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大陸放浪編
旅立ち~豹変~
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家に帰るとエミリーが奇声を上げた。
「三日後に王国を出立なさるですってー!?」
「そうなの。旅って初めてだから何を用意したらいいか分からないんだけど。エミリーにお願いしてもいいかしら?」
「いえ、マヤ様、あたくしも同行させて頂きます!」
「だめよ、エミリー。危険な旅路になるらしいわ。それと、エミリーは『眠り病』について何か知ってる?」
「そういえば、通りを三つ行ったところのパン屋の奥さまが眠っていて何をしても起きないって聞いたことがありますね。それと今回のお出かけと関係が?」
エミリーが不思議そうな顔をして尋ね返した。
「ええ。どうやらこの病は西大陸全土で蔓延しているらしいの。その原因をなんとかするためにルーク殿と旅をすることになったの」
「ルークって青嵐の騎士のルーク様ですか?」
そうよと答えながらエミリーに荷物を預けて、自室に向かう。
「ルーク様と言ったらこの西大陸で知らない人はいない英雄ですよ。マヤ様が素晴らしい方と存じておりましたが、まさかルーク様とご一緒に大陸の危機に立ち向かわれるなんて」
エミリーが言葉を詰まらせた。
「わかりました。身の回りの品はあたくしがきっちり用意させて頂きます。マヤ様が無事にお帰りになられるまでこの屋敷は責任をもってお守りいたします」
エミリーは強い決意をもって私に詰め寄って来た。
「ありがとう、エミリー。それじゃあよろしく頼むわね」
私は部屋着に着替えると、ぱたんとベッドに寝そべった。西大陸を巡るとは一体どこに向かうのだろう。私は不安と一抹の期待を胸に目を閉じて、束の間の休息を得た。
それからの三日間、私は仕事という名の雑事に忙殺されていた。何しろ仕事が多岐に渡るので、代わりになる人材を見つけるのは至難の業だった。いつ帰ってこれるかも分からない旅路である。私は出来る限りのことをして旅立ちの準備を終えた。
約束の朝、エミリーを筆頭に使用人たちと別れを交わして私は南門へとやってきた。
「おはようございます、ルーク様。お待たせしました」
朝焼けの中、ルークが勇壮な防具姿に帯刀して馬車の具合を確認していた。
「おはようございます、クラキ様。準備はよろしいですか?王国から馬車を手配して頂きました。どうぞ、荷物を貸してください」
ルークにトランクを二つ渡すと、軽々と荷馬車に乗せた。幌付きの馬車は青鹿毛と白毛の馬が繋がれていた。黒と白の二頭の馬たちを私はそっと撫ぜた。
「お好きなんですか?馬」
ルークがにっこりと微笑みながら、私に問いかけた。
「ええ、とても愛らしく頼もしいですよね」
その答えを聞くとルークの紺碧の瞳にちらりと狡猾な光が差してすぐに消えた。
「それでは、そろそろ出立しましょうか」
はいと私が答えると二人で馬車に乗り込んだ。
「お見送りありがとうございました。行って参ります」
私は出立の準備をしていてくれた城の兵士たちに声をかけた。彼らは一列に並び、ざっと音を立てて敬礼をした。こうして、私たちの旅は始まりを告げた……都から少し遠のいて来たその時、
「ふぁぁ~」
御者席から気の抜けた欠伸が聞こえてきた。荷台に乗っていた私はルークの様子を見に身を乗り出した。
「眠いんですか、ルーク様?」
「ねみぃよ、まだ夜明けだぞ。ジジイかババアでなきゃこんな朝から起きてねぇよ」
私はあまりに砕けたルークの物言いに面食らった。
「あんた、馬好きなんだろ?じゃあ交代してくれ。おれはもうひと眠りさせてもらうから。あと、様つけなくていいぜ。おれもクラキって呼ぶから」
「嘘でしょ!?」
私が驚いている間にルークはするりと荷台に乗り込み、私は急いで手綱を取って御者席に座った。
「あの、一体、どこに向かっているんですか?」
「そんなのあんたしか分からねぇよ。さっさと妖精王と相談してくれ。おれは寝る」
そう言うとルークは荷台に横たわり、寝息を立て始めた。
私はルークのあまりの変わり身の激しさに呆れた。しかし同時に忙し過ぎてオーベロンと話していなかったことを思い出した。
「オーベロン、オーベロン!」
