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2章 変態宰相公爵の、魔女への溺愛ストーカー記録

101話 絆された

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 男性として好きなら、その言葉を聞きたいとサクが迫る。

「こ、ここで?」
「ええ」

 気持ちが固まったからフィクタを超える決意をした。けど超えた先はあまりしっかり考えてなかったから、どう伝えればいいか分からなくて戸惑ってしまう。
 でもいつかは言わないといけない。きちんととかちゃんとと言いつつ具体的には考えてなかった。

「クラス」
「……」
「ちゃんと聞かせて?」

 今日は逃がしてあげないとサクが笑う。言うしかないってことじゃないの。
 そんな意地悪しなくたっていいのに。抗議の声でもあげようと目を合わせると虹色に輝く瞳になにも言えなくなる。
 サクはずっと待ってた。たぶん早い段階から私がサクに心寄せていたと分かっていて。

「うぐぐ……」
「クラス」

 旧ステラモリスで一緒に暮らすようになってから? もしかしたら子供だ子供だと言ってた十年前から? 子供だと言い聞かせて子供だと見てなかった?
 考えすぎると分からなくなる。それを察してか握る手にきゅっと力が入った。
 やっぱり云うまで逃がす気はないらしい。散々甘やかしてたくせに。

「……」
「……」
「…………好、き」
「ん」
「サクが、好き、よ」

 再び瞳に虹がかかり、煌めきに深みが増す。私の告白に驚いてるわけでもないくせに目を開いて次に細められたのを最後に視界を塞がれた。

「さ、サクっ」
「やっとかあ」

 ぎゅうぎゅうに抱き締められる。
 この一年寝る時だけ抱き締められ、何度か抱き上げられたり腰や肩を抱かれたりしてきたけど、やっぱり抱き締められるのには慣れない。というよりも、今日のは特段いつもと違う気がした。

「あ、う……」
「十年かかった」
「十年会ってなかったじゃない」

 十年前一緒に来てくれたらイルミナルクスで即結婚してたと笑う。抱き締めた腕の力を少しゆるめてくれたので見上げてみる。

「年齢的に無理でしょ」
「捻じ込みますよ」

 そんな無茶をと囁くとなんてことない様子で、法は原則しか書いてありません、例外が使えますのでと言ってくる。本当にやる気だったのかと少し引いた。

「そういうとこに頭使わないでよ」
「繋がりがなくてもこのぐらいならやれるし」
「ええ……」

 というか倫理上の観念がサクと私で違う。一年かけて行った再教育は無駄でした? そんな悲しすぎる。

「クラスはこの一年で僕を変えてくれましたよ?」
「なぜ考えてることが分かった」
「顔に出てる」
「ぐっ……」
「この一年というよりは十年前の半年が一番ですが」

 見上げるとサクが屈んでおでこを合わせてきた。恥ずかしくて身体を引こうとしてもがっちりおさえられて離れることができない。

「正直クラスが僕を逃がした時そうしてくれたように、自分の身を粉にしてでもクラスを守ろう生かそうと思ってました。けど一緒にいると離れがたくなった。クラスは自分が生きようと思って前に進みましたけど、僕も同じだったんです」

 一年一緒に暮らした時間が離れがたくした。自分を犠牲にしてでも私の自由をと考えていたのを一緒にと思えるようになってくれた。

「だから精霊王に確認した繋がりの緩和をできるかやっていたんです」
「そっか……」
「クラスはどうです?」
「え?」
「美味しいご飯にあたたかいお風呂、イケメンの添い寝つきで離れがたくなったでしょ?」

 いやらしい笑い方……からかってる。

「イルミナルクスにはリーディングヌックがあるし、ステラモリスでは一緒に農作業もできる。ウニバーシタスはまあおまけですかね。クラスが心許した付き合いやすい侍女侍従がいますし、僕はクラスとの時間を大事にするので放っておく事なんてしませんよ?」

 出来立てピザに焼きたてのパンも当たり前になってしまった。広い湯船につかるのもだ。
 なんでもサクがやってくれるようになって、それが当たり前になってしまった。もう名実ともにサクなしでは生きていけない身体になった気がする。
 ここでそれを翳してくるなんて本当にいやらしいんだから。

「…………意地悪」
「なんとでも」

 で、どうなんです? と再度問われたのでむすっとしたまま応える。たぶん顔は赤い。

「……絆された」
「ええ」
「甘やかされてる」
「勿論。というわけで、キスしましょうか」
「どうしてそうなるの?!」

 当たり前のような空気出されても困る。
 サクがおでこを話して少し遠くを見た。次にドラゴンとフェンリルは今見てませんよと笑う。

「や、まだ心の準備が……」
「えー? クラスの読むロマンス小説の四割が最終話キスで終わってますよね」
「はい?」
「キス四割、結婚式三割、子供産む後日譚二割、その他一割」

 把握していて引いた。確かに私の好んで読むロマンス小説のエンディングはキスと結婚で半数は占めているけど。まさか読んだの? 全部読んで統計とったの?

「いいじゃないですか、絆されたんでしょ?」
「自分で言う?」

 ふふふふといつも通り含みのある笑いをして誤魔化している。
 文句言っても非難の目を向けたところで、サクの余裕は変わらないと分かっているけど腑に落ちない。なんだか悔しいわ。

「……絆されてる」
「ならいいですね」

 無言でぶすっとしたまま見上げると、そんな顔しないでと頬を撫でた。可愛いからいいけどとも囁く。なにしたってどんな顔したってサクには効き目がない。

「目、閉じて」

 甘えるような声音につい目元が緩む。私ってばやっぱりサクに甘い。

「ずっと好きで、ずっと待ってたんです」
「……ん」

 とても優しく触れてくる感覚に言いようのないあたたかさが身の内に広がった。
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