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王とは。国とは

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 地上へ続く階段をのぼりきると、門番である兵士たちが立っていた。一人はおろおろとしながら。そしてもう一人は、ずっと下を向いていた。子どもたちの何人かは、うつむく兵士にちらっと目を向けていたが、兵士は目を合わせようとはしなかった。

 前王のことを話した兵士とは、こいつのことかもしれないな。思いながら、アルオは拓けた場所まで歩き、愛馬のところまでくると足を止めた。後ろを振り返る。外の明かりに、眩しげに目を細める子どもたち。ずっと閉じ込められていたせいだろう。少し階段をのぼっただけなのに、もう息があがっている。

(──馬車が必要だな)

 アルオはまわりを見渡し、一歩、足を前に出した。間髪入れずに、子どもたちが必死に、アルオの手足にしがみついてきた。

「……や、やだっ」

「おいてかないで……っ」

 小刻みに震え、目に涙を浮かべる子どもたちの頭にそっと手を置き、アルオは「……ああ。置いていったりなどするものか」と囁いてから、面を上げた。

「──おい、そこのお前。いますぐここに馬車を持ってこい」

 柱の陰からアルオたちを見ていた兵士が「は、はい!」と、飛んでいった。他にも城で働く者たち数名がこちらを見てきている。

「あれは、上王陛下……?」

「本物、か?」

「……あの子どもたちは、いったい」

 それらを無視し、馬車を待つ。だがそれより前に、別の馬車が跳ね橋を渡ってきた。馬車の扉が勢いよく開き、中からロブが出てきた。子どもたちが、小さな悲鳴をあげた。

 それまで何の反応も示さなかった女の子が、小さく、けれど確かに、アルオの服を握ってきた。大丈夫だ。安心しろ。アルオが囁く。

 見覚えのある子どもたちの姿に、ロブの顔からさあっと一気に血の気が引いていく。アルオは子どもたちを背に隠すように、前に立った。

「今頃到着か。さてはお前、馬にも乗れないのか。呆れたな」

「う、うるさい! そんなことより、き、貴様は何をしている!!」

 アルオはすっと表情を消し「──それはこちらの科白だ。お前はいったい、この子どもたちに何をしていた?」と問うた。城の者たちは、何のことだとロブに視線を集中させた。

「そ、その子どもたちは孤児だ! 憐れに思い、余が引き取った! 何か文句でもあるのか?!」

 ロブが汗をかきながら、叫ぶ。事実がどうであれ、子どもたちがロブに抱いているのは愛着などではなく、恐怖だということは、誰の目にも明らかだった。

 アルオは右の手のひらをロブに向けた。ぎゃあ。ロブが悲鳴をあげ、臣下の背に隠れる。だがそんなことに意味はなく、アルオはロブを風で宙に浮かせた。高さにして、二階分ほどだろうか。

「──屑が。リオンを養子にして、何をするつもりだった?! 答えてみろ!!」

 ロブはそれどころではなく、宙で「あ、あああ……お、おろせ。おろせ!!」と涙と汗で顔をぐちゃぐちゃにしながら叫んでいた。見ている者の中には、王であるロブに普段から媚びへつらっている者もいたが、アルオに逆らってまで助けようとする者は、いなかった。

「な、何をしている! 誰でもいい! こいつを殺せ! こいつは王である余を殺そうとしているのだぞ!!」

 早くしろぉぉ!!
 ロブが宙で暴れる。瞬間。アルオは、魔法をといた。ロブが足から落ちる。落ちる。

 ぐちゃっ。

 ロブの足がつぶれる音が、鈍く響いた。

「……あ、あああ……痛い、痛いぃ……っっ」

 半狂乱になって、ロブが叫ぶ。子どもたちは、恐怖するどころか、ぽかんとしていた。

 いたい。いやだ。やめて。

 どんなに懇願しても、あの男はやめなかった。どころか、楽しそうに笑ってた。泣いても泣いても、誰も助けてくれなかった。それが当たり前だったのに。

 その男が、痛いと泣いている。そして、誰も助けようとしない。それが、とても不思議だった。

「あ、あの。馬車を……」

 真っ青な顔で、背後にきていた兵士が呟いた。アルオは「ああ」と振り向き、兵士が持ってきた馬車に愛馬をつなぎ、二頭立てにした。馬車の中に次々と子どもたちを乗せると、アルオは馭者席に座った。

 ロブが息も絶え絶えに「──は、跳ね橋をあげろぉ……っ!」と、地面に伏せながら小さく叫ぶ。

「あげてみろ、門番。お前ごと吹っ飛ばしてやってもいいのだぞ」

 瞳孔を開いたままのアルオに睨まれ、門番が腰を抜かす。その間に橋を渡りきったアルオはいったん馬車をとめ、風で橋を切り刻んだあと、また馬車を走らせた。
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