
背中に冷たい汗が流れていく。
(……どう、しよう。電車、乗れない)
璃空の目の前で、ドアが閉まる。電車が走り出す。それを見送ることしかできなかった。
「……優斗」
すがるように、ぽつりと呟いた。
「だから、大学の夏休みは八月からなんだって」
璃空はキッチンに立ちながらスマホを耳にあて、通話している。相手は弟の璃緒だ。
「うん、そう。お盆に帰るよ。──えっと、二泊三日かな。仕方ないだろ? バイトもあるからそんなに休めないんだよ──うん。お土産買っていくから。何がいい?」
それからしばらくして通話を終えた璃空は、部屋でテレビを見ていた優斗の隣に座った。
「弟くん、怒ってたんじゃない? ゴールデンウィークも帰らなかったし」
外は快晴。真夏の真っ昼間。
一日予定のない二人は、クーラーのきいた部屋でのんびりと録画していた映画を見ていた。弟から電話がかかってきたのは、映画のエンディング曲が流れはじめたときだった。
「うん、言われた。年末年始にはちゃんと帰ったのにな」
「璃空に甘えたいんだよ」
「もう中学生なのに?」
「恋人ができたら、変わるかもね」
ふむ。
璃空が黙考する。
「それはそれで、ちょっと寂しいかも」
「ふふ。本当に仲が良い兄弟だね」
優斗が小さく笑う。璃空はふと「優斗は実家に帰らないの?」と訊ねてみた。
今年のゴールデンウィークはもちろん、年末年始は海外留学へ行っていたため、優斗は帰省していない。去年の夏休みも実家には帰っていなかった。
思い返せば、璃空と付き合ってから優斗が帰省したところを見たことがない。
「ん? 帰らないよ。ちゃんと連絡は取り合ってるし」
そう。たまに優斗の母親から電話がきて、応答しているのを璃空は知ってる。漏れ聞く会話を聞く限り、仲の良さそうな親子に思えるのに。
「帰ってこいって言われない?」
「言われるけどね。課題やらバイトやらで忙しいって言うと納得してくれるよ」
「──もしかして、おれのせい?」
え?
予想外の科白に、優斗が目を丸くする。
「おれが寂しがるから帰れない、とか。もしそうなら、大丈夫だよ。一ヶ月も帰るわけじゃないだろ? あ、別に長くてもおれは平気だけど」
何故か必死に訴える璃空。優斗は小さく笑いながら「違うよ。ほら、おいで」と右手を差し出した。
璃空が掴むと、優斗はその腕を引っ張り、自分の膝の上に璃空を乗せた。向かい合わせになった璃空の左頬に、手を添える。
「本当にそうなら、璃空の帰省に合わせて帰ればいいだけだよ。帰らないのは俺の意思だから。璃空は気にせず、久しぶりにお母さんに甘えて、弟に甘えられておいで」
「……もう母親に甘える年でもないけど」
ふふ。
優斗が笑う。
「そうだね。母親にはね」
璃空を引き寄せ、優しく抱き締める。
「この家でちゃんと待ってるから、気を付けて行っておいで」
「──うん」
はぐらかされたのは分かっていた。優斗はあまり、家族のことを話したがらないから。
家族に会わせたくない、というのなら分かるのだけれど。
(男のおれを恋人として紹介できるわけないし……かといって、友達として紹介したとして、おれが傷付くかもって思ってそう)
でもそれなら、せめて家族のことを聞いてみたい。両親と兄が一人いることは知っているが、どんな人なのかは全くと言っていいほど知らないから。
信用されてないとは思ってない。何か訳がある可能性だってある。
(……でも、なんか寂しいな)
璃空は優斗の背中にぎゅっとしがみつくと、優斗の肩に顔を埋めた。
何で。
みな璃空に無関心に、スマホを見たり誰かと話しをしているだけなのに。
恐怖が身体中を走る。
強張った身体が、徐々に震えていく。
(電車に乗るのが、怖い……?)
