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145.泣いてる人は困るよ
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「うんうん、悪くない味だねえ」
『土』の女神アースであった物を咀嚼して飲み込み、ウータが満足そうに頷いた。
アースの味は固焼きせんべいのようだった。
バリボリと歯応えがあって、その奥に深いソースの味わいがあって、とても濃厚で癖のある触感である。
できればもっとたくさん食べたいところであるが……残念ながら、せんべいは一枚しかない。
ウータは残念そうに首を横に振り、お腹を撫でた。
「さて……これで三つ。かなり力は増してきたかな?」
『火』、『水』、『土』……この世界に来てから、ウータは三柱の神を倒して取り込んできた。
花散ウータの肉体はかなり強化されている。
それでも……時空を超えて元の世界に戻るためには、まだまだ足りない。
元の世界に帰還するためには女神狩りを続けなくてはいけなそうである。
「ようやく、折り返し。もうちょっとで家に帰れそうかなー?」
「あ……き、君はいったい……」
エンジェが呆然とした様子で座り込み、ウータのことを見上げていた。
石化しかけていた彼女であったが……アースが死んだことにより、元通りの手足に戻っている。
仇討ちのためにアースの命を狙ったら返り討ちにされそうになった。
ポケットに人間の指が入っており、そこからウータが現れた。
ウータが謎の力によってアースを撃破。塵にして、そこから出てきた宝石を食べてしまった。
蚊帳の外に追いやられたエンジェにしてみれば、訳がわからない状況に違いない。
「僕としては、お姉さんがどうしてそんなに頑張ったのかわからないんだけどね。相手は神様だよ? 戦うなんてムチャだよー」
「それは……」
「何てね。ムチャでも殺らなくちゃいけない理由があったんだよね。人間のそういうところ、少なくとも僕は嫌いじゃないよ」
「…………」
「嫌いじゃないから、これはサービスということで」
ウータが右手を掲げた。
手に入れたばかりの『土』の女神の力を発動させると……周囲から青白い光がにじみ出してくる。
虚空から生じた光の正体は人の魂。宝石に変えられ、先ほどはアースによって弾丸のように扱われた精神の破片。
ウータは粉々になった魂を修復させたのである。
『エンジェ……』
「父さん……!」
火の玉のような青い光の一つが形を成し、髭面の男性になった。
エンジェが驚いて声を上げて、その男性に縋りついた。
『すまない……俺が女神に直談判なんてしたせいで、お前にまで危険が及んでしまって……』
「いいのよ、そんなことはどうでも。また会えるなんて思わなかった……父さん、父さんっ!」
エンジェと父親が抱き合い、再会を喜び合っている。
涙を流す二人であったが……残念ながら、一緒にいられる時間は長くない。
父親の身体が徐々に透明になっていき、空気に溶けるようにして消えていったのだ。
「父さん、身体が……!」
『どうやら、ここまでみたいだ……エンジェ、俺の分まで幸せに……』
「父さん、父さんっ! ああ、アアアアアアアアアアアアアッ!」
父親の魂が完全に消えて、エンジェが泣き崩れた。
他の魂も消えていき、ウータとエンジェの二人きりになった部屋に静寂が戻ってくる。
「ウウ、ウワアアアアアアアアアアアアアッ!」
「……あー、困るねえ。こういうの」
涙を流しているエンジェの後ろで、ウータが何とも言い難い表情をしている。
慰めの言葉をかけるべく手を伸ばして、やっぱり何を言って良いかわからずに下ろして。
最終的に困った様子で頭を掻いて、エンジェの背中をポンポンと叩いた。
「まあ、よくわからないけど……会えて良かったね。お姉さん」
「アアアアアアアアアッ……!」
「人生、色々あるっぽいけどさ。頑張ってね」
どこか他人事のような慰めを残して、ウータは逃げるようにその部屋から出ていった。
一人きりになった部屋の中、エンジェが気の済むまで泣き続けていたのである。
『土』の女神アースであった物を咀嚼して飲み込み、ウータが満足そうに頷いた。
アースの味は固焼きせんべいのようだった。
バリボリと歯応えがあって、その奥に深いソースの味わいがあって、とても濃厚で癖のある触感である。
できればもっとたくさん食べたいところであるが……残念ながら、せんべいは一枚しかない。
ウータは残念そうに首を横に振り、お腹を撫でた。
「さて……これで三つ。かなり力は増してきたかな?」
『火』、『水』、『土』……この世界に来てから、ウータは三柱の神を倒して取り込んできた。
花散ウータの肉体はかなり強化されている。
それでも……時空を超えて元の世界に戻るためには、まだまだ足りない。
元の世界に帰還するためには女神狩りを続けなくてはいけなそうである。
「ようやく、折り返し。もうちょっとで家に帰れそうかなー?」
「あ……き、君はいったい……」
エンジェが呆然とした様子で座り込み、ウータのことを見上げていた。
石化しかけていた彼女であったが……アースが死んだことにより、元通りの手足に戻っている。
仇討ちのためにアースの命を狙ったら返り討ちにされそうになった。
ポケットに人間の指が入っており、そこからウータが現れた。
ウータが謎の力によってアースを撃破。塵にして、そこから出てきた宝石を食べてしまった。
蚊帳の外に追いやられたエンジェにしてみれば、訳がわからない状況に違いない。
「僕としては、お姉さんがどうしてそんなに頑張ったのかわからないんだけどね。相手は神様だよ? 戦うなんてムチャだよー」
「それは……」
「何てね。ムチャでも殺らなくちゃいけない理由があったんだよね。人間のそういうところ、少なくとも僕は嫌いじゃないよ」
「…………」
「嫌いじゃないから、これはサービスということで」
ウータが右手を掲げた。
手に入れたばかりの『土』の女神の力を発動させると……周囲から青白い光がにじみ出してくる。
虚空から生じた光の正体は人の魂。宝石に変えられ、先ほどはアースによって弾丸のように扱われた精神の破片。
ウータは粉々になった魂を修復させたのである。
『エンジェ……』
「父さん……!」
火の玉のような青い光の一つが形を成し、髭面の男性になった。
エンジェが驚いて声を上げて、その男性に縋りついた。
『すまない……俺が女神に直談判なんてしたせいで、お前にまで危険が及んでしまって……』
「いいのよ、そんなことはどうでも。また会えるなんて思わなかった……父さん、父さんっ!」
エンジェと父親が抱き合い、再会を喜び合っている。
涙を流す二人であったが……残念ながら、一緒にいられる時間は長くない。
父親の身体が徐々に透明になっていき、空気に溶けるようにして消えていったのだ。
「父さん、身体が……!」
『どうやら、ここまでみたいだ……エンジェ、俺の分まで幸せに……』
「父さん、父さんっ! ああ、アアアアアアアアアアアアアッ!」
父親の魂が完全に消えて、エンジェが泣き崩れた。
他の魂も消えていき、ウータとエンジェの二人きりになった部屋に静寂が戻ってくる。
「ウウ、ウワアアアアアアアアアアアアアッ!」
「……あー、困るねえ。こういうの」
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慰めの言葉をかけるべく手を伸ばして、やっぱり何を言って良いかわからずに下ろして。
最終的に困った様子で頭を掻いて、エンジェの背中をポンポンと叩いた。
「まあ、よくわからないけど……会えて良かったね。お姉さん」
「アアアアアアアアアッ……!」
「人生、色々あるっぽいけどさ。頑張ってね」
どこか他人事のような慰めを残して、ウータは逃げるようにその部屋から出ていった。
一人きりになった部屋の中、エンジェが気の済むまで泣き続けていたのである。
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