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第19話
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「宗旨替え? つまり、俺にイスラム教徒になれという事か?」
狂介らからしたら、特に神仏など信仰していなかった。
なので、イスラム教徒になれと言われても、今更神を信仰しろと言われてもなと思いながらオルチを見る狂介。
「確か、あらー? とかいう神を信仰するんだよな?」
狂介がイスラム教に関して知っているのはそれだけであった。
「アッラーだ。しかし、お前は特に神様を信仰している訳ではないのだろう?」
オルチが訊ねられた狂介は頷いた。
「見た事が無い物を信じろと言われてもな」
狂介は寺に預けられた時に仏像を見た事があった。
寺の住職から「この世を助ける有り難い仏様の御姿を似せて作ったものだ」と言われたが、狂介からしたら、こんな木像を崇めている時点でおかしいのではと思っていた。
何せ、狂介が知る限りで仏様が助けたという話を聞いた事がなかったからだ。
なので、寺に居る時は真剣に神仏に御祈りをした事がなかった。
「まぁ、お前の考えは分かる。だがな、今の内にイスラム教に入った方が良いぞ」
「どうして?」
狂介の疑問にオルチが答えた。
「それは、お前、我が国ではイスラム教徒が一番多いからだ。他の宗教も存在するが、そう多くない」
「此処の国ってイスラム教を国教にしているけど、別に他の宗教を信仰しても良いという珍しい国だけど、そうなのか」
オスマン帝国はイスラム教を国教にしているが、別に他の宗教を迫害する事はしない。
なので、帝国内ではキリスト教徒もユダヤ教徒も普通に生活している。
尤も帝国で重職に就く事が出来るのは、イスラム教徒の者達だけだ。
「それに、ファトマはイスラム教徒だからな。イスラム教徒はイスラム教徒としか結婚出来んのだ」
オルチがそう言うのを聞いて、ようやく狂介にイスラム教徒になれと言われた理由を理解した。
(ああ、それで。数日前に故郷の事を訊ねて来たのか)
何の為に故郷の事を訊ねたのか、その訳が分からなかった。
だが、その理由がイスラム教徒になるかどうかの確認の為であった。
もし、狂介が故郷に未練があると言えば、この話はご破算になったであろう。
故郷に帰りたい者がイスラム教徒になる筈がないからだ。
(……此処で親父の顔に泥を塗るような事をするのは、恩を仇で返すに等しいな)
元々、故郷に帰りたいという気持ちが希薄で、この地で骨を埋めるのであろうなと思っていた狂介。
嫁を貰う事が出来るのであれば、イスラム教徒に入っても良いかと思った。
「別に良いぜ」
「おお、そうか。良かった」
狂介がイスラム教徒になると言うのを聞いて、オルチは顔を綻ばせた。
「では、異教徒がイスラム教徒になった際は、改名するというのが習わしだ」
「そうなのか。他には?」
「その他については、後で教えてやる。兎も角、改宗を行うぞ」
そう言ってオルチは狂介の方に身体を向ける。
「わたしの後に続けて、こう言うのだ。『アシュハドアンラーイラーハイッラッラー アシュハドアンナムハンマダンラスールッラー』と」
その言葉どういう意味なのか分からなかった狂介であったが、とりあえずその言葉を唱えた。
「アシュハドアンラーイラーハイッラッラー アシュハドアンナムハンマダンラスールッラー」
「もう一度」
「アシュハドアンラーイラーハイッラッラー アシュハドアンナムハンマダンラスールッラー」
狂介がもう一度唱えると、オルチは満足そうに頷いた。
「これで、お前はイスラム教徒となった。そして、今日からお前の名はハサンだ」
「えっ⁉」
オルチが名前を与えてくれた事よりも、先程唱えた言葉で入信の儀式が終わった事に驚く狂介。
「どうした?」
「いや、普通、こういう場合は聖職者とかに頼むのでは?」
てっきり、そういう儀式をすると思っていたのに、言葉を唱えただけで終わりだと分かり狂介は拍子抜けしていた。
「まぁ、イスラム教には聖職者が居ないからな。だから、イスラム教徒の前で先程の言葉を二回唱えれば完了だ」
「あっけないな。ところで、先程の言葉の意味は?」
「アッラーの他に神はなく、ムハンマドはアッラーの使徒であるという意味だ」
その言葉の意味が分かった狂介は感心していた。
「さて、ハサン。今日からお前はハサンと名乗るのだぞ」
「ハサン。それが、俺の名前か」
自分の名前が変わった事に、少し違和感を感じる狂介。
