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2章 本編
19話 男装妻、勘違いが進む
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翌日、通常通り店を開けば女装したウェズがやってくる。入って早々大丈夫かと言ってくれることにウツィアは微笑んだ。
(推し、優しいのね)
ウツィアは一生推せそうと心の中でも微笑んでいた。
「助けてくれてありがとうございました」
「当然のことをしたまでだ」
「あと、ごめんなさい。あの二人捕まえたかったですよね……邪魔しちゃって」
「人命救助が最優先だから、あれが正解だった」
迷わず言うウェズがウツィアには嬉しかった。本日二度目の推し優しいが心の中で展開される。
あの男二人は結局見つからなかった。残念だけれど捜索は続けるらしい。やっぱりしていることが領地内騎士団の仕事だ。ウツィアは意を決して話を振る。
「あの……ウェズは騎士なんですよね?」
肩が鳴ったけれど、その反応はウツィアには見えていなかった。昨日の推しの格好良さを思い出して興奮している。
「あの身のこなし、剣の腕前、気迫、どれをとっても優秀な騎士としか思えなかったです!」
ウツィアの興奮した様子に戸惑いつつも、正体がバレていないと思えたウェズは安心した。
「黙っていてすまなかった」
「いいえ、元々そういうとこまで聞きませんし。僕も正体隠してましたし。あの……驚かないで下さいね?」
「?」
昨日見られてしまったのだから言うしかない。ウツィアは気合いを入れてウェズに迫った。
「僕……私の本当の名前はウツィア・ジビセルツァ・ポインフォモルヴァチ。ここの領主の妻なんです」
「……」
(知ってるけど、なんて言えばいいだろうか)
黙る女装ウェズにウツィアは仕方ないと思った。騎士であれば当然領主は知っているし、顔を出したことはなくても妻ができたことも知っているだろう。けれど街中で商売しているとは誰も思わないはずだ。
(言葉が出ないぐらい驚いてる……まあそうよね。領主の妻がお店を経営なんてしないもの)
それに毎日通うほど店を気に入っている客に対して嘘をついていたことになる。クレームを超えて不買行動に繋がりかねないと最悪の展開が頭をよぎった。
(推しにはお店に来てほしいけど、嫌と言われたらなにも言えないし)
ウェズは単純に自分の正体がバレないようになんて言えばいいか言葉を選んでいた。その様子を見てウツィアが先に口を開く。
「あの、それでも、ここに来てくれますか」
「……いいのか?」
「だって一番の常連さんですもん。来てくれて嬉しいに決まってます」
(推しを毎日見て癒されたいし)
「それなら……その言葉に甘えよう」
(嬉しい)
空気が和やかになったところで、ウツィアは念の為ききたいと切り出した。
「ウェズの好きな人って領主様じゃないですよね?」
「絶対違う」
同一人物である。
「本当に? あの、言い忘れてたんですけど、蠍座って基本嘘を嫌うタイプなんですけど、こと恋愛においては嘘をつけるんです。相手のことを想って嘘をついちゃうんです。だからその心配で……」
「ああ、違う。領主じゃない」
自分にはウツィアだけで、それ以外はあり得ないのにと思うウェズだった。
「あ、よかった」
嬉しい言葉に顔が緩み珍しい笑顔を見せた。その表情にウェズはどきりとする。
(なんでそんなに嬉しそうな顔をする? そんな顔をされると期待してしまうんだが……いけない、動揺する。抑えねば)
ウェズが内心慌てている間、ウツィアは気づいた。
(いけない。つい自分のことばっかり考えてたわね)
自分が安心する為に推しの想い人を確認するなんて不届き者だと自分を嗜めた。推しの幸せも祈ってるのにと心の中で叫ぶ。
「……明日も来る」
「はいっ」
これ以上動揺してはたまらない。いつもより少し早いが帰ることにしたウェズに疑問を抱かず、いつも通り店の出入り口まで見送る。変わらずクールに去っていく自身の推しに癒されつつ、折角だから閉店の準備をと看板を移動しようとした時、女装したウェズに近づく騎士が見えた。
(旦那様の側仕えの……カツペルという名だったわね)
気になってしまい、二人が見える場所まで近づく。いくらか会話し頷いた後、カツペルが用意しただろう馬車にウェズが入った。
(随分信頼してる感じ)
そのまま屋敷とは異なる方へゆっくり馬車が進み角を曲がって見えなくなる。思えばカツペルはいつも領主であるウェズの側にいる為、こうして単独行動をとることはないと思っていた。側仕えは往々にしてそういうものだと考えていたけれど、わざわざ公爵家の馬車を出してまで一人の騎士を迎えに行くなんてことはしないはずだ。
(……まさか)
ピンときた。これは間違いない。
「そっか! 推しの好きな人、旦那様じゃなくてカツペルだったんだわ!」
* * *
翌日。
店にて女装したウェズに、にこにこ満面の笑みで男装ウツィアが爆弾を投下した。
「ウェズの好きな人って、領主様の側近の騎士様なんですね! 気づきませんでした!」
