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第1章 黒猫の友人
国王の実験室1
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目を開けたその瞬間、五人は高く昇る煙を見た。
もはや面影さえも残してはいない城だったもの。
暴徒化した国民は街で暴れるだけでは足りず、本来守るべきはずの城を崩しにかかった。
燈は目の端で優が硬く拳を握るのを見た。
「私達が国を落としたから、なんてこと考えてるだろ」
その言葉に露骨に反応を示した優に双子はそっと頭に手を乗せた。
そしてくしゃりと先程と同様優の頭を撫でる。
「撫でるの好きですね」
優の言葉に二人はふわりと微笑んだ。
「レトロが子供の頃撫でられるの好きだったから」
年齢は然程若くないはずの彼ら。
レトロは永遠の二十歳だとかふざけ半分で言ってはいながらも、自称年齢よりも十は歳を取っていると知っていた。
レトロの子供時代から頭を撫でられる立場にいる彼らは幾つなのだと、三人は不思議に思う。
双子の見た目は然程若くはないがおじさんと呼ぶにはまだ若々しい。
「歳いくつ?」
失礼極まりない質問だとは知っているがやはり気になるものは気になるのだ。
「五十いくつかだったよ」
「おじさん・・・」
「お兄さんと呼びなさい」
何故こんなにも若作りができるのか。
トゥクルから始まるがレトロ、ソラスのように見た目より大幅なものは十も歳が若く見える。
「名前教えてよ、無線とかで呼び辛い」
刻の唐突な提案に双子は顔を見合わせ、そして片方が口を開いた。
「俺がトゥクル、こっちもトゥクル」
「姓の方を選んだんだな」
「呼んでくれたらどっちかが反応するから。で、そっちは?団長さん、金髪くん、ミニレトロちゃん」
愉快な愛称だと優は思う。
姓を持たない優達が名以外の名前で呼ばれることは至極珍しいことだった。
「優、刻、燈」
「武人の名前って呼びにくいね」
「一つの言葉で複数の読みを持つ文字ってのは難しいから嫌いだよ」
憂鬱な表情をする双子に三人は思わず苦笑を零す。
「じゃあみんな無線を繋ごうか」
装着したヘッドホンらしきものをトゥクルは指先で軽く小突いて言った。
三人のピアスから幾重にもハウリングしたトゥクルの声が聞こえてくる。
「準備完了?」
「次、俺と頭の中繋ぐから」
刻の言葉にトゥクルは同時に目を見開いた。
差し出された刻の手にトゥクルはゆっくりと手を重ね、そこに他の面々も手を重ねていく。
「ちょっと耳鳴りがするかもだけどそれは我慢してね」
全員が手を重ね終えた時、頭の中を右から左へ何かが駆ける感覚がした。
それを追うようにして刻の声が頭の中で響き始める。
「すっごい!これすっごい!なにこれ!」
「声出してないのに連絡取れるじゃん!」
人間にとって能力者の戦闘など珍しい物以外の何物でもないようで、トゥクルにとってはとても新鮮なものだったらしい。
着々と奇襲の準備を進める三人に対しトゥクルは能力で遊び始める。
双子独特の息のあった身振り手振りと共に心の声で会話をしていた。
「ちょっと、俺の負担も考えてよ」
嬉々としてふざけるトゥクルに刻は一喝すると大きく溜息をつくいた。
思考系能力は便利で融通が利く。
しかしその代償として母体となる思考系能力者は多くの体力を消耗するのだ。
そして消耗する体力は繋ぐ人数、時間、範囲に比例していく。
普段よりも多くの人数を繋いでいる今、刻は前線に出るには難しいと考えられた。
更に以前は城だけでよかった範囲を街単位に広げるため、頭に叩き込んだ地形図や街の見取り図は余計な負担となってしまう。
よって刻の片手には地図が握られていた。
「なんか服装変わってない?」
「ちょっと一枚羽織っただけですけどね」
不意に目を向けた二人は優の羽織ったマントに近い上着に興味を示した。
黒の団服に浮かぶのは白で描かれた猫。
刻と燈の上着にも同様のものが描かれていた。
黒猫団の紋章。
浮かぶ月に背を向ける影の猫を模したこれは、祖父が昔考えたのだと自慢気に語っていたことを思い出させる。
「さあ、準備も整ったことだし」
「これで最後の国落としだよ」
感傷に浸っていた自身を呼び戻し優は現実に目を向けた。