だが、これもこの国に骨を埋めるという覚悟の現れだと思うと気にならなくなった。
こうして、狂介ことハサンは新しい生活の第一歩を踏む事となった。
狂介らからしたら、特に神仏など信仰していなかった。
なので、イスラム教徒になれと言われても、今更神を信仰しろと言われてもなと思いながらオルチを見る狂介。
「確か、あらー? とかいう神を信仰するんだよな?」
狂介がイスラム教に関して知っているのはそれだけであった。
「アッラーだ。しかし、お前は特に神様を信仰している訳ではないのだろう?」
オルチが訊ねられた狂介は頷いた。
「見た事が無い物を信じろと言われてもな」
狂介は寺に預けられた時に仏像を見た事があった。
寺の住職から「この世を助ける有り難い仏様の御姿を似せて作ったものだ」と言われたが、狂介からしたら、こんな木像を崇めている時点でおかしいのではと思っていた。
何せ、狂介が知る限りで仏様が助けたという話を聞いた事がなかったからだ。
なので、寺に居る時は真剣に神仏に御祈りをした事がなかった。
「まぁ、お前の考えは分かる。だがな、今の内にイスラム教に入った方が良いぞ」
「どうして?」
狂介の疑問にオルチが答えた。
「それは、お前、我が国ではイスラム教徒が一番多いからだ。他の宗教も存在するが、そう多くない」
「此処の国ってイスラム教を国教にしているけど、別に他の宗教を信仰しても良いという珍しい国だけど、そうなのか」
オスマン帝国はイスラム教を国教にしているが、別に他の宗教を迫害する事はしない。
なので、帝国内ではキリスト教徒もユダヤ教徒も普通に生活している。
尤も帝国で重職に就く事が出来るのは、イスラム教徒の者達だけだ。
「それに、ファトマはイスラム教徒だからな。イスラム教徒はイスラム教徒としか結婚出来んのだ」
オルチがそう言うのを聞いて、ようやく狂介にイスラム教徒になれと言われた理由を理解した。
(ああ、それで。数日前に故郷の事を訊ねて来たのか)
何の為に故郷の事を訊ねたのか、その訳が分からなかった。
だが、その理由がイスラム教徒になるかどうかの確認の為であった。
もし、狂介が故郷に未練があると言えば、この話はご破算になったであろう。
故郷に帰りたい者がイスラム教徒になる筈がないからだ。
(……此処で親父の顔に泥を塗るような事をするのは、恩を仇で返すに等しいな)
元々、故郷に帰りたいという気持ちが希薄で、この地で骨を埋めるのであろうなと思っていた狂介。
嫁を貰う事が出来るのであれば、イスラム教徒に入っても良いかと思った。
「別に良いぜ」
「おお、そうか。良かった」
狂介がイスラム教徒になると言うのを聞いて、オルチは顔を綻ばせた。
「では、異教徒がイスラム教徒になった際は、改名するというのが習わしだ」
「そうなのか。他には?」
「その他については、後で教えてやる。兎も角、改宗を行うぞ」
そう言ってオルチは狂介の方に身体を向ける。
「わたしの後に続けて、こう言うのだ。『アシュハドアンラーイラーハイッラッラー アシュハドアンナムハンマダンラスールッラー』と」
その言葉どういう意味なのか分からなかった狂介であったが、とりあえずその言葉を唱えた。
「アシュハドアンラーイラーハイッラッラー アシュハドアンナムハンマダンラスールッラー」
「もう一度」
「アシュハドアンラーイラーハイッラッラー アシュハドアンナムハンマダンラスールッラー」
狂介がもう一度唱えると、オルチは満足そうに頷いた。
「これで、お前はイスラム教徒となった。そして、今日からお前の名はハサンだ」
「えっ⁉」
オルチが名前を与えてくれた事よりも、先程唱えた言葉で入信の儀式が終わった事に驚く狂介。
「どうした?」
「いや、普通、こういう場合は聖職者とかに頼むのでは?」
てっきり、そういう儀式をすると思っていたのに、言葉を唱えただけで終わりだと分かり狂介は拍子抜けしていた。
「まぁ、イスラム教には聖職者が居ないからな。だから、イスラム教徒の前で先程の言葉を二回唱えれば完了だ」
「あっけないな。ところで、先程の言葉の意味は?」
「アッラーの他に神はなく、ムハンマドはアッラーの使徒であるという意味だ」
その言葉の意味が分かった狂介は感心していた。
「さて、ハサン。今日からお前はハサンと名乗るのだぞ」
「ハサン。それが、俺の名前か」
自分の名前が変わった事に、少し違和感を感じる狂介。
だが、これもこの国に骨を埋めるという覚悟の現れだと思うと気にならなくなった。
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