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2章 本編
58話 拒絶
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「別の部屋に案内します。お茶を出しましょう」
「ありがとうございます」
部屋を出るとトゥニチェが柔らかい雰囲気を纏った。緊張が和らいだと言っていい。
「本当に素晴らしい奥様を見つけたのね、あの子」
「そ、そんな」
ここに来る前に出たカード、話し合うべきはウェズとウェズの兄でだったのかと思いながら、このままうまくいくことを祈った。
「あの子、昔から大人しくて言葉少ない子だったけど、どうでしょう? 結婚生活は大丈夫かしら?」
「最近はよく話してくれるようになったので大丈夫です」
「私と彼は結婚が遅れたのもあったし、ずっと幸せになるわけにはいかないって言ってて子供も望めなかったの。だからそっちはよろしくお願いしたいわ」
「あはは」
ここに来る間に夫の話を聞いた。
血筋の問題、母親の死、兄の裏切り、加えてあまり良い話を聞かない世間での評判。
色んな事情が絡み合って、ウェズは子を望まなくなったのではとウツィアは考えた。
ならそれを一緒に乗り越えたいとウツィアは思う。
「公爵夫人、よければ少し私の話を聞いて下さるかしら」
「はい」
別部屋に案内され、お茶を頂きながらウェズのことを聞かされる。
小さい頃は三人でよく遊んだ可愛いらしい過去から、ウェズの兄ポチヴャーチがずっとウェズのことを案じていた今の今までのこと全てを。
継承問題に巻き込まれないよう家から出し、秘密裏に王族に助けを求めても、戦争に出て行ってしまったウェズがずっと気がかりだったという。挙句、武功をたてたものの顔に大怪我を負ったと聞いた日には後悔し、暫く眠れない日々を過ごしたと。
ウェズとポチヴャーチは十歳も離れている。今回の大きな海賊との戦いはウェズの兄にとって厳しいものとなった。同時期にウツィアとの結婚の知らせを耳にし倒れてしまった。
「大事に考えていらっしゃるのですね」
「最後に残った家族だったから尚更でした。爵位を継がせて海賊相手にさせるのも嫌だったみたいだし、兎に角安全な場所へ行かせたかったようで。争いに巻き込みたくなかったのに結局裏目に出てあの子は凄腕の戦争英雄になっちゃったから本当不思議よね」
でも貴方がいれば大丈夫、とトゥニチェが微笑んだ。
「すぐに分かったわ。あの子がいかに夫人を大事にしているか。これでポチヴャーチも安心するでしょう」
「そうでしょうか」
トゥニチェが耳にした戦争英雄の固い姿と違い、妻を気遣い妻だけを優しく見つめる姿には本当に安心した。まだまだ互いの思いが分かりにくくても、この二人なら夫婦としてやっていけると思える。
兄ポチヴャーチに夫婦揃って会いに来た時点でトゥニチェはウツィアのことを一目置いていた。ウェズだけでは来ないことを知っていたからだ。兄も弟も揃って傷つきやすく臆病な部分はよく似ている。
「自信を持って。確かに悩むこともあると思うけど、あの子がここまで変わったのは貴方のおかげだわ」
「……はい」
そろそろ戻りましょうと再びウェズの元へ戻ることとなった。
すっかりウツィアを気に入ったトゥニチェが「これからは遊びに来てね」と笑う。事情が事情で緊張した場だったけれど、本来は明るい女性なのだとウツィアは感じた。
そして部屋の前に来た時、ウェズたちの会話が聞こえてしまう。
「お前はそれでいいのか」
「自分では幸せにできないし、分不相応です」
「誰が見ても、お前が夫人を大切にしているのは分かる。奥方だってお前のことを想っていることが分かるのに、何故そこまで頑ななんだ」
「……」
(私のこと?)
