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第二章 クラスメイトは吸血鬼
23.夢魔と本屋と常夏の島②
しおりを挟む新たなるミッション。
学園三大美女の1人。1年生最大の美少女と呼ばれる有楽院ミツバと接触せよ。
この任務を達成するため、僕は放課後になるとすぐに1年生の教室へと向かった。
2年生が1年の教室の前をうろついていたら変に目立ってしまう。念には念を入れて、『忍び歩き』のスキルを使って気配と姿を隠しておく。
「有楽院ミツバは……この教室だな?」
彼女が何組に在籍しているかは事前に調べてある。クラスの男子に聞いてみたら、すぐに教えてくれたのだ。
有楽院ミツバは三大美少女に数えられるだけあって男子からはかなり注目されている。
何人かの男子はかなり詳しくミツバを調べていたらしい。僕の問いがきっかけとなり、彼らの間で『どこまでミツバを知っているか』という謎の論争まで勃発した。
おかげでミツバの趣味やら出身中学やら住所やら。身長、体重、スリーサイズ。好みの下着の傾向まで……親しい人間でも知りようのないパーソナルデータまで把握することができた。
とりあえず……スリーサイズなどを知っていた男子については先生に通報して、ストーカーとして突き出しておく。
「教えてくれてありがとう。ちゃんとこっちでデストロイ……じゃなくて、生徒指導室でお説教しておくわね」
今年の春から赴任した女性教員はそう確約して、そいつらの首根っこを掴んで引きずっていった。
新任教師だというのに随分とパワフルである。男前すぎて惚れてしまいそうな対応である。
ともあれ、有楽院ミツバの居場所はわかった。
彼女の教室に行くと……教室の最後方に『彼女』の姿を発見する。
「む……」
「フーン♪」
彼女――有楽院ミツバは教室の最後列、中央にある机に座っており優雅に脚を組んでスマホをいじくっていた。
小柄な女子だった。細い女子だった。だが……不思議なほどに色気のある女子だった。
「何だ……あの子は……」
何故だろうか、彼女を見つめていると自然と生唾が出てきてしまう。
月白さんもナズナもすこぶる美少女だったが……2人に対してはこんなことはなかったというのに。
有楽院ミツバはピンクに染めた髪をボブヘアにしており、耳にはピアスを付けている。
伏影ナズナとは違う意味で不良っぽい女子だった。化粧もしているのか、鮮烈な色彩の唇が吸い寄せるように目を引いてくる。
身体つきは色気とは対極的。幼児体型とさえいえる貧相な身体つきだった。胸は小さくて中学生どころか小学生レベル。
だが……生意気そうな顔つき。カラーコンタクトでも入れているのか赤い瞳は周囲の人間を馬鹿にしているように吊り上がっており、鼻歌を口ずさむ声は蜂蜜のように甘いトーンである。
「ミツバ様、喉は乾いていませんか?」
「こちらをどうぞ。飲んでください、ミツバ様!」
「クッキーもどうぞ! 好きなだけ食べてください!」
さらに驚かされるのは、彼女の周囲には複数の男子が従僕のように侍っているのだ。
ある男子はミツバにペットボトルのレモンティーを差し出し、別の男子は包装を破った市販のクッキーを。また別の男子は跪いて歌とも詩とも呼べないものをミツバに向けて囁きかけていた。
しかし……ミツバはその周辺の男子をまるで意に介した様子はない。まるで自分を飾る無数のアクセサリーの1つでしかないと言わんばかりに、無視するように振る舞っているのだ。
「め、メスガキだ……初めて見た……!」
そんな彼女の姿に確信する。
有楽院ミツバはいわゆる『メスガキ』と呼ばれるタイプの女子だった。
メスガキとはもともとは女性に対する蔑称。女の子を馬鹿にする際に使われるある種の差別用語。
だが……最近のマンガやラノベでは生意気で高圧的、男子を見下して「雑魚」呼ばわりして挑発する女子に対する属性として用いられている。
ミツバはどうやら、そんな典型的な『メスガキ』だったらしい。
当然のように男を魅了していながら、男という存在に少しも価値を抱くこともなく下に見ている。ミツバの態度からはそんな彼女の在り方がヒシヒシと伝わってきた。
「まいったな……これって、僕が接触しても逆効果なんじゃないか?」
遠くから見ただけでもわかる。
ミツバは男の僕が何を言ったとしても、まともに耳に入れることはないだろう。交渉が上手くいくとは思えなかった。
「月白さんも知っているのなら教えてくれたらいいのに……というか、事前に聞いていた話と全然、違うんだけど?」
昨晩、月白さんと電話をしたときに有楽院ミツバという夢魔の人物像については聞いていた。
『ミツバさんは夢魔という種族からは考えられないほど大人しくて、気が小さい子です。彼女も平和主義で抗争を快く思っていないはずですから、接触さえできれば協力してくれるはずですよ』
「話が違う……聞いてた子と全然違うよ……」
月白さんがミツバと最後に会ったのは1年ほど前のことらしいが……間違った形で高校デビューを飾っているじゃないか。
「これから、あの子にわからせないといけないのか? 冗談だろう?」
僕は教室の外からミツバのことを見つめ、思った以上に困難なミッションに肩を落としたのである。
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