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144.『土』の女神をしばき食べるよ
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「貴方……どうして……」
「うわあ、手と足が石になってるよ? それ、痛くないの?」
指を食べ終わったウータが痛そうな顔をして、エンジェの手足を見やる。
石化はゆっくりではあるものの、今も進行している。
「ステラがやられたのと同じだね。こっちは随分とボロッちいけど」
「お前……どこから入ってきた?」
「うん?」
背中に声をかけられて、ウータが振り返った。
背後で怪訝そうな顔をしているのは『土』の女神アースである。
先ほどまで烈火の形相をしていたアースだったが、怒りよりも疑問が勝ったらしい。
眉尻を上げて、いぶかしげにウータのことを観察している。
「ここは許可を得た者しか入れないはず。おまけに、門を通ることなく侵入するだなんて……どんな魔法使いにだって不可能だ。いったい、何をした?」
「ああ、結界だよね。かなり丈夫で僕でも簡単には入れなかったよ……だから、目印を付けさせてもらったんだ」
「あ……」
エンジェのポケットに入っていた小指。
あの指がウータの言うところの目印だったのではないか。
「大会で優勝しなくちゃ会えないかと思ってたけど……考えてみれば、マーキングした誰かを代わりに送り込めば良いんだよね。僕ってばギリギリまで気がつかなかったよー」
「うっかり、うっかり」……そうつぶやいて、ウータが自分の頭をコツンと叩いた。
「……貫け」
道化じみたウータの言動を受けたアースの返答はシンプルである。
床から飛び出したダイヤモンドの杭がウータの身体を串刺しにした。
「ウータ君……!」
「わあ、ビックリ」
「ええっ!? 生きているのっ!?」
エンジェが驚きの声を上げる。
ダイヤモンドに貫かれたウータであったが、当然のように生きていた。
少しだけ離れた場所に転移をして、身体から杭を抜く。
「痛いなあ。まだ挨拶もまだだっていうのに酷くない?」
「貴様……人間ではないのか? その生命力は魔族……いや、天使か?」
「どっちでもないよー。僕は僕だからね」
ウータは平然と両手を広げて、穏やかな笑顔のまま宣言する。
「初めまして、こんにちは。そして……さようなら。いただきます」
「宝石よ……!」
ウータが一歩、前に進み出た。
アースの背中にザワリと鳥肌が立つ。
正体不明の恐怖に突き動かされて、力を発動する。
壁や床に埋め込まれていた無数の宝石が光の弾丸となって、ウータめがけて殺到した。
「貴様が何者かは知らない……だけど、我が千年のコレクションを使うに値する敵と見た!」
宝石の一つ一つに材料となった人間の命が宿っている。
それらをアースの神力によって燃焼させて放たれる星屑の閃光。アースにとって切り札である奥義だった。
「神炎・水」
だが……ウータはそれを冷静に対処する。
ウータの周囲に二枚の障壁が展開された。外側にあるのは水の障壁、内側にあるのは炎の障壁。
水の障壁がレーザー光線を拡散させ、弱った光を炎の障壁が焼いて消す。
アースの切り札はウータの身体に届くことなく、二枚の障壁によって阻まれて消滅してしまった。
「その力……まさか、フレアとマリン……?」
有り得ない光景を目にして、アースが大きく目を見開いた。
ウータから伝わってくるのは慣れ親しんだ姉妹の力。『火』の女神フレアと『水』の女神マリンの力である。
しかも神殺しのナイフのように力の破片を込めたというレベルではなく、膨大な神の畏怖が伝わってくる。
「どうして、その力を貴様が……まさか、いや。有り得ない……!」
アースの脳裏にあってはならない想像が浮かぶ。
背中に大量の汗が滲み、生まれてから一度として経験したことのない感情……『恐怖』が胸を支配していく。
「喰ったのか……姉妹を食べて、力を吸収したというのか……!?」
「二人とも、とっても美味しかったよ」
ウータがペロリと舌を出して、その時の味を思い出す。
「君はどんな味がするのかな? とっても楽しみだよ」
「クウウウウウウウウウウウウウウッッッッッ……!」
かつてない恐怖と焦燥。
アースは捕食者から逃れるべく、大地を支配して地中に潜ろうとした。
「させない……!」
「なっ……!」
だが……そこで予想外のことが生じた。
膝をついていたエンジェが神殺しのナイフをアース目掛けて投擲してきたのだ。
アースの腹部に突き刺さったナイフにはエンジェの手が付いている。石になった手を砕いて、強引にナイフを投げてきたのだ。
「馬鹿な……!」
「馬鹿は君だよね」
「ッ……!」
「人間を侮って足元をすくわれたね。彼女がいなかったら、逃げられていたかもしれないよ」
ウータがアースの身体に抱き着いて、小柄な体躯にガッチリとしがみつく。
「待っ……!」
「待たない」
「~~~~~~~~~~ッ!」
アースの身体が塵になっていく。
ウータはすでに二柱の神を食べて、その力を取り込んでいる。
アースだけで太刀打ちなどできるわけもなく、これは戦いではなくただの『捕食』だったのだろう。
「い、いやだっ! 塵になんて、塵になんてなりたくなっ……」
言葉の途中で、アースの全身が崩れた。
床に散らばった大量の塵。その中にはトパーズのような黄色い宝石が埋もれている。
「いただきます」
ウータは迷うことなく宝石を口に入れて、グチャグチャと噛み砕いた。