トゥニチェが心配そうにウツィアを見るも、ウツィアは会話が気になって何も言えず目配せすらも出来なかった。
「私はこの顔から怪物と呼ばれ、年齢も離れています。彼女にはもっと相応しい者がいるはずです」
「お前の気持ちはどうなんだ」
「私の気持ちがどうあろうとも、彼女が自由に生きることが第一です」
だから、と続く先の言葉聞きたくなかった。
「だから、子は成しません」
「ありがとうございます」
部屋を出るとトゥニチェが柔らかい雰囲気を纏った。緊張が和らいだと言っていい。
「本当に素晴らしい奥様を見つけたのね、あの子」
「そ、そんな」
ここに来る前に出たカード、話し合うべきはウェズとウェズの兄でだったのかと思いながら、このままうまくいくことを祈った。
「あの子、昔から大人しくて言葉少ない子だったけど、どうでしょう? 結婚生活は大丈夫かしら?」
「最近はよく話してくれるようになったので大丈夫です」
「私と彼は結婚が遅れたのもあったし、ずっと幸せになるわけにはいかないって言ってて子供も望めなかったの。だからそっちはよろしくお願いしたいわ」
「あはは」
ここに来る間に夫の話を聞いた。
血筋の問題、母親の死、兄の裏切り、加えてあまり良い話を聞かない世間での評判。
色んな事情が絡み合って、ウェズは子を望まなくなったのではとウツィアは考えた。
ならそれを一緒に乗り越えたいとウツィアは思う。
「公爵夫人、よければ少し私の話を聞いて下さるかしら」
「はい」
別部屋に案内され、お茶を頂きながらウェズのことを聞かされる。
小さい頃は三人でよく遊んだ可愛いらしい過去から、ウェズの兄ポチヴャーチがずっとウェズのことを案じていた今の今までのこと全てを。
継承問題に巻き込まれないよう家から出し、秘密裏に王族に助けを求めても、戦争に出て行ってしまったウェズがずっと気がかりだったという。挙句、武功をたてたものの顔に大怪我を負ったと聞いた日には後悔し、暫く眠れない日々を過ごしたと。
ウェズとポチヴャーチは十歳も離れている。今回の大きな海賊との戦いはウェズの兄にとって厳しいものとなった。同時期にウツィアとの結婚の知らせを耳にし倒れてしまった。
「大事に考えていらっしゃるのですね」
「最後に残った家族だったから尚更でした。爵位を継がせて海賊相手にさせるのも嫌だったみたいだし、兎に角安全な場所へ行かせたかったようで。争いに巻き込みたくなかったのに結局裏目に出てあの子は凄腕の戦争英雄になっちゃったから本当不思議よね」
でも貴方がいれば大丈夫、とトゥニチェが微笑んだ。
「すぐに分かったわ。あの子がいかに夫人を大事にしているか。これでポチヴャーチも安心するでしょう」
「そうでしょうか」
トゥニチェが耳にした戦争英雄の固い姿と違い、妻を気遣い妻だけを優しく見つめる姿には本当に安心した。まだまだ互いの思いが分かりにくくても、この二人なら夫婦としてやっていけると思える。
兄ポチヴャーチに夫婦揃って会いに来た時点でトゥニチェはウツィアのことを一目置いていた。ウェズだけでは来ないことを知っていたからだ。兄も弟も揃って傷つきやすく臆病な部分はよく似ている。
「自信を持って。確かに悩むこともあると思うけど、あの子がここまで変わったのは貴方のおかげだわ」
「……はい」
そろそろ戻りましょうと再びウェズの元へ戻ることとなった。
すっかりウツィアを気に入ったトゥニチェが「これからは遊びに来てね」と笑う。事情が事情で緊張した場だったけれど、本来は明るい女性なのだとウツィアは感じた。
そして部屋の前に来た時、ウェズたちの会話が聞こえてしまう。
「お前はそれでいいのか」
「自分では幸せにできないし、分不相応です」
「誰が見ても、お前が夫人を大切にしているのは分かる。奥方だってお前のことを想っていることが分かるのに、何故そこまで頑ななんだ」
「……」
(私のこと?)
トゥニチェが心配そうにウツィアを見るも、ウツィアは会話が気になって何も言えず目配せすらも出来なかった。
「私はこの顔から怪物と呼ばれ、年齢も離れています。彼女にはもっと相応しい者がいるはずです」
「お前の気持ちはどうなんだ」
「私の気持ちがどうあろうとも、彼女が自由に生きることが第一です」
だから、と続く先の言葉聞きたくなかった。
「だから、子は成しません」
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