そんな。
あんなことぐらいで。
背中に冷たい汗が流れていく。
(……どう、しよう。電車、乗れない)
璃空の目の前で、ドアが閉まる。電車が走り出す。それを見送ることしかできなかった。
「……優斗」
すがるように、ぽつりと呟いた。
「だから、大学の夏休みは八月からなんだって」
璃空はキッチンに立ちながらスマホを耳にあて、通話している。相手は弟の璃緒だ。
「うん、そう。お盆に帰るよ。──えっと、二泊三日かな。仕方ないだろ? バイトもあるからそんなに休めないんだよ──うん。お土産買っていくから。何がいい?」
それからしばらくして通話を終えた璃空は、部屋でテレビを見ていた優斗の隣に座った。
「弟くん、怒ってたんじゃない? ゴールデンウィークも帰らなかったし」
外は快晴。真夏の真っ昼間。
一日予定のない二人は、クーラーのきいた部屋でのんびりと録画していた映画を見ていた。弟から電話がかかってきたのは、映画のエンディング曲が流れはじめたときだった。
「うん、言われた。年末年始にはちゃんと帰ったのにな」
「璃空に甘えたいんだよ」
「もう中学生なのに?」
「恋人ができたら、変わるかもね」
ふむ。
璃空が黙考する。
「それはそれで、ちょっと寂しいかも」
「ふふ。本当に仲が良い兄弟だね」
優斗が小さく笑う。璃空はふと「優斗は実家に帰らないの?」と訊ねてみた。
今年のゴールデンウィークはもちろん、年末年始は海外留学へ行っていたため、優斗は帰省していない。去年の夏休みも実家には帰っていなかった。
思い返せば、璃空と付き合ってから優斗が帰省したところを見たことがない。
「ん? 帰らないよ。ちゃんと連絡は取り合ってるし」
そう。たまに優斗の母親から電話がきて、応答しているのを璃空は知ってる。漏れ聞く会話を聞く限り、仲の良さそうな親子に思えるのに。
「帰ってこいって言われない?」
「言われるけどね。課題やらバイトやらで忙しいって言うと納得してくれるよ」
「──もしかして、おれのせい?」
え?
予想外の科白に、優斗が目を丸くする。
「おれが寂しがるから帰れない、とか。もしそうなら、大丈夫だよ。一ヶ月も帰るわけじゃないだろ? あ、別に長くてもおれは平気だけど」
何故か必死に訴える璃空。優斗は小さく笑いながら「違うよ。ほら、おいで」と右手を差し出した。
璃空が掴むと、優斗はその腕を引っ張り、自分の膝の上に璃空を乗せた。向かい合わせになった璃空の左頬に、手を添える。
「本当にそうなら、璃空の帰省に合わせて帰ればいいだけだよ。帰らないのは俺の意思だから。璃空は気にせず、久しぶりにお母さんに甘えて、弟に甘えられておいで」
「……もう母親に甘える年でもないけど」
ふふ。
優斗が笑う。
「そうだね。母親にはね」
璃空を引き寄せ、優しく抱き締める。
「この家でちゃんと待ってるから、気を付けて行っておいで」
「──うん」
はぐらかされたのは分かっていた。優斗はあまり、家族のことを話したがらないから。
家族に会わせたくない、というのなら分かるのだけれど。
(男のおれを恋人として紹介できるわけないし……かといって、友達として紹介したとして、おれが傷付くかもって思ってそう)
でもそれなら、せめて家族のことを聞いてみたい。両親と兄が一人いることは知っているが、どんな人なのかは全くと言っていいほど知らないから。
信用されてないとは思ってない。何か訳がある可能性だってある。
(……でも、なんか寂しいな)
璃空は優斗の背中にぎゅっとしがみつくと、優斗の肩に顔を埋めた。
15
あなたにおすすめの小説
幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?
【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる
ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。
そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。
「一緒にコラボ配信、しない?」
顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。
これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。
※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
うまく笑えない君へと捧ぐ
西友
BL
本編+おまけ話、完結です。
ありがとうございました!
中学二年の夏、彰太(しょうた)は恋愛を諦めた。でも、一人でも恋は出来るから。そんな想いを秘めたまま、彰太は一翔(かずと)に片想いをする。やがて、ハグから始まった二人の恋愛は、三年で幕を閉じることになる。
一翔の左手の薬指には、微かに光る指輪がある。綺麗な奥さんと、一歳になる娘がいるという一翔。あの三年間は、幻だった。一翔はそんな風に思っているかもしれない。
──でも。おれにとっては、確かに現実だったよ。
もう二度と交差することのない想いを秘め、彰太は遠い場所で笑う一翔に背を向けた。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
【完結】「奥さまは旦那さまに恋をしました」〜紫瞠柳(♂)。学生と奥さまやってます
天白
BL
誰もが想像できるような典型的な日本庭園。
広大なそれを見渡せるどこか古めかしいお座敷内で、僕は誰もが想像できないような命令を、ある日突然下された。
「は?」
「嫁に行って来い」
そうして嫁いだ先は高級マンションの最上階だった。
現役高校生の僕と旦那さまとの、ちょっぴり不思議で、ちょっぴり甘く、時々はちゃめちゃな新婚生活が今始まる!
……って、言ったら大袈裟かな?
※他サイト(フジョッシーさん、ムーンライトノベルズさん他)にて公開中。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる