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夢見るふたり
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そびえ立つ崖。向かいには青い海。その間には、至る所に走る水路と、煉瓦造りの家々が整列しているかのように並んでいる。
特徴的なのは、全てが白色に統一されていること。まるで街全体が雪化粧したようだ。
そして、海の上に浮かぶ水晶の城。
「……」
「……」
「……なぜです!?」
サニィは頭を抱えて呟いた。
そう。
彼女らは、先ほどまでいた街、ティレニアス・シティに戻ってきてしまったのだ。
ソラは方向音痴。アーサーは記憶がないので、土地勘もなし。道がわかるのはサニィだけ。
「…あたし、方向音痴だけど。サニィ、あなた何も言わずついてきたじゃない。」
「う。」
「私も、ソラに先頭を歩かせるのはどうかと思いましたが、サニィさんが何も言わないので何か考えがあるのかといたっ!」
「どういう意味よ。」
ソラは彼の銀髪をひっぱる。
文句をブツブツ呟いていて道を全く見ていなかっただなんて、絶対に言えない。口が裂けても言えない。
サニィは冷や汗だらだら流しながら、声を裏返す。
「も、もちろんですわ!もう夕刻ですし、街に泊まった方が安全かと…」
「え?城に戻った方がいいのでは…」
「いえ!わたくし、一度宿屋に泊まってみたかったのですわ!おほほほ…」
威勢よく出てきたのにとんぼ返りするわけには…!
冷や汗の止まらない彼女の横でソラは顎に手を当てた。
ははーん。さては、また文句たらたら垂れていて、道を見ていなかったな…
「そんなにサニィが宿屋に泊まりたいならいいわよ、行きましょ。お腹すいたし。」
そう言って宿屋の扉を開けた。
***
窓の外には丸い月。満月に寄り添うように架かる淡い光を放つ虹。
空にはいつも虹がかかっている。いや、正確には虹ではない。
この世界の魔法の力を司る、7人の精霊たちの力の証。
「うーん…。」
ソラは窓から見える景色をぼーっと眺めながら、ベッドに横たわっていた。
どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
ころり、と寝返りを打つ。
「アーサー…か…」
誰なのだろう。藍色の美しく優しい瞳。耳に触れた綺麗な手。どこかで…
ソラは自分の耳に触れて瞼を閉じた。
ーーソラ
耳元で誰かに名前を呼ばれた気がした。
あたしに向かって伸びる手が見える。
あなたは誰?
これは夢だろうか、現実だろうか。
ゆっくりと、微睡みに落ちていく。
***
目の前が暗い。先の見えない闇の中。夢を見ているのだろうか。
重い瞼をこじ開けると。
少し先には自分の名前を何度も叫ぶ女性の姿。
身体中が痛い。
彼女に向かって手を伸ばす。しかし、傷だらけの身体は動かない。動かそうと力を入れるだけで激しい痛みがはしる。
すると、彼女は突然自分の方へ走り出す。その背後には魔法の光。
ああ、そうか。さっき私がそうしたように、彼女は私を庇おうとしているのだ。
…そんなのは、だめだ!
私は力を振り絞って彼女の名を呼んだ。
ぱち。
「………」
アーサーはベッドの上で身を起こす。
…夢か。
窓からは月と虹の光が優しく部屋に差してくる。虹は精霊の力の証、とソラが夕食の時に教えてくれた。
夢。
お互いの名を呼ぶ。なんと呼んでいたのか、呼ばれていたのか。
もう既に輪郭は曖昧で。
私は、誰だ。
手を見て自問自答する。
「……」
私は誰を守りたかったのか。
彼は手を握りしめて満月を見た。
***
「おっはよー。」
ソラはまだ眠そうな目をこすりながらテーブルについた。
「おはようございます。」
「あなた、何時間寝たら気が済むのですか?」
「寝る子は育つ、って言うじゃない。ほら。」
ソラは隣にいるサニィの頭に手を乗せ、自分の頭と高さ比べをする。
その手はソラの目の辺り。つまり、ソラの方が背が高い。
「わたくしが小柄なのは家系ですわ!」
サニィは、ぷいっとそっぽを向いた。
「アーサーも、背が高いのね。」
「そうですか?」
だって、とソラは行って向かいの席に座る彼の隣に移動する。
すとん、と椅子に座って、手を自分の頭に乗せる。
「あたしと頭半分くらい違うもの。」
「ほんとですね。」
アーサーはにこっと笑った。
「朝から仲がよろしくて。」
「なっ。ちがっ!」
サニィは、ウインナーを上品に切って口へ運ぶ。
「ところで、この後の行き先ですが。」
ごくん、とウインナーを飲み込んでからサニィは口を開いた。
「近くに水の精霊を祀った青の神殿があります。」
「青の神殿?どうしてまた?」
「まあ、最後まで聞いてくださいませ。」
運ばれてきた食事から視線を彼女に移してソラが言う。
「そこには、"記憶の泉"という、過去の記憶を見ることができる泉があるのです。」
ほう、とアーサーが頬杖をつく。
「わたくしは姉の捜索、アーサーさんは記憶を探している。となりますと、記憶の泉を使うのが最善ではないかと思いました。」
ソラはシャキシャキのレタスを頬張りながら
「アーサーのはいいとして、サニィの記憶を見てどうするの?」
「わたくしのではなく、姉の記憶を見せてもらうのです。」
ソラはレタスを飲み込んで、なるほど、と呟いた。
「ですが、自身の記憶ならまだしも、他人の記憶なんて見られるものなのでしょうか。」
アーサーも、バターを塗ったパンをかじりながら質問する。
すると、サニィは、がたっと椅子から立ち上がり、拳を握りしめて言い放った。
「そこは、王族という権力を振りかざして交渉してみせますわ!さあ!行きましょう!」
「ちょ、ちょっと声が大きいわよ…」
食堂の空気がざわめく。ソラは慌ててサニィを座らせる。
「まずは、腹ごしらえしましょ。」
ソラはそう言って彼女にフォークを手渡した。
特徴的なのは、全てが白色に統一されていること。まるで街全体が雪化粧したようだ。
そして、海の上に浮かぶ水晶の城。
「……」
「……」
「……なぜです!?」
サニィは頭を抱えて呟いた。
そう。
彼女らは、先ほどまでいた街、ティレニアス・シティに戻ってきてしまったのだ。
ソラは方向音痴。アーサーは記憶がないので、土地勘もなし。道がわかるのはサニィだけ。
「…あたし、方向音痴だけど。サニィ、あなた何も言わずついてきたじゃない。」
「う。」
「私も、ソラに先頭を歩かせるのはどうかと思いましたが、サニィさんが何も言わないので何か考えがあるのかといたっ!」
「どういう意味よ。」
ソラは彼の銀髪をひっぱる。
文句をブツブツ呟いていて道を全く見ていなかっただなんて、絶対に言えない。口が裂けても言えない。
サニィは冷や汗だらだら流しながら、声を裏返す。
「も、もちろんですわ!もう夕刻ですし、街に泊まった方が安全かと…」
「え?城に戻った方がいいのでは…」
「いえ!わたくし、一度宿屋に泊まってみたかったのですわ!おほほほ…」
威勢よく出てきたのにとんぼ返りするわけには…!
冷や汗の止まらない彼女の横でソラは顎に手を当てた。
ははーん。さては、また文句たらたら垂れていて、道を見ていなかったな…
「そんなにサニィが宿屋に泊まりたいならいいわよ、行きましょ。お腹すいたし。」
そう言って宿屋の扉を開けた。
***
窓の外には丸い月。満月に寄り添うように架かる淡い光を放つ虹。
空にはいつも虹がかかっている。いや、正確には虹ではない。
この世界の魔法の力を司る、7人の精霊たちの力の証。
「うーん…。」
ソラは窓から見える景色をぼーっと眺めながら、ベッドに横たわっていた。
どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
ころり、と寝返りを打つ。
「アーサー…か…」
誰なのだろう。藍色の美しく優しい瞳。耳に触れた綺麗な手。どこかで…
ソラは自分の耳に触れて瞼を閉じた。
ーーソラ
耳元で誰かに名前を呼ばれた気がした。
あたしに向かって伸びる手が見える。
あなたは誰?
これは夢だろうか、現実だろうか。
ゆっくりと、微睡みに落ちていく。
***
目の前が暗い。先の見えない闇の中。夢を見ているのだろうか。
重い瞼をこじ開けると。
少し先には自分の名前を何度も叫ぶ女性の姿。
身体中が痛い。
彼女に向かって手を伸ばす。しかし、傷だらけの身体は動かない。動かそうと力を入れるだけで激しい痛みがはしる。
すると、彼女は突然自分の方へ走り出す。その背後には魔法の光。
ああ、そうか。さっき私がそうしたように、彼女は私を庇おうとしているのだ。
…そんなのは、だめだ!
私は力を振り絞って彼女の名を呼んだ。
ぱち。
「………」
アーサーはベッドの上で身を起こす。
…夢か。
窓からは月と虹の光が優しく部屋に差してくる。虹は精霊の力の証、とソラが夕食の時に教えてくれた。
夢。
お互いの名を呼ぶ。なんと呼んでいたのか、呼ばれていたのか。
もう既に輪郭は曖昧で。
私は、誰だ。
手を見て自問自答する。
「……」
私は誰を守りたかったのか。
彼は手を握りしめて満月を見た。
***
「おっはよー。」
ソラはまだ眠そうな目をこすりながらテーブルについた。
「おはようございます。」
「あなた、何時間寝たら気が済むのですか?」
「寝る子は育つ、って言うじゃない。ほら。」
ソラは隣にいるサニィの頭に手を乗せ、自分の頭と高さ比べをする。
その手はソラの目の辺り。つまり、ソラの方が背が高い。
「わたくしが小柄なのは家系ですわ!」
サニィは、ぷいっとそっぽを向いた。
「アーサーも、背が高いのね。」
「そうですか?」
だって、とソラは行って向かいの席に座る彼の隣に移動する。
すとん、と椅子に座って、手を自分の頭に乗せる。
「あたしと頭半分くらい違うもの。」
「ほんとですね。」
アーサーはにこっと笑った。
「朝から仲がよろしくて。」
「なっ。ちがっ!」
サニィは、ウインナーを上品に切って口へ運ぶ。
「ところで、この後の行き先ですが。」
ごくん、とウインナーを飲み込んでからサニィは口を開いた。
「近くに水の精霊を祀った青の神殿があります。」
「青の神殿?どうしてまた?」
「まあ、最後まで聞いてくださいませ。」
運ばれてきた食事から視線を彼女に移してソラが言う。
「そこには、"記憶の泉"という、過去の記憶を見ることができる泉があるのです。」
ほう、とアーサーが頬杖をつく。
「わたくしは姉の捜索、アーサーさんは記憶を探している。となりますと、記憶の泉を使うのが最善ではないかと思いました。」
ソラはシャキシャキのレタスを頬張りながら
「アーサーのはいいとして、サニィの記憶を見てどうするの?」
「わたくしのではなく、姉の記憶を見せてもらうのです。」
ソラはレタスを飲み込んで、なるほど、と呟いた。
「ですが、自身の記憶ならまだしも、他人の記憶なんて見られるものなのでしょうか。」
アーサーも、バターを塗ったパンをかじりながら質問する。
すると、サニィは、がたっと椅子から立ち上がり、拳を握りしめて言い放った。
「そこは、王族という権力を振りかざして交渉してみせますわ!さあ!行きましょう!」
「ちょ、ちょっと声が大きいわよ…」
食堂の空気がざわめく。ソラは慌ててサニィを座らせる。
「まずは、腹ごしらえしましょ。」
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