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第3章 愚者の選択

16.結界

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 やがて、頭部を失った勝也の身体が思い出したように地面に倒れる。
 バタリと横たわった友人の姿を見て、龍二はわけもわからないままに駆け寄ろうとする。

「勝也あああああああアアアアアアッ!」

「待て、龍二! 神鉄防衛結界《アブソリュート・バリア》、発動!」

「っ……!」

 護は龍二の肩を掴み、現在、使うことができる最も強力な結界を発動させる。虹色のドームが広がって2人と兵士を取り囲んだ。

「っ……!」

「こいつは……!」

 次の瞬間、再び銀色の閃光が2人めがけて走ってくる。閃光は結界に衝突して、弦を弾いたような音を鳴らして消滅した。もしも結界の発動がわずかに遅ければ、2人も勝也と同じ末路を辿ったかもしれない。
 そこまできて龍二はようやく自分達が何者かに攻撃を受けていることを悟り、銀の閃光が飛んできた方角へと目を向ける。同行していた兵士達もざわつきながら、同じ方向を見ている。

「襲撃だと!? いったい誰が!?」

「わからない! だけど、俺の隔離結界を簡単に破れる奴だよ!」

 勝也が殺された時、護は自分の結界が何者かの攻撃によって一瞬で破壊されたことを感じていた。
『隔離結界』は現在発動している『神鉄防衛結界』に比べると紙のように脆い装甲であったが、それでも並の攻撃で破れるようなものではない。
 かつて勇者の間で行われた模擬戦では、40人の勇者で最大の火力を誇る『爆炎使いの勇者』の一撃ですらギリギリで耐えて見せたのだ。
 つまり、現在『獣人狩り』の一団を襲っている襲撃者は、勇者と同等以上の攻撃力を持っていることになる。

 護が敵の力を分析しているうちにも攻撃は続いている。銀色の閃光が立て続けに結界に着弾して、音を立てて弾け飛ぶ。

「この結界だったら耐えられる。だけど、これからどうすれば……」

 護の結界は発動させながら移動できるようなものではない。
 襲撃者に反撃するにせよ、この場から離脱するにせよ、結界を解除しなければ移動することはできないのだ。
 しかし、結界を解除した途端、銀の閃光が彼らを貫くだろう。

「どうにかして逃げないと……」

「逃げる……? ふざけるなよ、護!」

「龍二?」

 護が振り返ると、龍二は目を血走らせて唇を噛みしめていた。
 その顔に浮かんでいるのは憤怒の表情。目の前で仲間を殺されて、復讐に燃える顔であった。

「どうして勝也を殺した奴を見逃して、逃げなくちゃいけないんだよ! 誰だか知らないが、ぶち殺して内臓さらしてやる!」

「…………はあ。しょうがない奴め」

 護は溜息をついた。こうなった以上、龍二はこちらの話を聞きはしないだろう。
 日本にいた頃からそうだった。龍二は怒りっぽい性格であったが、特に仲間と認めた人間がやられた時には冷静さをかなぐり捨てて暴れてしまう。
 そのたびに護はフォローに走らされて苦慮することになるのだが、同時にそんな竜司を頼もしくも思ったものである。

 そうこうしているうちに龍二は動き出した。
 龍二の身体から魔力が放出され、それは赤い鱗のような形状に物質化して、全身を鎧のように覆い尽くしていく。
 これこそが40人の勇者の中で最強の防御力を誇る龍二のスキル――『竜鱗』であった。

「護、俺の『竜鱗』であいつの砲撃を受け止める! バラけて森に隠れながら敵に近づいて、奴を仕留めるぞ!」

「ああ、わかったよ! こうなったらやって……」

 龍二に答えようとする護であったが、途中で言葉を止めた。
 結界の向こう側。襲撃者がいる方向でキラリと金色の光が煌いたのだ。

「りゅうっ……!?」

 アレはヤバい。危険だ。
 護は咄嗟に叫ぼうとした。しかし、それよりも先に金色の閃光が駆け抜けてきて、護の結界にぶつかった。
 さっきまでの攻撃とは明らかに違う。こんな破壊力は知らない。

「ぐっ……!」

 護は全身全霊の力を結界に込めて、攻撃を防ごうとする。
 しかし――耐えることができたのは1秒にも満たない時間だった。
 冗談のような貫通力にあっさりと結界は崩壊して、金色の閃光が護めがけて飛んできた。

「ぎゃああああああああああああっ!?」

「うわあああああああああああああ!」

(こ……れは……!)

 兵士達の叫ぶ声が迸る。同時に、護の脳裏に人生最期となる思考が走った。

(龍二、こいつと戦ってはいけない……! こいつは、ヤバすぎる……!)

 そんな思考を最後に、畠山護の意識は金色の光の中に包まれていった。

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