不気味なほどに静かな城。
四人は刻を一人残し、一斉に街を駆け抜けた。
もはや面影さえも残してはいない城だったもの。
暴徒化した国民は街で暴れるだけでは足りず、本来守るべきはずの城を崩しにかかった。
燈は目の端で優が硬く拳を握るのを見た。
「私達が国を落としたから、なんてこと考えてるだろ」
その言葉に露骨に反応を示した優に双子はそっと頭に手を乗せた。
そしてくしゃりと先程と同様優の頭を撫でる。
「撫でるの好きですね」
優の言葉に二人はふわりと微笑んだ。
「レトロが子供の頃撫でられるの好きだったから」
年齢は然程若くないはずの彼ら。
レトロは永遠の二十歳だとかふざけ半分で言ってはいながらも、自称年齢よりも十は歳を取っていると知っていた。
レトロの子供時代から頭を撫でられる立場にいる彼らは幾つなのだと、三人は不思議に思う。
双子の見た目は然程若くはないがおじさんと呼ぶにはまだ若々しい。
「歳いくつ?」
失礼極まりない質問だとは知っているがやはり気になるものは気になるのだ。
「五十いくつかだったよ」
「おじさん・・・」
「お兄さんと呼びなさい」
何故こんなにも若作りができるのか。
トゥクルから始まるがレトロ、ソラスのように見た目より大幅なものは十も歳が若く見える。
「名前教えてよ、無線とかで呼び辛い」
刻の唐突な提案に双子は顔を見合わせ、そして片方が口を開いた。
「俺がトゥクル、こっちもトゥクル」
「姓の方を選んだんだな」
「呼んでくれたらどっちかが反応するから。で、そっちは?団長さん、金髪くん、ミニレトロちゃん」
愉快な愛称だと優は思う。
姓を持たない優達が名以外の名前で呼ばれることは至極珍しいことだった。
「優、刻、燈」
「武人の名前って呼びにくいね」
「一つの言葉で複数の読みを持つ文字ってのは難しいから嫌いだよ」
憂鬱な表情をする双子に三人は思わず苦笑を零す。
「じゃあみんな無線を繋ごうか」
装着したヘッドホンらしきものをトゥクルは指先で軽く小突いて言った。
三人のピアスから幾重にもハウリングしたトゥクルの声が聞こえてくる。
「準備完了?」
「次、俺と頭の中繋ぐから」
刻の言葉にトゥクルは同時に目を見開いた。
差し出された刻の手にトゥクルはゆっくりと手を重ね、そこに他の面々も手を重ねていく。
「ちょっと耳鳴りがするかもだけどそれは我慢してね」
全員が手を重ね終えた時、頭の中を右から左へ何かが駆ける感覚がした。
それを追うようにして刻の声が頭の中で響き始める。
「すっごい!これすっごい!なにこれ!」
「声出してないのに連絡取れるじゃん!」
人間にとって能力者の戦闘など珍しい物以外の何物でもないようで、トゥクルにとってはとても新鮮なものだったらしい。
着々と奇襲の準備を進める三人に対しトゥクルは能力で遊び始める。
双子独特の息のあった身振り手振りと共に心の声で会話をしていた。
「ちょっと、俺の負担も考えてよ」
嬉々としてふざけるトゥクルに刻は一喝すると大きく溜息をつくいた。
思考系能力は便利で融通が利く。
しかしその代償として母体となる思考系能力者は多くの体力を消耗するのだ。
そして消耗する体力は繋ぐ人数、時間、範囲に比例していく。
普段よりも多くの人数を繋いでいる今、刻は前線に出るには難しいと考えられた。
更に以前は城だけでよかった範囲を街単位に広げるため、頭に叩き込んだ地形図や街の見取り図は余計な負担となってしまう。
よって刻の片手には地図が握られていた。
「なんか服装変わってない?」
「ちょっと一枚羽織っただけですけどね」
不意に目を向けた二人は優の羽織ったマントに近い上着に興味を示した。
黒の団服に浮かぶのは白で描かれた猫。
刻と燈の上着にも同様のものが描かれていた。
黒猫団の紋章。
浮かぶ月に背を向ける影の猫を模したこれは、祖父が昔考えたのだと自慢気に語っていたことを思い出させる。
「さあ、準備も整ったことだし」
「これで最後の国落としだよ」
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四人は刻を一人残し、一斉に街を駆け抜けた。
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