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第二章 クラスメイトは吸血鬼
22.夢魔と本屋と常夏の島①
しおりを挟む「月白さん、今日も休みっぽいなー」
「体調を崩してるんだってさ。身体も細いし病弱そうだもんな」
「心配だな。見舞いとか行けたらいいんだけど」
「…………」
高校の教室。
クラスの男子生徒らの会話が耳に入ってきて、僕は思わず苦い顔になってしまう。
先日の狼少女――伏影ナズナとの戦いから、月白さんはずっと学校を休んでいた。
それというのも……今回の一件がきっかけとなって吸血鬼ギャングのボスである彼女の父親に、ずっと人狼に狙われていたことがバレてしまったのだ。
おまけに父親に無断でナズナに接触したことを咎められてしまい、安全と謹慎のために自宅から出してもらえなくなってしまった。
もう1週間も学校を休んでいる。
一応、スマホは取り上げられていないらしくて連絡はもらっているのだが……どうにも、状況は芳しくないようだ。
人狼ギャングが何度も月白さんのことを襲い、拉致しようとしていた。
その後、吸血鬼ギャングの娘である月白さん(+僕)がナズナを結果的に襲撃してしまった。
この2つの事実によって両者の間では緊迫状態が生じており、今にも抗争に発展しそうな状況になっているらしい。
『このままでは抗争勃発は時間の問題です……どうにかできるとすれば、『夢魔ギャング』をこちらの味方につけることでしょう』
吸血鬼ギャングと人狼ギャング。
両者の間で戦端が切られていないのは、第三勢力である夢魔ギャングが存在しているからである。
人狼は吸血鬼に強く、吸血鬼は夢魔に強く、夢魔は人狼に強い。
この三竦みがあるからこそ、調停役である『大天狗』とやらがいなくなってからも決定的な戦いに至っていないのだ。
ならば、夢魔ギャングをこちら側……吸血鬼ギャングという意味ではなく、平和を望んでいる『月白さんと僕』の側に引き込んでしまえば、抗争を阻止することができるかもしれない。
『ただ……ナズナさんの時のようなこともあります。夢魔は人狼ほど好戦的ではありませんが、現時点では味方ではありません。迂闊に接触すれば、かえって火に油を注ぐことになるかもしれません』
ナズナを説得しようとした結果、戦いになって溝を深めてしまった。
下手をすれば夢魔ギャングとも同じようなことが起こる可能性があった。
「だが……それでもやらねばならない」
僕は教室の窓から空を見上げ……周囲のクラスメイトに聞こえないように小さくつぶやいた。
やらずに後悔するよりも、やって後悔した方がいい。
もちろん、それは綺麗事だったが……このまま放っておいて3つのギャングが戦うよりも、一縷の希望に縋りついた方がマシなはずだ。
たとえまた結果が裏目に出るとしても……平和を手にするためには戦うしかなかった。
『八雲君、夢魔ギャングのボスの娘に会ってください。私の代わりに彼女に会って、抗争を止めるのに協力してくれるように頼んでください』
僕は昨晩、月白さんから電話で指示された内容を思い出した。
指示の内容は人狼ギャングの時と同じ。敵対しているギャングのボスの娘と接触して、味方に引き入れること。
伏影ナズナのときと異なっているのは、今度は月白さんが身動きを取ることができず、僕だけでやらなくてはいけないことだった。
『夢魔ギャングのボスの娘……彼女の名前は有楽院ミツバと言います。私達と同じ学校に通っている1年生です』
有楽院ミツバ。
名前は知っているし遠くから見かけたこともある。
月城真雪、伏影ナズナと並ぶ学園三大美女。
1年生でトップとも謳われる彼女に、これから接触しなくてはいけない。
「やってやる……やってやるぞ……!」
見ていてくれ、月白さん。
僕は必ず有楽院ミツバと接触して見せる。
窓から見上げた空に月白さんの顔を浮かべ……僕は確固たる決意を込めてそうつぶやくのだった。
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