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7話 開戦
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知らせを聞いて国の境の城壁を出た平原で一度帝国と戦った。
あくまで様子見、力量の確かめと言わんばかりで、少し戦えば帝国側はすぐに撤退した。遠くに帝国の旗が見えたから、その先にまだ多くの騎士がいるのは明白だ。撤退した帝国武力を見届け、私は本来の役目である王女殿下の側に戻ることになった。
「おかえり、どうだった?」
「お互い様子見の小競り合いです。大した勢力ではなかったので次が本番でしょう」
学舎にいる間、何度も帝国は周辺諸国に武力侵攻を行い併合してきた。武力侵攻された国の騎士も当然学舎にいる。陰湿な嫌がらせを黙らせてからは、敵意のある者は必要以上に関わらなかった。敵意がなくてもそれなりに気まずい雰囲気はあったが、まさか自分がその立ち位置に入ると思うとじわりと体温が下がる。
「ユツィ、本当にいいの?」
「何を迷う事がありますか?」
私が王女殿下の側を離れないのが不服のようだ。
「私はファーブラの専属護衛です。お側にいます」
ここまできたのなら、お側にいなくてはいけない。両陛下も王女殿下も戦う意志を示した。なら私は最後まで随伴するべきだ。
「貴方も難儀よねえ……」
私達と同じ騎士服に着替え剣を持つ殿下はお伽噺の英雄のようだった。その英雄は私に苦笑した後、ゆっくり瞼を閉じて静かに瞼を上げる。表情の硬さを見て、自然と膝をつき殿下の言葉を待った。
「ならユツィ……ユースティーツィア、王女として命じます」
「はい」
跪いて見上げる殿下の瞳には悩み苦しんだ色合いが見える。
「自決は許しません。生きなさい」
「な、殿下、それは!」
「王国が滅んでも生き延びて」
「そんなっ」
両陛下は自決を覚悟の上で臨もうとしているのは周知の事実だった。火急の事態に両陛下の元に集まった騎士の中に私の家族もいて、王国が帝国に破れるなら自決も考えているとはっきり言っていたのに、目の前の主はそれを望まない。
「私の周囲全てにその旨を伝えています。両陛下も自分達の進退は置いて、王国民には自身の判断で投降するよう触れを出しているわ。知っているでしょ?」
「我々は両陛下、殿下の為であれば命など惜しくありません」
「それももう時代錯誤よ。ユツィ、あなたは騎士なんてやめて素敵な旦那さんと一緒になって野菜でも育てながら過ごせばいいの」
何を言っているのか理解出来ない。
宣戦布告には時間が与えられ、レースノワレ王国が返事をするまでの間に並行して戦の準備も出来た。帝国の考えはさておき、最初の小競り合いもただの時間とりだ。王国は万全を期している。けど、負けを知らない帝国に勝てるのかという疑問はあった。
多くの王国民がそう感じていたのだろう。周囲の雰囲気は重く暗かった。王国が滅びる未来を思いながら戦いに出向けばそれが戦いにまま反映する。それを国民は理解しているのに、敗戦を基準にする空気が拭えない。それには納得がいかなかった。
そんな国民の士気を鑑みて殿下はあのような言葉を選んだ? たとえそうだとしても頷けなかった。
「……嫌です」
「ユツィ……」
「私は貴方の騎士です。この国で早くに騎士にして頂き、とりわけ良くして頂いた貴方に何も返していない」
「ユツィ」
「殿下に勝利を捧げます。間違っても我が国が負けることなど」
「ユツィ黙って」
殿下が膝をつき私の肩に手を添える。ふんわり笑う姿に泣きたくなった。
「私と一緒にいる為に無謀な戦い方をしないでって意味よ」
「殿下……」
嘘だ。殿下は何かを隠している。私を宥めようとしているのも本心なのは分かるけど、その裏に何かあってそれが今は全く見えない。
「殿下、私は、」
その時、開戦を知らせる音が響いた。
「始まったのね」
「はい」
私達は王城から攻め入る帝国軍を見ているだけだった。家が燃え、火が広がるのが見える。先程とは比べ物にならない程の圧倒的な騎士の数の多さに加え、帝国は魔法使いを引き連れていた。
「こちらの弱点をよく知っていますね」
「王国には魔法使いがいないから」
魔法使いはそもそもそこまで多くはいない。それを帝国は領土を拡大するのと比例して魔法使いたちも取り込んだ。今では一個師団部隊として稼働するぐらいに。
巨大な水が現れ津波となって王国民を飲み込む。あっさり道が拓けてしまった。そこに誰よりも速く駆ける騎馬の小部隊がいる。来るとは分かっていても見たくはなかった男性だ。
「……ヴィー」
「あら、ユツィの想い人?」
あの先頭の馬に乗ってる方? と、呑気にヴォックスを指差す殿下に肩の力が抜ける。
「殿下、敵の頭ですよ」
「それとこれとは話が別だわ」
なかなかの美丈夫ねとのこと。無愛想な顔してるわとも言う。こんな戦場で笑いながら駆ける人間は滅多にいない。まあ無愛想なのは認めるけど。
