異世界召喚されて捨てられた僕が邪神であることを誰も知らない……たぶん。

レオナール D

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155.享楽の女神

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「さーて、どうなるかしらねー?」

 大樹の城の最上層にて、『風』の女神エアが愉快そうに笑った。
 広げたカーペットの上で寝転がったエアはジュースを片手に、お菓子を食べながらウータ達の様子を鑑賞している。
『風』の女神である彼女は空気を通じて、広い視野を持っていた。
 大樹の城の内部で起こっている出来事は全て把握している。ウータがエルフの戦士を殺したことも、罠地帯を突破したことも、強引に上層に行ってキマイラに噛み砕かれた光景も見ていた。

「まさか、こんなもので終わりじゃないわよねー。そんなの、退屈すぎるじゃなーい?」

 ウータの襲撃はエアにとって、一種の娯楽である。
 三人の女神を打倒して、その力を吸収したウータは脅威。神であっても侮ることができない存在だった。
 それでも、エアは己の勝利を確信している。

「だって、私は人間を尊敬しているもーん。人間を誰よりも知っていて、尊敬しているんだから負けるわけないじゃなーい?」

『風』の女神エアは大気を通じて、大勢の人を見てきた。
 時には人間の身体を器として分体を憑依させ、同じ目線から観測したこともある。
 エアは六女神の多くが人を食料とみなしている中で唯一、人という生き物を高く評価していた。
 だからこそ、十分な準備をしたうえでウータを迎え撃っている。
 大樹の城に保管されているコレクション……エアが数千年をかけて収集した特別な人間を使い尽くしてでも、ウータを仕留めるつもりだった。

「本当は彼のこともコレクションに加えてあげたいけど……それで私が殺されちゃったら身も蓋もないもんねー。その子は『人虎』、魔物に変身することができる異能者だけど、貴方に倒せるかなー?」

 エアが見つめる先、ウータがキマイラの化け物に噛み砕かれている。
 その怪物もまた異世界からの漂流者。勇者として召喚されたわけではなく、偶発的な事故によって千年ほど前にこの世界にやってきた人間だった。
 分身によって世界中を観測していたエアの目に留まり、珍しい人間として捕獲。
 戯れに様々な実験を行われたことによって、いくつもの魔物が混ざり合った怪物となったのである。

『グシャ、グシャグシャ……ゴクリッ』

「終りねー。お疲れ様」

 長い実験により、キマイラは人だった頃の理性を失っている。
 完全な怪物と化したキマイラがウータのことを咀嚼して、そのまま飲み込んだ。
 これで終わり……エアが予想以上にあっさりと終わった戦いに、エアが退屈そうに肩をすくめる。

『ごひゃ……』

 だが……すぐに目を見開くことになった。
 突如としてキマイラの身体が砕け散り、塵となって消滅したのである。

『あーあ、ビックリした。ヨダレでグチャグチャだよー』

 そして、塵の山から現れるウータ。
 獰猛な牙によって噛み砕かれていたはずなのに、ウータの身体には傷一つない。
 肉体はおろか、服までもが元通りになっている。

「へー……面白いじゃない。そう来なくっちゃつまらないわよねー?」

 エアが愉快そうに肩を揺らす。
 ウータと仲間達は塵となったキマイラを踏み越えて進んでいく。

「うんうん、フレア達を殺しただけはあるじゃなーい? それじゃあ、こっちの玩具はどうかな?」

「「「「「…………」」」」」

 エアが振り返ると、そこには五人の男女が並んで立っていた。
 年齢、人種、容姿、服装もバラバラの人間達。
 彼らもまた、エアが保管していたコレクション。それぞれが特殊な異能を持って生まれた異端の人妖である。
 男女の両目からは完全に理性の光が失われており、まるで人形のように感情が失われて空虚な表情になっていた。

「行ってきなさーい。アレを殺してきたら、もう身体も魂も弄らないであげる。人として死なせてあげるから、頑張ってきなさーい」

「「「「「…………」」」」」

 五人は無言で首肯して、エアの傍から離れていった。

「まあ、最後は私が勝つんだろうけど……せいぜい、楽しませてねー?」

 まるで映画でも鑑賞するかのように、エアがお菓子を食べながらニヤニヤと笑った。
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