虚空に向かって声をかける。
「やあ、マヤ。久しぶりだね」
金色のキラキラとした輝きが私の周りを飛び回る。
「お久しぶり。ねぇ、世界樹って何?」
ああとオーベロンの声が暗く沈む。
「この西大陸の北に妖精が支配する森があるんだ。その中心にあるのが世界樹。世界樹はこの大陸の魔法の供給源であり、天と地を支える柱でもあるんだ」
「その世界樹の異変って何?」
「……分からない。ただ、世界樹が枯れ始めてる。その影響で魔法に耐性の無い人間から眠り病にかかっていってるみたいだ」
オーベロンは口を濁した。私はなおも追及を試みた。
「分からないって、妖精王なんでしょう?こういうこと以前にも無かったの?」
「それは……」
オーベロンが答えようとした時、背後から声がした。
「そんなことより妖精王様よ、あんたの力を万全に戻す方が先じゃないか?」
いつの間にかルークが起きて、御者席に身を乗り出していた。
「え、オーベロンと会話できるの?」
「そりゃあね。おれは英雄ルーク様だから。話を戻そうぜ。世界樹を治すには管理者たる妖精王の力も必要だろ。違うか?」
私の驚きをよそにルークはオーベロンに問いかけた。
「ボクの加護を受けている人間はマヤを除いて四人いる。力を回復するためには四人全員の加護を解かねばならない」
「それって、デヴィンとリアン先輩、エヴァンとライアン様の四人?」
「そう。マヤはこの世界に来た時から祝福を受けていたから影響は無いんだけど、アドラメレクとの闘いの時に与えた加護の効果が残っててね。力が分散されてるんだ」
ルークが私の方を向いて尋ねた。
「それで? その四人は今どこにいるんだ?」
「イスラ共和国、ペネロペ都市国家、ハーパー連邦、あとエイブリー帝国ですね……」
それを聞いてルークがこれ見よがしに大きなため息をついてみせた。
「点でバラバラじゃないか。そんなことしてるうちに、大陸中の人間は全員眠っちまうし、世界樹だって枯死しちまう。そうなりゃ、世界の半分が滅亡だ」
「わかったわ、急ぎましょう。ええと、地図地図と……」
私がローブを漁って地図を見始めると、ルークが指で示した。
「このまま南に出てイスラ共和国に向かう。あそこは島国だから船で移動しなくちゃならない。このまま港町まで突っ切れ……おやすみ」
ルークは再び荷台に戻りごろりと横たわった。
「三日後に王国を出立なさるですってー!?」
「そうなの。旅って初めてだから何を用意したらいいか分からないんだけど。エミリーにお願いしてもいいかしら?」
「いえ、マヤ様、あたくしも同行させて頂きます!」
「だめよ、エミリー。危険な旅路になるらしいわ。それと、エミリーは『眠り病』について何か知ってる?」
「そういえば、通りを三つ行ったところのパン屋の奥さまが眠っていて何をしても起きないって聞いたことがありますね。それと今回のお出かけと関係が?」
エミリーが不思議そうな顔をして尋ね返した。
「ええ。どうやらこの病は西大陸全土で蔓延しているらしいの。その原因をなんとかするためにルーク殿と旅をすることになったの」
「ルークって青嵐の騎士のルーク様ですか?」
そうよと答えながらエミリーに荷物を預けて、自室に向かう。
「ルーク様と言ったらこの西大陸で知らない人はいない英雄ですよ。マヤ様が素晴らしい方と存じておりましたが、まさかルーク様とご一緒に大陸の危機に立ち向かわれるなんて」
エミリーが言葉を詰まらせた。
「わかりました。身の回りの品はあたくしがきっちり用意させて頂きます。マヤ様が無事にお帰りになられるまでこの屋敷は責任をもってお守りいたします」
エミリーは強い決意をもって私に詰め寄って来た。
「ありがとう、エミリー。それじゃあよろしく頼むわね」
私は部屋着に着替えると、ぱたんとベッドに寝そべった。西大陸を巡るとは一体どこに向かうのだろう。私は不安と一抹の期待を胸に目を閉じて、束の間の休息を得た。
それからの三日間、私は仕事という名の雑事に忙殺されていた。何しろ仕事が多岐に渡るので、代わりになる人材を見つけるのは至難の業だった。いつ帰ってこれるかも分からない旅路である。私は出来る限りのことをして旅立ちの準備を終えた。
約束の朝、エミリーを筆頭に使用人たちと別れを交わして私は南門へとやってきた。
