14 / 103
第一章 日下部さん家の四姉妹
13.三女は可愛いサイキッカー⑤
しおりを挟む「む……」
何だコイツは。
とんでもなく粘着質で気持ちが悪いというか、ナルシストが全面的に出ている嫌なタイプのイケメンだ。
風夏を見る目はやたらと陰湿でいやらしく、とてもではないが中学生の少女に向けるようなものではない。
「まさか君の方から来てくれるとは嬉しいよ! ボクの可愛い花嫁。運命に選ばれたエンジェルよ!」
「…………」
気取ったように髪をかき上げる粘着質なイケメン――天童時彦とやらを、風夏が厳しい目線で睨みつける。
歓迎するように両手を広げて満面の笑みを浮かべる天童に対して、風夏の顔は軽蔑しきった表情であり、とても友好的な関係であるとは思えない。
可愛い妹分がおかしな男と親しくなっているのでないことは安心だが……ともあれ、この男は何者なのだろうか?
「……ようやく追い詰めたわよ。仲間の仇、ミヤコ先輩を殺した罪をここで裁いてあげるわ!」
「ふふっ……そんなに情熱的な目を向けないでくれたまえ。興奮して堪らなくなってしまうじゃないか!」
「……本当に気持ち悪い。どうしてアナタみたいな人に先輩が殺されなくちゃいけなかったのよ!?」
「先輩……? あの忌々しい女のことを言っているのであれば、あれは当然の報いだよ。ボクと君の仲を阻んだ、新世界の神であるこのボクに逆らったのだから死をもって報いるべきじゃないか」
うわー……『新世界の神』とか言い出したよ。
中二病だ。中学生女子である少女を中二病のキモイケメンが口説いている。
風夏が置かれている状況を調べるために姿を消したまま様子を窺っているが……もう姿を現して、コイツをぶっ飛ばしてもいいんじゃないかな?
可愛い妹分がこんなキショい男と同じ空間にいることが、もう耐えられなくなってきたのだが。
「天童時彦。もう逃げ場はないぞ。大人しく投降しろ」
トレンチコートの中年男が風夏を庇うように前に出る。
どうやら、この男も天童の気取った口ぶりに耐えられなくなったのだろう。ゴキブリでも見るような表情を顔に浮かべて、懐から取り出した拳銃を天童に向けている。
「投降するのであれば命までは奪わん。無駄な抵抗はやめろ」
「……鬱陶しいなあ。君もボクとイヴの間に割って入るのかい?」
天童が瞳を冷たく細めて、またしても意味もなく前髪をフワッとさせる。
「どうやら、イヴと愛を語り合う前に始末しなくてはいけない人間がいるようだね。構わないさ……愛に障害はつきもの。邪魔者を振り払うほどに愛は激しく燃え上がるのだから!」
「…………」
トレンチコートが無言で引き金を引いた。
現代日本のどこで手に入れたのかは知らないが……それは本物の拳銃だったらしい。
パン、パン、パン――と破裂音が立て続けに響き、数発の鉛の弾丸が天童に向けて放たれる。
「フッ……無粋なことだ。美しさの欠片もない」
「…………!」
しかし、弾丸が天童に命中することはなかった。
天童の前方に立ちふさがった人型の何かが弾丸を受け止めたのである。
「チッ、デク人形が……!」
トレンチコートが舌打ちをした。
それはシルエットこそ人間と同じ形をしていたが、銀色に光を反射する材質は金属製に見える。目も鼻もない卵のような顔。流麗な手足はまるで人間型のロボットのようだった。
しかし、ロボットであるならばあるはずの関節部分のつなぎ目などが存在しない。粘土細工のように一塊の素材で構築されている。
「…………?」
生命力を感じさせない人型の正体も気になるが、それ以上にわからないのは、それが何処から現れたかわからないこと。
この銀の人型は何もない空間から突如として現れた。召喚や転移などの気配も感じなかったのだ。
「殺せ、シルバーナイト」
『――――――――――』
天童の命令に従い、銀色の『人型』――シルバーナイトが動き出す。
シルバーナイトの腕部分が鋭い刃物のように変形して、トレンチコートに向けて振り下ろされる。
「坂城さん、下がってください!」
振り下ろされた刃を迎え撃ったのはスーツの女性である。
キャリアウーマン風の彼女が手をかざすと、そこに半透明の壁のようなものが出現して斬撃を受け止めた。
どうやら、キャリアウーマンさんはバリアーや結界のようなものを使う特殊能力者のようだ。
「小賢しい。無駄な抵抗だね」
しかし、再びシルバーナイトの腕が変形する。
刃物からドリルのような形状に変化した腕が、高速回転しながらキャリアウーマンさんのバリアーに突き刺さった。
「くっ……!」
高速回転するドリルによって徐々にバリアーが削られていき……とうとうそれが砕け散った。ドリルがキャリアウーマンさんの身体を貫くべく、シルバーナイトの腕から伸びてくる。
「…………!」
そんな危機一髪な状況を見て、僕もさすがに動きかけるが……それよりも先にキャリアウーマンさんを救った人間がいた。
「消えなさい」
それは僕の可愛い妹分――日下部風夏である。
風夏がシルバーナイトに向けて右手をかざすと、まるで最初から存在しなかったかのように銀色の人形が消滅したのだ。
「ッ……!」
これには僕も息を呑んだ。
あの正体不明のシルバーナイトを破壊するだけならば、勇者である僕にとっては容易いこと。バラバラに切り刻むでも、粉々に吹き飛ばすでも……いくらでもやりようがある。
だが……風夏がどうやってシルバーナイトを消し去ったのか全くわからない。残骸の欠片も残すことなく消滅させるなんて、勇者にも魔王にもできないことだ。
「素晴らしい! 素晴らしいよ!」
そんな風夏の力を見て、天童が両手を広げて喝采した。
「本当に素晴らしい能力だ! この世のあらゆるものを跡形もなく消滅させる超能力――『破壊』! まさに世界を変える力! 穢れきったこの世界を浄化する力じゃないか!」
天童は血走った眼で風夏を見つめて、ニチャリと喜色の悪い笑みを口元に浮かべる。
「その力があれば、この世の全てを根本から造りかえることができる。ボクの『創造』の力と合わされば、この世界を創世記からやり直すことだってできるだろう! ボクらはまさにアダムとイブ! 新世界を生み出す始まりの使徒なのさ!」
272
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる