しっかり者で、泣き虫で、甘えん坊のユメ。

西友

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番外編②

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 駅のホームに降りた優斗は、璃空の姿を探した。俯きながら椅子に座る璃空を見つけ、急いで駆け寄る。

「──璃空!」

 璃空はゆっくりと、顔を上げた。

「あ……ごめ……迷惑かけて」

「──っ」

 優斗が声を失う。璃空の顔は真っ青で、生気がない。微かにだが、全身が震えている。

 よほど怖かったのだろう。

 優斗は無意識に唇を噛んだ。

 こんなことになるなら、着いていってあげればよかった。どうしてこうなる予想を出来なかったのか。

 璃空が遠慮がちに、優斗の服の端をそっと掴んできた。

 はっとし、優斗は回りを見渡した。

 電車がきたばかりなので、こちら側のホームには誰もいないが、向かい側のホームには人がいる。

「璃空、こっち」

 優斗は璃空の手をひき、駅内にあるトイレに向かった。誰もいないトイレの個室に入ると、璃空を抱き締めた。

 璃空は黙って、されるがままだった。

「……怖かったね。傍にいてあげられなくてごめんね」

 囁くと、ようやく璃空は感情が動いたように泣き出した。

「……き、気持ち悪かった……っ」

「うん」

「……優斗以外に触られたこと、なかったから……こ、怖くて、気持ち悪くてっ」

「うん」

「……おれ男なのに、情けない……っ」

 優斗の胸に顔を押し付け、声をおし殺しながら璃空は泣いた。優斗はただ、抱き締めてあげることしかできなかった。

 しばらく経って、璃空がゆっくりと優斗から顔を離した。

「……ごめん。優斗のシャツ、濡れちゃった」

 涙は止まったようだが、まだ目にはうっすら涙が溜まっている。優斗はポケットからハンカチを出すと、優しくそれを拭った。

「平気。暑いから、すぐに乾くよ」

 うん。
 璃空は頷き、顔を上げた。

「……璃緒が待ってるから行かないと。目、赤いかな」

 まだ怖いだろうに。兄としての責任みたいなものだろうか。

 優斗は言いたいことを呑み込み、とりあえずは「少しね。ハンカチで冷やそうか」と小さく笑ってみせた。


 ホームに戻り、椅子に座りながら、水で濡らしたハンカチを目にあてる璃空。

「どう?」

「……気持ちいい」

「何か飲む? すぐそこに自販機があるから、買ってこようか」

「……リンゴジュースある?」

 えっと。
 優斗は振り返り、自動販売機を見た。

「あるよ。買ってくるね」

「……ありがとう」


 ごく。
 リンゴジュースを一口飲み、息を吐く。それを隣で見守っていた優斗は「落ち着いてきた?」と小さく訊ねてみた。

「うん。だいぶ落ち着いた」

 そう。
 優斗がほっとしたように口元を緩める。

 璃空は左手にある、水に濡れた優斗のハンカチを強く握りしめた。

「あの、ここから実家の最寄り駅まで三十分ぐらいなんだ。こんな遠くまで来てもらったうえに、あれなんだけど……一緒に電車、乗ってもらっていい?」

 優斗は間髪いれずに「当たり前だよ」と答えた。

「最初からそのつもりだったし、一人でなんて怖くて行かせられないよ」

 璃空は「そっか」と力なく頬を緩ませた。

「でも、無理はしないで。弟くんには悪いけど、俺は璃空の方が大事だから」

 目を僅かに丸くし、璃空が少し照れながら頷く。

 優斗の言葉は素直に嬉しい。何があっても、優斗が守ってくれる。男として情けないかもしれないが、そんな安心感を覚えた。

 正直、まだ怖い。あの男の顔はハッキリ脳裏に焼き付いたまま。見せつけられたあの行為。通常より、長い舌に思えた。まるで爬虫類のような不気味さ。汗でぬめっとした手の感触は、思い出すだけでぶるっと身体が震えた。


 電車がホームにゆっくりと滑り込んでくる。動きを止め、ドアが開く。優斗が横に並んで立つ璃空に「平気?」と訊ねる。璃空は優斗の服の端を掴みながら頷いた。
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