幕末の与平が異世界に行く

10．魔術の訓練をする

猪が突撃して来る。またまた、油断していた。
郷里で馴染みのある猪の3倍はあるだろうか。

だが、動きは鈍く、十分に避けられる。
避けようとした途端、毛に覆われた黒い背中が目の端から現れ、体当たりした。猪が吹っ飛んでゆく。
あの黒熊ではないか。

黒熊は猪に近づくと、前足でドンと踏みつけてから引きずって行った。
ホッとするとともに、何故、黒熊が。
暫く呆然とする。


今度は自分が助けられた。
しかしながら、再び油断していた。
２つの大きな気配を感じ取れなかったのだ。
精神的に落ち込んだ。
結果的には、黒熊と共に、巨大蛇と巨大猪を討伐したことになったのだが。


島の中で安全に生活するためには、あの超巨大白蛇を何とかしなければならないが、武器は太刀と短刀しかない。
だが、刀が折れないだろうか。折れないにしても刃こぼれが酷ければ、切れなくなる。
巨大黒蛇の皮はかなり硬かった。超巨大白蛇はもっとだろう。
魔術を試すしかない。


動揺を抑えながら、質問をポチる。
「危機に陥った時、結界を張れば大丈夫だろうか。」

－　結界の強さは魔力量によります。相手がより大きな魔力量で攻撃してくれば、当然結界は破壊されます－
「だろうな。対策は？」

－　転移を推奨します。行きたい場所を思い浮かべて魔力を体全体あるいは周囲に結界を張って、今いる場所から抜け出してください―

言われた通りに、洞窟の家の台所を思い浮かべて今いる場所から抜け出した。
台所に転移していた。余りに簡単に転移出来る。
そうだ初めてではない。超巨大白蛇に襲われた時以来、何度も転移している。


翌日、岸壁に立って、風を思い描いて発動するが、そよ風を感じるくらいだ。
想像の仕方が悪いのかあるいは想像力そのものがないからなのか。

刃のような風、つまり風の刃を想像して、発動してみた。
飛び出した風刃が岸壁の向こうの壁に刺さった。
威力があるのかどうかわからない。だが、武器は武器だ。
練習を続ける。疲れて来る。


今日はここまで。やり過ぎは良くない。
寝室に戻り、着替えか何かないかと探していると、タンスの中に下着、シャツ、ズボンが数枚ずつ入っていた。
使い古されてはいるが、贅沢は言えない。着替える。
箪笥の上の壁に、簡単な絵地図が張ってある。

よく見ると、この島の地図である。
地図に書き込まれていたのは、丘を中心にして、畑、果樹園、泉、それに温泉、さらにダンジョンと書かれている。
よく見ると、家の右側に納屋が描かれている。

納屋に入ってみると、工具が棚に並んでいる。
他に釣り竿、釣り張り、重り、釣り糸、手網、餌箱などもあった。
ここで船を造り、この島を出て行ったに違いない。
船を乗せる船架台も放置されている。


翌日も、洞窟の岸壁で、風刃を発動してみた。
洞窟の対岸の壁に刺さり、壁の岩が崩れた。
刃より槍の方が強力なのではと、風槍を繰り返し放った。
確かに、突き抜ける力が強い。

今度は、鋼鉄の槍をしっかり思い浮かべて、放って見た。
威力も速さも段違いになった。
岸壁の対岸の壁が大きく、崩れ落ちた。
強力な武器だ、と思う。

魔力鍛錬をしてから、食事をする。
昨日、いや一昨日の残りの魚と、取ってきたキュウリを齧る。
明日は亜空間の家で食べよう。

果樹園と書かれていた場所に行ってみることにした。
畑を通り過ぎ、しばらく行くと、リンゴがなっている樹があった。
他にも、柿、梨、葡萄、柑橘の樹々らしい。
枝が広がるだけ広がり、道を塞いでいる。
リンゴを10個ばかり捥いで、アイテム空間に入れた。