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第3章 愚者の選択
8.秘密の砂金
しおりを挟む「どうして獣人の女の子がこんなものを……」
「俺も気になって聞いたんだがな。どうやら、北方辺境にある川で採れるらしいぞ?」
獣人達が集落をつくっている北方辺境は、魔王種の一角である狼王マルコシアスの縄張りが近い場所である。
あの辺りは良質な鉱山に恵まれており、マルコシアスが出現する以前は採掘場として栄えていたらしい。
「どうやら、マルコシアスが棲んでいる山には金鉱もあるようだな。それが地下水脈に乗って外の川まで流されてきたようだ。それを獣人が拾い集めて、隠していたらしい」
「でも、獣人が金を持っていても意味がないんじゃないかしら? 彼らには価値のないものでしょう?」
ルーナは指先で砂金をつまんでしげしげと眺めつつ、そんな疑問をつぶやいた。
獣人には貨幣経済が存在しない。砂金など拾い集めたところで、まさに猫に小判ではないだろうか。
「獣人には無価値なものかもしれないな。しかし……人間が、王国側が砂金の存在に気がついたらどうなる?」
「あ……なるほど、そういうことね」
一鉄が言わんとしていることに気がつき、ルーナは目を瞬かせた。
獣人達は砂金など必要としていない。
しかし、もしもこの国の貴族や王族が北方辺境の川に砂金があることに気がつけば、当然、それを手中に収めようとするだろう。
この国において獣人は差別される存在であるが、それでも実りの少ない辺境であれば見逃される程度には、存在を容認されている。
それは北方辺境に価値がないからであり、自分達が必要としない土地だから許されているのだ。
「……もしも王国上層部が砂金に気がつけば、確実に奪い取ろうとするだろうな。獣人を追い出して土地を奪い、そこを金の採掘場にするだろう」
そうなれば、行き場を無くした獣人はどこかに移らないといけなくなる。
マルコシアスが棲んでいる北部の山に行くか。それとも、雪で閉ざされた未開の地に旅立つか。どちらにせよ、安住の地を得られる可能性は限りなく小さい。
「獣人にとって、砂金はどうしても存在が明らかになってはいけない爆弾だ。使い道がなくとも、回収して人目がつかない場所に隠す必要がある」
「……なるほど、納得したわ。それでその子が金を持っていたのね?」
「ああ、不用心極まりないことだがな」
一鉄は深々と溜息をついた。改めて考えると、本当に危うい行動である。
もしもミャアが砂金を持っているところを他の人間に見られていたら、とんでもないことになっていたに違いない。
欲望に歪んだ人間はミャアがどこで金を手に入れたのか、あらゆる方法で聞き出そうとするだろう。それこそ、拷問だってするかもしれない。
「あの子が信じたのが俺でよかったよ。本当に」
初対面の相手に虎の子の砂金を差し出すなんて、本当に危なっかしい子である。一鉄が詐欺師などの悪意ある人間だったらどうするつもりだったのだろうか。
やはり辺境の集落で生まれ育っただけあって、世間知らずで誰かに騙された経験がないようである。
「それにしても……砂金とはねえ。ひょっとして、『獣人狩り』の目的も金だったのかしら?」
「うーん、絶対ないとは言わないが……ミャアの話を聞く限りでは可能性は低いな」
ミャアから聞いた話によると、『獣人狩り』はミャアの集落の猫獣人に尋問などすることなく、容赦なく殺戮をしていったようだ。
もしも金が目当てであれば、隠し場所を聞き出そうとするはずだ。
「……奴らの目的が何だとしても、やることは変わらない。平和に暮らしていただけの獣人を殺して、子供を路頭に迷わせるようなクズを生かしておくつもりはない。殲滅していいのは殲滅される覚悟がある奴だけだと、連中の魂に刻み込んでやるよ」
「まあ……私はお金がもらえるのなら構わないわよ。情報収集はしてあげる。容赦なく殲滅すればいいわ」
「そうするさ。それが俺の美学だからな」
言い捨てて、一鉄は右手で顔を覆う。
『金色の殲滅者』――王国最強の掃除屋が動き出した瞬間である。
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