「どうしてそうなった」
女装したままにも関わらず、ウェズがドン引きしたのは言うまでもない。
(推し、優しいのね)
ウツィアは一生推せそうと心の中でも微笑んでいた。
「助けてくれてありがとうございました」
「当然のことをしたまでだ」
「あと、ごめんなさい。あの二人捕まえたかったですよね……邪魔しちゃって」
「人命救助が最優先だから、あれが正解だった」
迷わず言うウェズがウツィアには嬉しかった。本日二度目の推し優しいが心の中で展開される。
あの男二人は結局見つからなかった。残念だけれど捜索は続けるらしい。やっぱりしていることが領地内騎士団の仕事だ。ウツィアは意を決して話を振る。
「あの……ウェズは騎士なんですよね?」
肩が鳴ったけれど、その反応はウツィアには見えていなかった。昨日の推しの格好良さを思い出して興奮している。
「あの身のこなし、剣の腕前、気迫、どれをとっても優秀な騎士としか思えなかったです!」
ウツィアの興奮した様子に戸惑いつつも、正体がバレていないと思えたウェズは安心した。
「黙っていてすまなかった」
「いいえ、元々そういうとこまで聞きませんし。僕も正体隠してましたし。あの……驚かないで下さいね?」
「?」
昨日見られてしまったのだから言うしかない。ウツィアは気合いを入れてウェズに迫った。
「僕……私の本当の名前はウツィア・ジビセルツァ・ポインフォモルヴァチ。ここの領主の妻なんです」
「……」
(知ってるけど、なんて言えばいいだろうか)
黙る女装ウェズにウツィアは仕方ないと思った。騎士であれば当然領主は知っているし、顔を出したことはなくても妻ができたことも知っているだろう。けれど街中で商売しているとは誰も思わないはずだ。
(言葉が出ないぐらい驚いてる……まあそうよね。領主の妻がお店を経営なんてしないもの)
それに毎日通うほど店を気に入っている客に対して嘘をついていたことになる。クレームを超えて不買行動に繋がりかねないと最悪の展開が頭をよぎった。
(推しにはお店に来てほしいけど、嫌と言われたらなにも言えないし)
ウェズは単純に自分の正体がバレないようになんて言えばいいか言葉を選んでいた。その様子を見てウツィアが先に口を開く。
「あの、それでも、ここに来てくれますか」
「……いいのか?」
「だって一番の常連さんですもん。来てくれて嬉しいに決まってます」
(推しを毎日見て癒されたいし)
「それなら……その言葉に甘えよう」
(嬉しい)
空気が和やかになったところで、ウツィアは念の為ききたいと切り出した。
「ウェズの好きな人って領主様じゃないですよね?」
「絶対違う」
同一人物である。
「本当に? あの、言い忘れてたんですけど、蠍座って基本嘘を嫌うタイプなんですけど、こと恋愛においては嘘をつけるんです。相手のことを想って嘘をついちゃうんです。だからその心配で……」
「ああ、違う。領主じゃない」
自分にはウツィアだけで、それ以外はあり得ないのにと思うウェズだった。
「あ、よかった」
嬉しい言葉に顔が緩み珍しい笑顔を見せた。その表情にウェズはどきりとする。
(なんでそんなに嬉しそうな顔をする? そんな顔をされると期待してしまうんだが……いけない、動揺する。抑えねば)
ウェズが内心慌てている間、ウツィアは気づいた。
(いけない。つい自分のことばっかり考えてたわね)
自分が安心する為に推しの想い人を確認するなんて不届き者だと自分を嗜めた。推しの幸せも祈ってるのにと心の中で叫ぶ。
「……明日も来る」
「はいっ」
これ以上動揺してはたまらない。いつもより少し早いが帰ることにしたウェズに疑問を抱かず、いつも通り店の出入り口まで見送る。変わらずクールに去っていく自身の推しに癒されつつ、折角だから閉店の準備をと看板を移動しようとした時、女装したウェズに近づく騎士が見えた。
(旦那様の側仕えの……カツペルという名だったわね)
気になってしまい、二人が見える場所まで近づく。いくらか会話し頷いた後、カツペルが用意しただろう馬車にウェズが入った。
(随分信頼してる感じ)
そのまま屋敷とは異なる方へゆっくり馬車が進み角を曲がって見えなくなる。思えばカツペルはいつも領主であるウェズの側にいる為、こうして単独行動をとることはないと思っていた。側仕えは往々にしてそういうものだと考えていたけれど、わざわざ公爵家の馬車を出してまで一人の騎士を迎えに行くなんてことはしないはずだ。
(……まさか)
ピンときた。これは間違いない。
「そっか! 推しの好きな人、旦那様じゃなくてカツペルだったんだわ!」
* * *
翌日。
店にて女装したウェズに、にこにこ満面の笑みで男装ウツィアが爆弾を投下した。
「ウェズの好きな人って、領主様の側近の騎士様なんですね! 気づきませんでした!」
「どうしてそうなった」
女装したままにも関わらず、ウェズがドン引きしたのは言うまでもない。
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