エスメラルドの宝典

のーが

文字の大きさ
36 / 47

第36話

しおりを挟む
 車内のデジタル時計が深夜一時に達するまで、あと五分。
 俊平の運転する車両は都市部を抜け、幹線道路を北上する。昼間は渋滞気味だった道路も、視界を常闇が占める時間では交通量が少ない。
 助手席には琴乃、後部座席に慧と鏡花が座る。
 その構図は、フリーフロムの元アジトから帰還した際と同じだ。

「そろそろだな。作戦内容を伝えよう」

 今回の作戦を仕切るのは慧だ。
 元々は彼が単身で行うつもりだった内容を、移動中に改変した。四人全員で協力しあい、成功率を高めるために。

「到着後、鏡花と琴乃は敵陣の正面入口から侵入する。深夜だが、奴らも見張りを立てないほど馬鹿じゃない。発見されたら、襲撃者の実力を知った連中は総出で迎撃に当たるはずだ。ふたりはそこで怯まず、とにかく多くの敵を引きつける。敵がふたりに夢中になっている間に、俺は千奈美を見つけだして一対一の状況に持ち込む」
「あの女――九条って奴を説得するにはアンタがやらなきゃ駄目なんでしょうけど、勝算あるわけ? あいつ、宝典魔術師なのよ?」
「俺だって、無策で行動するほど愚かじゃない」
「無能力者のアンタでも勝ち目があるってわけ? ふぅん。雑魚を片付けたら、お手並みを拝見させてもらおうかしら」
「好きにしろ。奴らもそう簡単には倒されてはくれないだろうがな」

 愉快そうに「どうかしらね?」なんて余裕を浮かべ、琴乃は窓の外に顔を向けた。
 車は幹線道路から脇道に移った。電灯の無い暗黒を進んでいく。

「作戦の件ですが、先日のように敵の一部が逃げる可能性はないでしょうか?」
「フリーフロムの性質上、ほぼ確実に逃走ルートが用意してあると考えられる。襲撃前にルートを潰しておきたいが、施設の全貌がわからんので難しいな」
「前と同じように、地下道を用意している可能性はありませんか?」
「充分にあり得る。だがこちらには包囲網を敷けるだけの人員はない。当たりをつけるか、あるいは逃げる間もなく電光石火で殲滅するしかなさそうだ」

 口では時間がないと言いつつ、慧は敵が即座に逃げるとは思っていない。
 藤沢がAMYサービスに対抗する準備を整えているのは間違いなく、逃げ延びたばかりのアジトを捨てる決断も容易ではない。
 ただし、優劣が明瞭になれば話は変わる。藤沢は大勢を逃がすために、何かしらの策を講じる。それが慧の見解だ。
 藤沢がいる限りフリーフロムは不滅。
 千奈美も、彼が存命の間は自由になれない。

「当たりならついているだろう?」

 何気なくハンドルを切りながら俊平は続ける。

「注意すべきは空さ」

 彼の意見に、慧は合点がいった。
 鏡花は言っている意味がわからないのか、不思議そうに目をぱちぱちする。

「どういうことでしょう? フリーフロムの人たちは空を飛べるのでしょうか?」
「その点は天谷さんのほうが詳しいだろう? 僕は実際に見てないけど、彼らは昨日、空からやってきたらしいじゃないか」

 万が一の逃走ルートとしては申し分ない。
 〝あんな物〟を所有しているのなら、使わない手はない。破棄したくもないだろう。
 慧が偵察した限り、これから向かうアジトには離着陸できるだけの充分な敷地面積がある。昨日訪れたときには実物を確認できなかったが、敷地内のどこかで保管しているはず。

「あっ、そういえばそうでした。敵はヘリコプターを持っていましたね」
「偵察の際にヘリポートと思しき場所は見当たらなかった。あるとすれば……二棟の高層建造物のどちらかの屋上が怪しいか」
「その二棟の高さが異なるなら、たぶん高いほうが有力だろう。隣に障害物があると邪魔だからね」
「だったらあたしが速攻で屋上を押さえてもいいわよ? なんなら機体もバラす?」
「それだと鏡花の負担が増える。隙が生まれやすくなり危険だ」
「私なら大丈夫です――と、いいたいのですが、不安はありますね」
「まぁ、相手の総数は推定五十人だものね。敵の戦術しだいでは対処しきれない状況に陥るかもしれない。でも、じゃあどうすればいいのよ?」

 目的地は間近に迫っていた。
 慧は到着までに打開策を示さなければならない。けれども、抜け目のない方策は簡単には浮かんでくれない。
 慧自身が屋上を制圧できれば最適だが、それでは千奈美の相手をできない。今回の作戦は、彼が彼女を助けられなければ失敗だ。その方法は採用できない。
 あるいは屋上に千奈美を誘い出させれば、ヘリの破壊と彼女の説得を両方こなせる。慧はそう仮定してみたが、具体的な実現の案までは浮かばない。

「こういうのはどうだろう?」

 手詰まりを意味する沈黙を破ったのは俊平だ。彼はとある提案をした。
 示された対策は、慧には意外な内容だった。琴乃と鏡花はそれほど驚かず、納得した様子で頷く。
 唐沢俊平という人物をまだ理解しきれていない慧としては、一抹の不安を拭いきれない。
 しかし、他のふたりが認めているのなら。

「それでいこう」

 慧は、友人を信じることにした。
 到着ギリギリになってしまったが、夜襲の方針は固まった。
 あとは各自が、計画完遂に尽力するのみだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

【完結】魔王を殺された黒竜は勇者を許さない

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
幼い竜は何もかも奪われた。勇者を名乗る人族に、ただ一人の肉親である父を殺される。慈しみ大切にしてくれた魔王も……すべてを奪われた黒竜は次の魔王となった。神の名づけにより力を得た彼は、魔族を従えて人間への復讐を始める。奪われた痛みを乗り越えるために。 だが、人族にも魔族を攻撃した理由があった。滅ぼされた村や町、殺された家族、奪われる数多の命。復讐は連鎖する。 互いの譲れない正義と復讐がぶつかり合う世界で、神は何を望み、幼竜に力と名を与えたのか。復讐を終えるとき、ガブリエルは何を思うだろうか。 ハッピーエンド 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/03/02……完結 2023/12/21……エブリスタ、トレンド#ファンタジー 1位 2023/12/20……アルファポリス、男性向けHOT 20位 2023/12/19……連載開始

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

東京ダンジョン物語

さきがけ
ファンタジー
10年前、世界中に突如として出現したダンジョン。 大学3年生の平山悠真は、幼馴染の綾瀬美琴と共に、新宿中央公園ダンジョンで探索者として活動していた。 ある日、ダンジョン10階層の隠し部屋で発見した七色に輝く特殊なスキルストーン。 絶体絶命の危機の中で発動したそれは、前代未聞のスキル『無限複製』だった。 あらゆる物を完全に複製できるこの力は、悠真たちの運命を大きく変えていく。 やがて妹の病を治すために孤独な戦いを続ける剣士・朝霧紗夜が仲間に加わり、3人は『無限複製』の真の可能性に気づき始める。 スキルを駆使して想像を超える強化を実現した彼らは、誰も到達できなかった未踏の階層へと挑んでいく。 無限の可能性を秘めた最強スキルを手に、若き探索者たちが紡ぐ現代ダンジョンファンタジー、ここに開幕!

処理中です...