ウータの口内から地獄の底から響いてくるような絶叫が上がり、この世界からまた一柱の神が消えることになったのである。
「うわあ、手と足が石になってるよ? それ、痛くないの?」
指を食べ終わったウータが痛そうな顔をして、エンジェの手足を見やる。
石化はゆっくりではあるものの、今も進行している。
「ステラがやられたのと同じだね。こっちは随分とボロッちいけど」
「お前……どこから入ってきた?」
「うん?」
背中に声をかけられて、ウータが振り返った。
背後で怪訝そうな顔をしているのは『土』の女神アースである。
先ほどまで烈火の形相をしていたアースだったが、怒りよりも疑問が勝ったらしい。
眉尻を上げて、いぶかしげにウータのことを観察している。
「ここは許可を得た者しか入れないはず。おまけに、門を通ることなく侵入するだなんて……どんな魔法使いにだって不可能だ。いったい、何をした?」
「ああ、結界だよね。かなり丈夫で僕でも簡単には入れなかったよ……だから、目印を付けさせてもらったんだ」
「あ……」
エンジェのポケットに入っていた小指。
あの指がウータの言うところの目印だったのではないか。
「大会で優勝しなくちゃ会えないかと思ってたけど……考えてみれば、マーキングした誰かを代わりに送り込めば良いんだよね。僕ってばギリギリまで気がつかなかったよー」
「うっかり、うっかり」……そうつぶやいて、ウータが自分の頭をコツンと叩いた。
「……貫け」
道化じみたウータの言動を受けたアースの返答はシンプルである。
床から飛び出したダイヤモンドの杭がウータの身体を串刺しにした。
「ウータ君……!」
「わあ、ビックリ」
「ええっ!? 生きているのっ!?」
エンジェが驚きの声を上げる。
ダイヤモンドに貫かれたウータであったが、当然のように生きていた。
少しだけ離れた場所に転移をして、身体から杭を抜く。
「痛いなあ。まだ挨拶もまだだっていうのに酷くない?」
「貴様……人間ではないのか? その生命力は魔族……いや、天使か?」
「どっちでもないよー。僕は僕だからね」
ウータは平然と両手を広げて、穏やかな笑顔のまま宣言する。
「初めまして、こんにちは。そして……さようなら。いただきます」
「宝石よ……!」
ウータが一歩、前に進み出た。
アースの背中にザワリと鳥肌が立つ。
正体不明の恐怖に突き動かされて、力を発動する。
壁や床に埋め込まれていた無数の宝石が光の弾丸となって、ウータめがけて殺到した。
「貴様が何者かは知らない……だけど、我が千年のコレクションを使うに値する敵と見た!」
宝石の一つ一つに材料となった人間の命が宿っている。
それらをアースの神力によって燃焼させて放たれる星屑の閃光。アースにとって切り札である奥義だった。
「神炎・水」
だが……ウータはそれを冷静に対処する。
ウータの周囲に二枚の障壁が展開された。外側にあるのは水の障壁、内側にあるのは炎の障壁。
水の障壁がレーザー光線を拡散させ、弱った光を炎の障壁が焼いて消す。
アースの切り札はウータの身体に届くことなく、二枚の障壁によって阻まれて消滅してしまった。
「その力……まさか、フレアとマリン……?」
有り得ない光景を目にして、アースが大きく目を見開いた。
ウータから伝わってくるのは慣れ親しんだ姉妹の力。『火』の女神フレアと『水』の女神マリンの力である。
しかも神殺しのナイフのように力の破片を込めたというレベルではなく、膨大な神の畏怖が伝わってくる。
「どうして、その力を貴様が……まさか、いや。有り得ない……!」
アースの脳裏にあってはならない想像が浮かぶ。
背中に大量の汗が滲み、生まれてから一度として経験したことのない感情……『恐怖』が胸を支配していく。
「喰ったのか……姉妹を食べて、力を吸収したというのか……!?」
「二人とも、とっても美味しかったよ」
ウータがペロリと舌を出して、その時の味を思い出す。
「君はどんな味がするのかな? とっても楽しみだよ」
「クウウウウウウウウウウウウウウッッッッッ……!」
かつてない恐怖と焦燥。
アースは捕食者から逃れるべく、大地を支配して地中に潜ろうとした。
「させない……!」
「なっ……!」
だが……そこで予想外のことが生じた。
膝をついていたエンジェが神殺しのナイフをアース目掛けて投擲してきたのだ。
アースの腹部に突き刺さったナイフにはエンジェの手が付いている。石になった手を砕いて、強引にナイフを投げてきたのだ。
「馬鹿な……!」
「馬鹿は君だよね」
「ッ……!」
「人間を侮って足元をすくわれたね。彼女がいなかったら、逃げられていたかもしれないよ」
ウータがアースの身体に抱き着いて、小柄な体躯にガッチリとしがみつく。
「待っ……!」
「待たない」
「~~~~~~~~~~ッ!」
アースの身体が塵になっていく。
ウータはすでに二柱の神を食べて、その力を取り込んでいる。
アースだけで太刀打ちなどできるわけもなく、これは戦いではなくただの『捕食』だったのだろう。
「い、いやだっ! 塵になんて、塵になんてなりたくなっ……」
言葉の途中で、アースの全身が崩れた。
床に散らばった大量の塵。その中にはトパーズのような黄色い宝石が埋もれている。
「いただきます」
ウータは迷うことなく宝石を口に入れて、グチャグチャと噛み砕いた。
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