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第3章 愚者の選択
6.猫の依頼
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やがてテーブルの上の料理が残らずたいらげられた。
ちなみに、俺が口にしたのは山ほど頼んだ料理のほんの1割ほどである。残りの大部分はミャアが1人で食べ尽くしている。
目の前の猫少女が特別に健啖家なのか、それとも獣人という種族が大食らいなのか。答えは判然としないが、ミャアの腹はまるで妊娠しているかのようにこんもりと膨らんでいる。
「はあ、満足しましたにゃあ……」
「それは良かったよ。いや、マジで」
多めに頼んだ料理が足りず、追加で注文させられた時にはどうなることかと思った。
『貯金箱』スキルのおかげで手持ちの金銭には余裕があるが、腹が破裂するまで食べるんじゃないかとヒヤヒヤさせられたものである。
「ご、ごめんなさい。ちょっと食べすぎちゃって……」
膨らんだお腹を撫でていたミャアであったが、どうやら俺の視線に気がついたらしい。
今さらのように頬を染めて、恥ずかしそうに縮こまる。
「いや……別に構わないよ。子供はお腹いっぱい食べるのが正しいあり方だからな」
少なくとも、先ほどまでのミャアのようにやせ細っているべきではない。
子供が飢えなければいけない社会は、間違っている社会だ。
「さて……それじゃあご飯も終わったことだし、そろそろ仕事の話に入ろうか。たしか、闇ギルドに依頼があるとか言ってたよな?」
「そ、そうです……あのう、あなたは……」
「それも今さらだが……俺の名前は一鉄という。闇ギルドに所属している人間だ」
「ええっ!?」
ミャアが手を口に当てて驚きの声を上げる。背後では、長い尻尾がピーンと立っている。
「そんなに驚くことじゃないだろ? 話の流れからして、俺が関係者だとわかるはずだが?」
「だ、だってお兄さんはごはんを食べさせてくれて、とっても優しくて……そんなに怖い人には見えなかったから……」
「それは誉め言葉として受け取っておくけどな。まあ、しょせんは新入りの下っ端だ。だから畏まらなくてもいいぞ?」
「わ、わかりました……」
一鉄がヒラヒラと手を振ると、ミャアは一応は信用してくれたらしく神妙な顔つきになる。
そして、ポツポツと依頼の内容について語りだした。
「わたしがお願いをしたいのは、わたしの故郷を滅ぼして家族を殺したやつら……獣人狩りを殺して欲しいのです……
「獣人狩り?」
「はいです」
ミャアは沈痛な面持ちで説明をする。
それは拙く、途切れ途切れの口調であったが、それでも必死に自分が知っていることを伝えようとしているのが感じられた。
10分ほど時間を変えて説明を終え、ミャアはへにゃりと猫耳を垂らした。
「なるほどな……そんな事件が起こってたのか」
獣人狩りというのは、ここ1ヵ月くらいの間に辺境で起こっている事件らしい。
グランロゼ王国の辺境には亜人や獣人が暮らしている集落が点在している。
この国は人間以外の種族に対して差別的な感情を持っているものが多いのだが、それでも一定額の税を納めてさえいれば、集落を持つことが許されていた。
ミャアが暮らしていたのもそんな集落の1つであり、数十人の猫獣人が纏まって暮らしていた。
貧しいながらも穏やかな生活を送っていた彼らであったが、数日前に獣人狩りに襲撃を受けて滅亡に追いやられたとのことである。
集落で暮らしていた大人の獣人は大部分が命を落とし、彼らの犠牲と引き換えに何人かの子供だけが逃げることができたらしい。
生き残った子供たちは森の中に隠れながら、自分の故郷と家族を奪った獣人狩りへの復讐を誓った。
しかし――子供しかいない彼らにできることは少ない。明日も知れず、自分達が生きていくことさえもままならないのだ。
そこで、彼らが思いついたのは以前から噂を聞いていた闇ギルドの力を借りることだった。
「冒険者ギルドは獣人の依頼は受けてくれない。でも、闇ギルドの人達だったら、報酬さえ支払えばなんだってしてくれるって……」
「……そうか。それは大変だったな」
ミャアの話を聞いて、一鉄は苦いものでも口にしたような顔で瞼を閉じた。
親を殺され、集落を焼かれ、それでも一縷の望みをかけて非合法な組織を尋ねてきた猫獣人の少女。
いったいどれだけ怖かったのか。悔しかったのか。辛かったのか――それは想像を絶するものである。
(獣人狩り……生かしてはおけるものかよ……!)
獣人ばかりを狙っているという彼らに、どんな動機や大義名分があるかはわからない。
しかし――こんな小さな子供を不幸のどん底に追いやってまで、果たされなければいけない正義などあるものか。
(断じて潰す! せいぜい命乞いの用意をしていやがれ!)
一鉄は心に固く誓い、テーブルの下で拳を握り締めた。
ちなみに、俺が口にしたのは山ほど頼んだ料理のほんの1割ほどである。残りの大部分はミャアが1人で食べ尽くしている。
目の前の猫少女が特別に健啖家なのか、それとも獣人という種族が大食らいなのか。答えは判然としないが、ミャアの腹はまるで妊娠しているかのようにこんもりと膨らんでいる。
「はあ、満足しましたにゃあ……」
「それは良かったよ。いや、マジで」
多めに頼んだ料理が足りず、追加で注文させられた時にはどうなることかと思った。
『貯金箱』スキルのおかげで手持ちの金銭には余裕があるが、腹が破裂するまで食べるんじゃないかとヒヤヒヤさせられたものである。
「ご、ごめんなさい。ちょっと食べすぎちゃって……」
膨らんだお腹を撫でていたミャアであったが、どうやら俺の視線に気がついたらしい。
今さらのように頬を染めて、恥ずかしそうに縮こまる。
「いや……別に構わないよ。子供はお腹いっぱい食べるのが正しいあり方だからな」
少なくとも、先ほどまでのミャアのようにやせ細っているべきではない。
子供が飢えなければいけない社会は、間違っている社会だ。
「さて……それじゃあご飯も終わったことだし、そろそろ仕事の話に入ろうか。たしか、闇ギルドに依頼があるとか言ってたよな?」
「そ、そうです……あのう、あなたは……」
「それも今さらだが……俺の名前は一鉄という。闇ギルドに所属している人間だ」
「ええっ!?」
ミャアが手を口に当てて驚きの声を上げる。背後では、長い尻尾がピーンと立っている。
「そんなに驚くことじゃないだろ? 話の流れからして、俺が関係者だとわかるはずだが?」
「だ、だってお兄さんはごはんを食べさせてくれて、とっても優しくて……そんなに怖い人には見えなかったから……」
「それは誉め言葉として受け取っておくけどな。まあ、しょせんは新入りの下っ端だ。だから畏まらなくてもいいぞ?」
「わ、わかりました……」
一鉄がヒラヒラと手を振ると、ミャアは一応は信用してくれたらしく神妙な顔つきになる。
そして、ポツポツと依頼の内容について語りだした。
「わたしがお願いをしたいのは、わたしの故郷を滅ぼして家族を殺したやつら……獣人狩りを殺して欲しいのです……
「獣人狩り?」
「はいです」
ミャアは沈痛な面持ちで説明をする。
それは拙く、途切れ途切れの口調であったが、それでも必死に自分が知っていることを伝えようとしているのが感じられた。
10分ほど時間を変えて説明を終え、ミャアはへにゃりと猫耳を垂らした。
「なるほどな……そんな事件が起こってたのか」
獣人狩りというのは、ここ1ヵ月くらいの間に辺境で起こっている事件らしい。
グランロゼ王国の辺境には亜人や獣人が暮らしている集落が点在している。
この国は人間以外の種族に対して差別的な感情を持っているものが多いのだが、それでも一定額の税を納めてさえいれば、集落を持つことが許されていた。
ミャアが暮らしていたのもそんな集落の1つであり、数十人の猫獣人が纏まって暮らしていた。
貧しいながらも穏やかな生活を送っていた彼らであったが、数日前に獣人狩りに襲撃を受けて滅亡に追いやられたとのことである。
集落で暮らしていた大人の獣人は大部分が命を落とし、彼らの犠牲と引き換えに何人かの子供だけが逃げることができたらしい。
生き残った子供たちは森の中に隠れながら、自分の故郷と家族を奪った獣人狩りへの復讐を誓った。
しかし――子供しかいない彼らにできることは少ない。明日も知れず、自分達が生きていくことさえもままならないのだ。
そこで、彼らが思いついたのは以前から噂を聞いていた闇ギルドの力を借りることだった。
「冒険者ギルドは獣人の依頼は受けてくれない。でも、闇ギルドの人達だったら、報酬さえ支払えばなんだってしてくれるって……」
「……そうか。それは大変だったな」
ミャアの話を聞いて、一鉄は苦いものでも口にしたような顔で瞼を閉じた。
親を殺され、集落を焼かれ、それでも一縷の望みをかけて非合法な組織を尋ねてきた猫獣人の少女。
いったいどれだけ怖かったのか。悔しかったのか。辛かったのか――それは想像を絶するものである。
(獣人狩り……生かしてはおけるものかよ……!)
獣人ばかりを狙っているという彼らに、どんな動機や大義名分があるかはわからない。
しかし――こんな小さな子供を不幸のどん底に追いやってまで、果たされなければいけない正義などあるものか。
(断じて潰す! せいぜい命乞いの用意をしていやがれ!)
一鉄は心に固く誓い、テーブルの下で拳を握り締めた。
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