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第3章 『雪解け』
13.お願い
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「悪いな、副長さん。儂の介抱まで押し付けしまって……」
「いいから黙る。傷口開くよ。後は僕が何とかするから」
「ははっ、こいつぁ手厳し――痛っ」
身体各所、細かな傷のある漢那。
噛み傷に切り傷、打撲痕とあらゆる傷がついているのは、威吹山へと向かう道中にけしかけられた妖魔の大群に襲われた為だ。
相手は取るに足らない雑魚ばかりではあったが、その雑魚も数集まれば脅威ともなる。
数百にものぼる大群を相手取っていた中、命があるだけでも御の字というものだ。
それでも、動けない程に消耗していた漢那。一人で戻っていろ、とはいかず、肩を貸し、一度監視所まで戻って来ていた。
ユウを釣る為の餌として攫ったのであろう妖憑の台詞から、すぐには殺されないだろうことを漢那から聞くと、聊かの猶予はあるものだろうと予想は出来る。
ただ、退屈さから衝動的に殺されてしまうことも無いとは言えない。感情や思考力があるとは言え、そこに自制心まであるとは思えない。
「――っと。応急処置だけど、とりあえず終わったよ」
「かたじけない。副長さんも、行くなら少しは休んで行けな。あの妖憑って奴ぁ、自分より格下の妖魔を操ることが出来るみたいだからな。儂に群がっておった妖魔らも、それが原因よ。遠くの方に見えておった妖魔まで、急に進路を変えて儂に向かって来やがった」
「それであの数だったのか。分かった、ありがとう。でも、すぐに行くよ。ミツキと空を助けないと」
立ち上がり、再び監視所の外を目指し歩き出すユウだったが、その足取りは重く、遅い。
全速力である程度のところまで辿り着き、漢那共一度引き返し、そこからまた出ようとしているのだ。無理もない。
全身で汗をかき、その所為で落ち着いた身体は冷え、身震いまでしている始末だ。
「よせ、やめときな……」
引き留める漢那の言葉を背中に受けながらも、ユウは足を止めない。
「そうはいかないよ。だって――」
「よせ…………雪女さん」
「……っ……!」
気付き、振り向くより僅かに速く。
ユウは瞬く間に意識が薄れ、その場に倒れ込んでしまった。
「……ごめんなさい、ユウ」
その背後から現れた紗雪が、ユウの身体を抱きかかえ、寝かせている生存者の隣へとおろした。
「雪女さん、そいつぁ……」
「漢那さん。一つ、お願いがあります――」
「いいから黙る。傷口開くよ。後は僕が何とかするから」
「ははっ、こいつぁ手厳し――痛っ」
身体各所、細かな傷のある漢那。
噛み傷に切り傷、打撲痕とあらゆる傷がついているのは、威吹山へと向かう道中にけしかけられた妖魔の大群に襲われた為だ。
相手は取るに足らない雑魚ばかりではあったが、その雑魚も数集まれば脅威ともなる。
数百にものぼる大群を相手取っていた中、命があるだけでも御の字というものだ。
それでも、動けない程に消耗していた漢那。一人で戻っていろ、とはいかず、肩を貸し、一度監視所まで戻って来ていた。
ユウを釣る為の餌として攫ったのであろう妖憑の台詞から、すぐには殺されないだろうことを漢那から聞くと、聊かの猶予はあるものだろうと予想は出来る。
ただ、退屈さから衝動的に殺されてしまうことも無いとは言えない。感情や思考力があるとは言え、そこに自制心まであるとは思えない。
「――っと。応急処置だけど、とりあえず終わったよ」
「かたじけない。副長さんも、行くなら少しは休んで行けな。あの妖憑って奴ぁ、自分より格下の妖魔を操ることが出来るみたいだからな。儂に群がっておった妖魔らも、それが原因よ。遠くの方に見えておった妖魔まで、急に進路を変えて儂に向かって来やがった」
「それであの数だったのか。分かった、ありがとう。でも、すぐに行くよ。ミツキと空を助けないと」
立ち上がり、再び監視所の外を目指し歩き出すユウだったが、その足取りは重く、遅い。
全速力である程度のところまで辿り着き、漢那共一度引き返し、そこからまた出ようとしているのだ。無理もない。
全身で汗をかき、その所為で落ち着いた身体は冷え、身震いまでしている始末だ。
「よせ、やめときな……」
引き留める漢那の言葉を背中に受けながらも、ユウは足を止めない。
「そうはいかないよ。だって――」
「よせ…………雪女さん」
「……っ……!」
気付き、振り向くより僅かに速く。
ユウは瞬く間に意識が薄れ、その場に倒れ込んでしまった。
「……ごめんなさい、ユウ」
その背後から現れた紗雪が、ユウの身体を抱きかかえ、寝かせている生存者の隣へとおろした。
「雪女さん、そいつぁ……」
「漢那さん。一つ、お願いがあります――」
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