「あら、真っ直ぐ城に来るわね」
「では戦闘の準備を」
あくまで様子見、力量の確かめと言わんばかりで、少し戦えば帝国側はすぐに撤退した。遠くに帝国の旗が見えたから、その先にまだ多くの騎士がいるのは明白だ。撤退した帝国武力を見届け、私は本来の役目である王女殿下の側に戻ることになった。
「おかえり、どうだった?」
「お互い様子見の小競り合いです。大した勢力ではなかったので次が本番でしょう」
学舎にいる間、何度も帝国は周辺諸国に武力侵攻を行い併合してきた。武力侵攻された国の騎士も当然学舎にいる。陰湿な嫌がらせを黙らせてからは、敵意のある者は必要以上に関わらなかった。敵意がなくてもそれなりに気まずい雰囲気はあったが、まさか自分がその立ち位置に入ると思うとじわりと体温が下がる。
「ユツィ、本当にいいの?」
「何を迷う事がありますか?」
私が王女殿下の側を離れないのが不服のようだ。
「私はファーブラの専属護衛です。お側にいます」
ここまできたのなら、お側にいなくてはいけない。両陛下も王女殿下も戦う意志を示した。なら私は最後まで随伴するべきだ。
「貴方も難儀よねえ……」
私達と同じ騎士服に着替え剣を持つ殿下はお伽噺の英雄のようだった。その英雄は私に苦笑した後、ゆっくり瞼を閉じて静かに瞼を上げる。表情の硬さを見て、自然と膝をつき殿下の言葉を待った。
「ならユツィ……ユースティーツィア、王女として命じます」
「はい」
跪いて見上げる殿下の瞳には悩み苦しんだ色合いが見える。
「自決は許しません。生きなさい」
「な、殿下、それは!」
「王国が滅んでも生き延びて」
「そんなっ」
両陛下は自決を覚悟の上で臨もうとしているのは周知の事実だった。火急の事態に両陛下の元に集まった騎士の中に私の家族もいて、王国が帝国に破れるなら自決も考えているとはっきり言っていたのに、目の前の主はそれを望まない。
「私の周囲全てにその旨を伝えています。両陛下も自分達の進退は置いて、王国民には自身の判断で投降するよう触れを出しているわ。知っているでしょ?」
「我々は両陛下、殿下の為であれば命など惜しくありません」
「それももう時代錯誤よ。ユツィ、あなたは騎士なんてやめて素敵な旦那さんと一緒になって野菜でも育てながら過ごせばいいの」
何を言っているのか理解出来ない。
宣戦布告には時間が与えられ、レースノワレ王国が返事をするまでの間に並行して戦の準備も出来た。帝国の考えはさておき、最初の小競り合いもただの時間とりだ。王国は万全を期している。けど、負けを知らない帝国に勝てるのかという疑問はあった。
多くの王国民がそう感じていたのだろう。周囲の雰囲気は重く暗かった。王国が滅びる未来を思いながら戦いに出向けばそれが戦いにまま反映する。それを国民は理解しているのに、敗戦を基準にする空気が拭えない。それには納得がいかなかった。
そんな国民の士気を鑑みて殿下はあのような言葉を選んだ? たとえそうだとしても頷けなかった。
「……嫌です」
「ユツィ……」
「私は貴方の騎士です。この国で早くに騎士にして頂き、とりわけ良くして頂いた貴方に何も返していない」
「ユツィ」
「殿下に勝利を捧げます。間違っても我が国が負けることなど」
「ユツィ黙って」
殿下が膝をつき私の肩に手を添える。ふんわり笑う姿に泣きたくなった。
「私と一緒にいる為に無謀な戦い方をしないでって意味よ」
「殿下……」
嘘だ。殿下は何かを隠している。私を宥めようとしているのも本心なのは分かるけど、その裏に何かあってそれが今は全く見えない。
「殿下、私は、」
その時、開戦を知らせる音が響いた。
「始まったのね」
「はい」
私達は王城から攻め入る帝国軍を見ているだけだった。家が燃え、火が広がるのが見える。先程とは比べ物にならない程の圧倒的な騎士の数の多さに加え、帝国は魔法使いを引き連れていた。
「こちらの弱点をよく知っていますね」
「王国には魔法使いがいないから」
魔法使いはそもそもそこまで多くはいない。それを帝国は領土を拡大するのと比例して魔法使いたちも取り込んだ。今では一個師団部隊として稼働するぐらいに。
巨大な水が現れ津波となって王国民を飲み込む。あっさり道が拓けてしまった。そこに誰よりも速く駆ける騎馬の小部隊がいる。来るとは分かっていても見たくはなかった男性だ。
「……ヴィー」
「あら、ユツィの想い人?」
あの先頭の馬に乗ってる方? と、呑気にヴォックスを指差す殿下に肩の力が抜ける。
「殿下、敵の頭ですよ」
「それとこれとは話が別だわ」
なかなかの美丈夫ねとのこと。無愛想な顔してるわとも言う。こんな戦場で笑いながら駆ける人間は滅多にいない。まあ無愛想なのは認めるけど。
「あら、真っ直ぐ城に来るわね」
「では戦闘の準備を」
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