84 / 103
第二章 クラスメイトは吸血鬼
24.夢魔と本屋と常夏の島③
しおりを挟む「それじゃ、あーしはもう帰るからねー」
「ミツバ様、どうか送らせてください!」
「待て、ここは俺が!」
「ヒーハー! オレが家まで送っていくぜい!」
しばらくスマホを弄っていたミツバであったが、やがて椅子から立ち上がって下校しようとする。当然のように周囲の取り巻きも続いていく。
ミツバは10人近い男子を引き連れて教室を出ていき、下駄箱に向かっていった。
「うーん……どうしようかな、話しかけるタイミングがないぞ?」
スキルで姿を隠したままミツバを見つめながら……僕は腕を組んで唸った。
ミツバの周囲にいるのはおそらく、普通の男子高校生である。彼らの存在が邪魔になって話し合いに持ち込めない。
「後ろをついていってチャンスを待つしかないんだけど……あるかな、あの子が1人になることなんてあるのか?」
下駄箱で靴を履き替えて校舎から出たミツバであったが、相変わらず周囲に男を侍らせていた。
彼らが人壁となっており、近づく隙が少しもない。
「はあはあ、ミツバたん」
「ちゃんと自宅まで見守ってるからね……ボクだけのミツバ」
「ミツバちゃん、萌え……!」
おまけに……僕以外にも彼女を尾行している男達がいた。
数人の男達が物陰に隠れ、下校するミツバを見守っている。
「ハアハア」と荒い息を吐いている彼らは制服を着ている同じ学校の生徒もいれば、明らかに成人している人間もいた。
ウチの学校の生徒はともかく、他の連中は出待ちでもしていたのだろうか?
「見守ってるというかストーカーだよね……いや、他人のことをどうこう言えない状況なんだけどさ」
僕だってミツバを尾行している1人である。
スキルで姿を隠していなかったら、ミツバの後を尾けるストーカーの1人として認識されていたことだろう。
ミツバと取り巻き。ストーカー軍団。そして僕。
総勢20名以上の人間が下校路をぞろぞろと歩いていく。いったい、何の一団だと理解不明な群れである。
「あ、ちょい待ちー」
道の真ん中を闊歩していく集団であったが……不意に先頭のミツバが立ち止まる。
「あーし、ちょっとお花摘みに行ってくるわ。先に帰ってていいよー?」
ミツバが近くにあるコンビニを指差した。
取り巻きの男子から離れてスタスタとコンビニに入っていくが、残された男子らがその場にひざまずく。
「ここで帰りをお待ちしております。ミツバ様!」
「一日千秋の思いで……どうか無事に帰ってきてください!」
「どうか振り返らずに行ってください……あなたの顔を見てしまったら、引き留めたくなってしまいますので……!」
「……馬鹿なの、この人ら」
まるで戦場に旅立っていく主人を見送るような取り巻きの態度に、僕はドン引きしてつぶやいた。
コンビニのトイレに行くだけだというのに……この人らは何を盛り上がっているのだろう。よくよく見てみると、目じりから涙を流している者までいるくらいだ。
「怖い……なんだ、この得体のしれない忠義は……」
おそらく、あの男達はミツバが「死ね」と命じたら迷うことなく自分の首を掻っ切ることだろう。
異世界を旅してきたころに出会った邪神の狂信者どもにも通じる謎の忠誠心は、実力の大小とは関係なく恐怖を感じさせるものだった。
「そういえば……彼女は夢魔だったな。もしかして……?」
夢魔という種族ならば、相手を魅了して操り人形にすることなどもできるのかもしれない。
今さら気がついたことではあるが、あの取り巻きは魅了によって心を奪われ、操られている可能性があった。
「これは警戒レベルを上げる必要があるな……気をつけよう」
精神耐性系のスキルは持っている。魅了されて操られる心配はないはず。
しかし、ミツバを見つめていると無意識に引き付けられているような感覚もあるし、油断はしない方が良いだろう。
警戒心を強める僕の視線の先、ミツバがコンビニに入っていった。
ちょうど1人になっているようだが……さすがに今は接触することは難しいだろう。
コンビニの前には取り巻きが整列して並んでいるし、そうでなくてもトイレに行っている女子にどう突入しろというのだ。
その気になれば誰にも見られずにトイレに忍び込むこともできなくはないが……それをやってしまったら何かが終わってしまうような気がする。
「いくら勇者だからってやって良いことと悪い事があるだろ……いや、勇者は関係ないけどさ」
そうこうしているうちに5分ほど時間が経過した。
やや長く感じられるが……下世話な想像はしない。
女子は男子よりも時間がかかることは四姉妹との生活で知っているし、中で化粧を直している可能性だってある。
「もう少しだけ待って……ん?」
そこでふと感じられる違和感。
今しがたコンビニから1人の女性が出てきたのだが……その女性が妙に気になるのだ。
女性は野暮ったいジャージを身に着けていた。
背は小さい。かなり小柄。黒縁の地味なメガネを身に着けており、長い黒髪をみつあみに結っている。
色気も何もあったものではない。『喪女』と呼べば失礼かもしれないが、そんな暗い雰囲気を全身から醸し出している。
「……あの人、ひょっとして有楽院ミツバじゃないか?」
そう……コンビニから出てきた野暮ったい女性が、何故だか尾行中のメスガキである有楽院ミツバと重なって見えたのだ。
取り巻きの誰も気がついていない。その女性のことをスルーしている。
しかし、見れば見るほど彼女が有楽院ミツバに思えて仕方がない。
「……追いかけるか」
確信はないが、僕は自分の直感を信じることにする。
コンビニから遠ざかっていくジャージ姿の女性を追いかけ、僕はその場を離れたのであった。
33
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる