旦那様を救えるのは私だけ!

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29話 敵の密会現場を目撃

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 旦那様の洗脳が解けかけているのは事実だと思う。
 けど、その後少しが難しい。
 今日、庭の奥で戦うことをもう一度してみたけど、旦那様は洗脳の効果に苦しんで唸るだけだった。
 苦しむ状態で洗脳を解くのはよくない。スプリミのパラシアリダ戦で実証済みだから。

「王城で戦わないといけないのね」

 旦那様との最終戦は、スプレ二十一話の悲劇を別荘で経て、ここ王城に戦いの場が移る。王城の奥まった庭の一つで起こる激しい戦い。
 訓練場と話が違い、熾烈を極め、ついでに言うなら作画と演出が良いと評判の回だ。

「あら?」

 今日は祝日。
 日中から王城で練習をしていた合間に、アドルフォを連れて王城内にある王室図書館で本を探していた。
 けど、そのアドルフォがいない。
 出入口に見張りはいるから、アドルフォがいなくても問題はないだろうけど、何も言わないままいなくなるのはおかしい。

「それで、進捗はどうなのだ」
「ええ、順調ですよ。滞りなく」

 妙な違和感。
 遠かった声が気になって棚の間を縫って近づいた。
 棚一つ挟んだ向こう側で会話は続く。

「巷を賑わせている戦士とやらは」
「アルコとフレチャに気を取られているので、騎士団共々こちらに気づくことはないでしょう」
「そうか」

 一人は知っている。
 もう一人はわからない。
 けど、意図的に声を変えているのが分かる。
 何の為に声を変える必要があるのかしら?

「……」
「日はまだある。油断はするな」
「承知しておりますよ」

 いいえ、この声を知っている。
 テレビの向こうで何度も聞いた。

「このままいけば、この国は想定通り落ちましょう。何か気掛かりな事があるのですか」
「常に憂慮し、思考を止めない方が良いという事だ」
「オスクロは心配性ですねえ」
「!」

 やはりオスクロ。
 王城にひそりと入り込み、内側から蝕み続けている、私達戦士が倒すべき悪の統治者。
 なんてこと、敵の密会場に鉢合わせるなんて。

「お前が楽観的なだけだろう」
「信じているだけですよ」

 二人相手は厳しいかしら。
 特に片方はオスクロ。私一人でどうにかするには心許ない。
 いえ、でも敵を目の前にしているのに、何もしないだなんて。

「お二方」
「!」

 とん、と音がする。
 足音に合わせて、一定のリズムで奏でられているのは、杖の音。
 あの日、アルコとフレチャを逃がした魔法の発生源はこの杖の音で間違いない。
 だって杖に魔法の力が宿っている。
 普段なら気づかないぐらい、僅かに音が違う。

「ここを離れた方がよいかと」
「どうしました?」
「一人、かけた魔法に抵抗した者が警備隊に見つかりました。貴方、きちんと魔法をかけなかったのでは」

 おやおやとわざと驚いたような声を上げる。

「この国の者は優秀ですね」
「茶化すでない。わざとそう仕掛けたわけではないだろうな?」
「まさか」
「……どちらにしろ、騎士団長が自ら動いている」
「おやおや」

 旦那様の事だから、原因を突き止め、ここに辿り着くのは目に見えている。
 焦るのも無理はないわ。
 杖の主が溜息を吐いた。そしてオスクロを呼ぶ。

「オスクロ、参りましょう」

 その時、杖の音の主が隙間からちらりと見えた。
 予想通り、その杖を持つのは唯一人。
 そして、社交界でも劇場でも、アルコとフレチャの為に行動出来るのは、この人物しかない。
 同時、隙間から見えたオスクロは見た事のないローブを纏い、目深にフードを被っているからか顔すらも見えなかった。

「……戦士を名乗る件の人物には気をつけろ」
「はい、承知しました」
「!」

 去る気配がするのに、オスクロの足音はしなかった。
 どこまで用心深いの。声まで変えて足音も消す。
 けれど、きちんと私の事は敵だと認識しているのね。
 やはり倒すべきはオスクロ、悪を討つことを躊躇ってはいけないのだわ。

「!」

 杖の主とオスクロが出て行く気配と音を確認した。けれど、もう一人は出入口に向かわず、こちらの方へ向かってきた。
 人がいたら戦えないと、急いで棚の奥へ進んだというのに、図書館は先程と打って変わり、人が全くいなかった。
 まさか意図的に人を退けた?
 そうだ、先程言っていたわ。
 きちんと魔法をかけなかったのでは、と。
 つまり、強制的にここから人を退かせた。その言われた人物は、今ここに留まっている。

「おや」
「!」

 最奥の角を曲がろうとしたら先回りされた。
 ぶつかりそうになるのを装いながら、さらに近づいて来るのをなんとか後ろに引いて避ける。

「失礼。クラメント公爵夫人でしたか」
「……こちらこそ失礼しました。前を注意して見てなかったようです」
「いえ。それにしても驚きました」
「え?」

 効かない人間がいるなんて、という囁きは私の耳にしっかり届いた。
 けれど相手は届いてないと思ったようで、にこやかに笑う。
 変身すべき?
 こんな狭い所で戦うなんて、スプリミではなかったけど。

「クラシオン!」
「!」

 背後で私を呼ぶ声がした。
 振り向くと旦那様が息を切らせて、こちらに向かって来る。
 思わず手を伸ばした。
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