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2章 本編
56話 ウェズの過去
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ウツィアが意図してその茶を選んだわけではないと分かっているものの、その一致が嬉しい。
茶を飲むとウェズの肩の力が抜ける。思っていた以上に緊張を解いてくれた夫を見て、ウツィアも安心して話を進められた。
「ウェズ、なんて書いてあったんですか」
「……」
「ウェズが悩むなら、私も一緒に悩みたいんです」
「ウツィア……」
話してもらえませんかと真剣に訴えるウツィアに泣きそうになる。どうして一緒にと考えてくれるのだろうか。その献身的な姿が最初から、王城で出会った時から好ましかった。
「私、ウェズの口からご家族のことをあまり聞いてなかったですね。今までごめんなさい。辛いことを思い出させてしまうかもしれないけど、半分私が背負いますから」
「ウツィア」
話す以前に抱きしめて好きだと伝えたくなるのをさすがに場違いだと自分を諫めてウェズは自身の生い立ちの話をすることにした。
兄は養子で、ウェズとは血が繋がっていない。子供を成すことに反対した祖母がすすめた末に引き取った養子が兄。母が生きていた頃は兄をとても可愛がっていたという。
母はウェズを産んで直ぐに、父親は兄とウェズに対し平等に愛情を持って育てていたが、ウェズが十五になって流行り病で亡くなった。
兄はウェズに家を出るよう言い、訳を聞いても何も話さない。執事長のマテウシュ、料理長のパトリック、侍女長のユーリアを連れていかせ、その三人も事情を知っているようだったけれどウェズには何も話さなかった。
納得のいかない部分があったけれど、兄に追い出されたという思いは強く残った。ずっと優しい兄が急に冷たくなったのも大きい。
(ウェズの御祖母様も亡くなってたはず……肉親は御兄様だけということね)
孤児院に世話になっている時に、王女のキンガと王子のスポクイが迎えに来たと言って現れる。その時に兄が自分を家から出した理由を知った。
ウェズは王族の血を継いでいた。 彼が七歳の時に亡くなった祖母が王族 で、王女と王子との関係ははとこ。
(だから二人と仲が良かったのね)
王族周辺で後継者について内々で争いであり、ウェズを巻き込もうとする貴族の動きを察した兄は、ウェズは父と同じ流行り病で死んだこととし、王子と王女に保護を求めた結果、秘密裏に入城する。保護が遅れたのは王城でごたついていたから。
ウェズの兄から口止めされていたにも関わらず「事実を自分で判断しろ」と王女キンガが言い放った。弟を守ろうとした末に家を出した兄。ウェズは追い出された時の冷たい兄が忘れられず再び対面し確認することができなかった。
逃げるように戦争へ参加し武功を上げ、伯爵位から公爵位まで得る。その頃には後継の話はおさまっていた。それでもウェズは兄の元に怖くて行けなかった。
今回の手紙の最後にはこれを機に話をしろと王女キンガの端的な言葉で終わっていたという。
「……なら、行くしかないと思います」
「今更だ。事実を知っていて敢えて会わなかった私を兄がよく思うはずがない」
「ウェズはどう思ってますか?」
「え?」
兄がウェズをどう思うかではなくて、ウェズ自身が兄に対してどう思っているかだとウツィアは言った。
「お兄様のこと、今でも嫌いですか? 顔も見たくない?」
「そんなことはない」
「怖いなら一緒に行きます」
「ウツィア」
「側にいて一緒に話をします。だから会って話をしてみませんか」
膝に置いていた手にウツィアの手が重なる。
この機会を逃したらウェズは一生兄に会うことはないとウツィアは考えていた。今しかない。
「……行きたい」
「はい」
「話を、してみたい」
「はい」
「……一緒に、来てくれるか」
「もちろんです」
ウェズの手がウツィアの手を取り指を絡めて握る。
急いで出立の準備がなされた。
茶を飲むとウェズの肩の力が抜ける。思っていた以上に緊張を解いてくれた夫を見て、ウツィアも安心して話を進められた。
「ウェズ、なんて書いてあったんですか」
「……」
「ウェズが悩むなら、私も一緒に悩みたいんです」
「ウツィア……」
話してもらえませんかと真剣に訴えるウツィアに泣きそうになる。どうして一緒にと考えてくれるのだろうか。その献身的な姿が最初から、王城で出会った時から好ましかった。
「私、ウェズの口からご家族のことをあまり聞いてなかったですね。今までごめんなさい。辛いことを思い出させてしまうかもしれないけど、半分私が背負いますから」
「ウツィア」
話す以前に抱きしめて好きだと伝えたくなるのをさすがに場違いだと自分を諫めてウェズは自身の生い立ちの話をすることにした。
兄は養子で、ウェズとは血が繋がっていない。子供を成すことに反対した祖母がすすめた末に引き取った養子が兄。母が生きていた頃は兄をとても可愛がっていたという。
母はウェズを産んで直ぐに、父親は兄とウェズに対し平等に愛情を持って育てていたが、ウェズが十五になって流行り病で亡くなった。
兄はウェズに家を出るよう言い、訳を聞いても何も話さない。執事長のマテウシュ、料理長のパトリック、侍女長のユーリアを連れていかせ、その三人も事情を知っているようだったけれどウェズには何も話さなかった。
納得のいかない部分があったけれど、兄に追い出されたという思いは強く残った。ずっと優しい兄が急に冷たくなったのも大きい。
(ウェズの御祖母様も亡くなってたはず……肉親は御兄様だけということね)
孤児院に世話になっている時に、王女のキンガと王子のスポクイが迎えに来たと言って現れる。その時に兄が自分を家から出した理由を知った。
ウェズは王族の血を継いでいた。 彼が七歳の時に亡くなった祖母が王族 で、王女と王子との関係ははとこ。
(だから二人と仲が良かったのね)
王族周辺で後継者について内々で争いであり、ウェズを巻き込もうとする貴族の動きを察した兄は、ウェズは父と同じ流行り病で死んだこととし、王子と王女に保護を求めた結果、秘密裏に入城する。保護が遅れたのは王城でごたついていたから。
ウェズの兄から口止めされていたにも関わらず「事実を自分で判断しろ」と王女キンガが言い放った。弟を守ろうとした末に家を出した兄。ウェズは追い出された時の冷たい兄が忘れられず再び対面し確認することができなかった。
逃げるように戦争へ参加し武功を上げ、伯爵位から公爵位まで得る。その頃には後継の話はおさまっていた。それでもウェズは兄の元に怖くて行けなかった。
今回の手紙の最後にはこれを機に話をしろと王女キンガの端的な言葉で終わっていたという。
「……なら、行くしかないと思います」
「今更だ。事実を知っていて敢えて会わなかった私を兄がよく思うはずがない」
「ウェズはどう思ってますか?」
「え?」
兄がウェズをどう思うかではなくて、ウェズ自身が兄に対してどう思っているかだとウツィアは言った。
「お兄様のこと、今でも嫌いですか? 顔も見たくない?」
「そんなことはない」
「怖いなら一緒に行きます」
「ウツィア」
「側にいて一緒に話をします。だから会って話をしてみませんか」
膝に置いていた手にウツィアの手が重なる。
この機会を逃したらウェズは一生兄に会うことはないとウツィアは考えていた。今しかない。
「……行きたい」
「はい」
「話を、してみたい」
「はい」
「……一緒に、来てくれるか」
「もちろんです」
ウェズの手がウツィアの手を取り指を絡めて握る。
急いで出立の準備がなされた。
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