黒猫は闇に泣く

ギイル

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第1章 黒猫の友人

夢の跡4

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レトロはよく伝書鳩を好む。
ちょっとした世間話から門外不出の機密事項まで全て口伝えで送られてくる。
どうやら今回はとんだ大物が鳩にされたようだった。
「師匠からの伝言?」
「そう、可愛い可愛い弟子への師匠からの情報提供だってさ」
レトロ自身は優しい気遣いだと思っているようだが、三人にとっては厄介ごとを運ぶ最大の原因だ。
眉を顰める優に対し双子は顔を見合わせた。
「もしかしてレトロの一方的な愛?」
「いや、そういうわけではないんですけど・・・」
「一番厄介な人だよね」
「でも強いからな」
頷き合う三人に双子は呆れ顔を露わにした。
「で、内容は?」
首を傾げる優に双子は一呼吸置く。
言葉を選ぶようにして彼らはこう口にした。
「君ら師弟が何を調べてるか知らないけど、あまりこの事には足を踏み入れない方がいいと思う」
「余計なお世話って言葉知ってる?」
口角を上げ、刻は挑発の意を込めて言い放った。
しかし双子は不機嫌な表情は見せることなく、刻の頭を撫でたのだ。
「生意気だぞ、金髪くん」
「お兄ちゃん達は本当に心配してるんだからさ」
狐につままれたように呆然とする刻。
そんな刻を尻目に双子は優を見た。
「国王様は隠蔽を図ってるみたいだけど聖教会でも死人が出てる」
そしてどの被害者も不審死だったらしい。
どうやら被害は能力者には止まらなかったようだ。
性別、年齢、人種を問わず無差別な犯行はもう止まる気配を見せない。
驚きを隠せない三人に双子は更に言葉を続ける。
「議会が必死で捜索してるのに尻尾さえも掴めない。これは本格的にやばいことになってる」
「レトロが言うには思考系能力者に頼れだってさ」
優のなぜ、どうしての言葉を遮るようにして刻が口を開いた。
「もしかして俺たち疑われてる?」
「違う違う。レトロが言うには議会にはA級ビショップが三人存在するらしい」
「グラス、リヒト、俺」
「その三人の力を借りて国中の人の頭の中を覗けばいい」
大それた双子の発言に三人は目を見開いた。
更に驚愕の目を向けたのは刻だった。
「そんなことできるわけないじゃない。S級ルークでもない限りそんな広範囲無理だって」
「それに優のような能力が効かない能力の場合はどうするんだ?」
「そこは自分達で考えてだってさ」
レトロらしい投げやりな答えに三人は肩を落とす。
「聖教会では動いてないんですか?」
優の問いに双子は同時に首を横に振った。
どうやら国王はこの事態を本当に隠蔽してしまおうとしているらしい。
調査さえも許可を得ることのできない聖教会。
それがレトロが三人に解決を促す理由だと今初めて気がついた。
「聖教会って何の為にあるんだろうね」
笑ってみせた刻に優は懸念の目を向けた。
不謹慎にも程があると毎度の事ながら思う。
だが、やはり双子はいっそ清々しいほどに刻とは少し違う爽やかな笑顔で笑った。
「議会は国落としが目的でしょ?まあ、いわゆる国王様の使徒って感じ」
「俺たちの仕事はその後。国の公開暗殺者が聖教会って感じ」
今回のように国落としの後反乱が起こることは多々ある。
だが、一度反乱が鎮圧された国で再度国民が武器を振りかざすことはなかった。
双子の話によるとそこには聖教会が関係していたらしい。
「まあ、暗殺者がいるよってのを他国に見せつけるのが俺たちの任務。反乱の火種は積んでいくスタイル」
「それが今からするお前たちの仕事というわけか」
燈が一言呟いた。
目線の先には扉の前に立つアマリナの姿。
もう出発の時間が迫っていた。
「じゃあ、いつも通りに」
燈は髪を括り上げ、刻は軽く後ろで髪を纏めた。
優はピンで前髪を掻き上げると双子を一瞥する。
「僕らは師匠ほどではありませんが一応言っておきますね。足手まといなら置いてきますから」
余裕のある笑みと共に猫を模したピアスが揺れた。
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