悪役令嬢に恋した黒狼

正海広竜

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第62話 これは困った

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 翌日。

 学園に着いたザガード達を見るなり生徒達が騒然としていた。
「おい。あいつか?」
「ああ、そうだ。何でもリウンシュハイム家の者達二十人を一人で病院送りにしたとか」
「二十人? 俺は三十人って聞いたぞ」
「兎も角、そいつらは当分学園には来られないらしいぜ」
「流石はローレンベルト家の近侍だな」
「俺、あいつは昔、闘奴だったって聞いた事があるぜ」
「そうらしいな。ローレンベルト家も隠す事無いのか認めているようだぜ」
 本人達はヒソヒソと話しているつもりだろうが、ザガード達の耳には丸聞こえであった。

「随分と人気が出たわね」
 面白そうに笑うリエリナ。
「向こうが仕掛けた事とは言え、御身の周りを騒がしくて申し訳ありません」
 ザガードは何で人数が増えているんだと思いつつ頭を下げる。
 それを聞いたリエリナは微笑む。
「良いわよ。別に。それに、それだけ強い近侍が居るというのは心強い事は無いわ」
「勿体ないお言葉。恐縮の至りです」
 ザガードは一礼した。
「でも、気を付けなさいね。出る杭は打たれる、よ」
「・・・・・・そうなった場合はどうしたらいいでしょうか?」
「遠慮なく叩きのめしなさい」
「御意」
 リエリナからとある許可を貰いザガードは頭を下げた。

  数時間後。

 校舎裏にて
「ぐあっ」
 ザガードと同じ制服を着た男子が倒れた。
「ふぅ、思ったよりも時間が掛かった」
 うめき声を上げる者達の中で立っているザガードは一息ついた。
 リエリナがトイレに入り、待っていると。
 何処からか男子生徒達が現れてザガードを囲んだ。
 男子生徒の一人が「着いて来い」と言うので、ザガードは大人しく従った。
 そして校舎裏に着くと、ザガードが何の用だと訊ねると男子生徒の一人が何も言わないで殴りかかって来た。
 
 だが、ザガードはその攻撃を容易く避けて反撃に男子生徒に首筋に手刀を叩き込んだ。
 その一撃を受けて男子生徒は昏倒した。
「まだやるか?」
 ザガードがそう訊ねると、男性生徒達は声を上げながら殴り掛かって来た。
 多数対一の殴り合いは物の数分で終わった。

 闘技場で集団の魔物相手に何戦もした事があるザガードにとって喧嘩も碌にした事が無い男子生徒達相手の殴り合いなど温すぎた。
 とはいえ、慢心していたからか何時の間にか小指に切り傷が出来ていた。
 何かを引っ掛けて切ったのだろう。
 ザガードもその傷を見て訛ったかな?と内心思った。
(兎も角止血をしないとな)
 あまり深くないので医務室にでも行けば直ぐに治るだろうが、その間リエリナを一人にする事になる。
 
 近侍が主人から離れる事はしていけないと言われ育った。
 なので、布か何かを巻きたいのだが生憎、ハンカチは持っていなかった。倒れている者達から奪うのは気が引けたるので止めた。
 どうしたものかと考えていると、何処からかパチパチと拍手が響いた。

 誰だと思い、ザガードが拍手が聞こえた方に首を向けると、其処に居たのはローザアリアといつも傍に居るシオーネが居た。
「大した物ね。十三人を相手にしてかすり傷しか負わないなんて」
「見苦しい物を見せて申し訳ありません」
 ザガードは一礼する。
「リエリナ様も良い従者を手に入れたわね。正直に言って羨ましいわ」
「過分なお言葉です」
 そう話しているとローザアリアがザガードに近付く。
 そして、懐からハンカチを出して口に咥える。
 突然、咥えたハンカチを破りだした。
 ビリっという音がして半分になったハンカチ。そのハンカチの半分を傷があるザガードの指に巻き付けた。
「・・・・・・これでよし。そろそろ、リエリナ様が出て来るから早く戻りなさい」
 そう言ってローザアリアは離れて行った。シオーネはザガードに一礼すると、ローザアリアの後に付いて行く。
「・・・・・・」
 ザガードは指に巻き付けられたハンカチを見た。
「・・・・・・ああ、お礼を述べるのを忘れていたな」
 ザガードは何とも言えない気持ちでそのハンカチに唇を当てた。 
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