しっかり者で、泣き虫で、甘えん坊のユメ。

西友

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番外編②

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 身体が強張る。足が動いてくれない。

 何で。
 
 みな璃空に無関心に、スマホを見たり誰かと話しをしているだけなのに。

 恐怖が身体中を走る。
 強張った身体が、徐々に震えていく。

(電車に乗るのが、怖い……?)

 そんな。
 あんなことぐらいで。

 背中に冷たい汗が流れていく。

(……どう、しよう。電車、乗れない)

 璃空の目の前で、ドアが閉まる。電車が走り出す。それを見送ることしかできなかった。

「……優斗」

 すがるように、ぽつりと呟いた。




「だから、大学の夏休みは八月からなんだって」

 璃空はキッチンに立ちながらスマホを耳にあて、通話している。相手は弟の璃緒りおだ。

「うん、そう。お盆に帰るよ。──えっと、二泊三日かな。仕方ないだろ? バイトもあるからそんなに休めないんだよ──うん。お土産買っていくから。何がいい?」

 それからしばらくして通話を終えた璃空は、部屋でテレビを見ていた優斗の隣に座った。

「弟くん、怒ってたんじゃない? ゴールデンウィークも帰らなかったし」

 外は快晴。真夏の真っ昼間。

 一日予定のない二人は、クーラーのきいた部屋でのんびりと録画していた映画を見ていた。弟から電話がかかってきたのは、映画のエンディング曲が流れはじめたときだった。

「うん、言われた。年末年始にはちゃんと帰ったのにな」

「璃空に甘えたいんだよ」

「もう中学生なのに?」

「恋人ができたら、変わるかもね」

 ふむ。
 璃空が黙考する。

「それはそれで、ちょっと寂しいかも」

「ふふ。本当に仲が良い兄弟だね」

 優斗が小さく笑う。璃空はふと「優斗は実家に帰らないの?」と訊ねてみた。

 今年のゴールデンウィークはもちろん、年末年始は海外留学へ行っていたため、優斗は帰省していない。去年の夏休みも実家には帰っていなかった。

 思い返せば、璃空と付き合ってから優斗が帰省したところを見たことがない。

「ん? 帰らないよ。ちゃんと連絡は取り合ってるし」

 そう。たまに優斗の母親から電話がきて、応答しているのを璃空は知ってる。漏れ聞く会話を聞く限り、仲の良さそうな親子に思えるのに。

「帰ってこいって言われない?」

「言われるけどね。課題やらバイトやらで忙しいって言うと納得してくれるよ」

「──もしかして、おれのせい?」

 え?
 予想外の科白に、優斗が目を丸くする。

「おれが寂しがるから帰れない、とか。もしそうなら、大丈夫だよ。一ヶ月も帰るわけじゃないだろ? あ、別に長くてもおれは平気だけど」

 何故か必死に訴える璃空。優斗は小さく笑いながら「違うよ。ほら、おいで」と右手を差し出した。

 璃空が掴むと、優斗はその腕を引っ張り、自分の膝の上に璃空を乗せた。向かい合わせになった璃空の左頬に、手を添える。

「本当にそうなら、璃空の帰省に合わせて帰ればいいだけだよ。帰らないのは俺の意思だから。璃空は気にせず、久しぶりにお母さんに甘えて、弟に甘えられておいで」

「……もう母親に甘える年でもないけど」

 ふふ。
 優斗が笑う。

「そうだね。母親にはね」

 璃空を引き寄せ、優しく抱き締める。

「この家でちゃんと待ってるから、気を付けて行っておいで」

「──うん」

 はぐらかされたのは分かっていた。優斗はあまり、家族のことを話したがらないから。

 家族に会わせたくない、というのなら分かるのだけれど。

(男のおれを恋人として紹介できるわけないし……かといって、友達として紹介したとして、おれが傷付くかもって思ってそう)

 でもそれなら、せめて家族のことを聞いてみたい。両親と兄が一人いることは知っているが、どんな人なのかは全くと言っていいほど知らないから。

 信用されてないとは思ってない。何か訳がある可能性だってある。

(……でも、なんか寂しいな)

 璃空は優斗の背中にぎゅっとしがみつくと、優斗の肩に顔を埋めた。
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