「おはようございます、ルーク様。お待たせしました」
朝焼けの中、ルークが勇壮な防具姿に帯刀して馬車の具合を確認していた。
「おはようございます、クラキ様。準備はよろしいですか?王国から馬車を手配して頂きました。どうぞ、荷物を貸してください」
ルークにトランクを二つ渡すと、軽々と荷馬車に乗せた。幌付きの馬車は青鹿毛と白毛の馬が繋がれていた。黒と白の二頭の馬たちを私はそっと撫ぜた。
「お好きなんですか?馬」
ルークがにっこりと微笑みながら、私に問いかけた。
「ええ、とても愛らしく頼もしいですよね」
その答えを聞くとルークの紺碧の瞳にちらりと狡猾な光が差してすぐに消えた。
「それでは、そろそろ出立しましょうか」
はいと私が答えると二人で馬車に乗り込んだ。
「お見送りありがとうございました。行って参ります」
私は出立の準備をしていてくれた城の兵士たちに声をかけた。彼らは一列に並び、ざっと音を立てて敬礼をした。こうして、私たちの旅は始まりを告げた……都から少し遠のいて来たその時、
「ふぁぁ~」
御者席から気の抜けた欠伸が聞こえてきた。荷台に乗っていた私はルークの様子を見に身を乗り出した。
「眠いんですか、ルーク様?」
「ねみぃよ、まだ夜明けだぞ。ジジイかババアでなきゃこんな朝から起きてねぇよ」
私はあまりに砕けたルークの物言いに面食らった。
「あんた、馬好きなんだろ?じゃあ交代してくれ。おれはもうひと眠りさせてもらうから。あと、様つけなくていいぜ。おれもクラキって呼ぶから」
「嘘でしょ!?」
私が驚いている間にルークはするりと荷台に乗り込み、私は急いで手綱を取って御者席に座った。
「あの、一体、どこに向かっているんですか?」
「そんなのあんたしか分からねぇよ。さっさと妖精王と相談してくれ。おれは寝る」
そう言うとルークは荷台に横たわり、寝息を立て始めた。
私はルークのあまりの変わり身の激しさに呆れた。しかし同時に忙し過ぎてオーベロンと話していなかったことを思い出した。
「オーベロン、オーベロン!」
虚空に向かって声をかける。
「やあ、マヤ。久しぶりだね」
金色のキラキラとした輝きが私の周りを飛び回る。
「お久しぶり。ねぇ、世界樹って何?」
ああとオーベロンの声が暗く沈む。
「この西大陸の北に妖精が支配する森があるんだ。その中心にあるのが世界樹。世界樹はこの大陸の魔法の供給源であり、天と地を支える柱でもあるんだ」
「その世界樹の異変って何?」
「……分からない。ただ、世界樹が枯れ始めてる。その影響で魔法に耐性の無い人間から眠り病にかかっていってるみたいだ」
オーベロンは口を濁した。私はなおも追及を試みた。
「分からないって、妖精王なんでしょう?こういうこと以前にも無かったの?」
「それは……」
オーベロンが答えようとした時、背後から声がした。
「そんなことより妖精王様よ、あんたの力を万全に戻す方が先じゃないか?」
いつの間にかルークが起きて、御者席に身を乗り出していた。
「え、オーベロンと会話できるの?」
「そりゃあね。おれは英雄ルーク様だから。話を戻そうぜ。世界樹を治すには管理者たる妖精王の力も必要だろ。違うか?」
私の驚きをよそにルークはオーベロンに問いかけた。
「ボクの加護を受けている人間はマヤを除いて四人いる。力を回復するためには四人全員の加護を解かねばならない」
「それって、デヴィンとリアン先輩、エヴァンとライアン様の四人?」
「そう。マヤはこの世界に来た時から祝福を受けていたから影響は無いんだけど、アドラメレクとの闘いの時に与えた加護の効果が残っててね。力が分散されてるんだ」
ルークが私の方を向いて尋ねた。
「それで? その四人は今どこにいるんだ?」
「イスラ共和国、ペネロペ都市国家、ハーパー連邦、あとエイブリー帝国ですね……」
それを聞いてルークがこれ見よがしに大きなため息をついてみせた。
「点でバラバラじゃないか。そんなことしてるうちに、大陸中の人間は全員眠っちまうし、世界樹だって枯死しちまう。そうなりゃ、世界の半分が滅亡だ」
「わかったわ、急ぎましょう。ええと、地図地図と……」
私がローブを漁って地図を見始めると、ルークが指で示した。
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