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4.なんだかんだでにゃんにゃん(終)
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1ヶ月後、アシュリー邸。
今日はジェナの17歳の誕生日会が盛大に開催される。屋敷の園庭にはいくつものテーブルが置かれ、シェフが腕によりをかけた料理がずらりと並んでいる。
園庭にはアシュリー家の人々と、婚約関係にあるブライトン家の人々、そして両家とつきあいのある貴族の家の人々が、談笑をしながら開宴のときを待っていた。
屋敷の一室で身支度を終えたジェナは、園庭に向かうために石畳を歩いていた。伯爵家であるアシュリー邸の外庭は広く、屋敷から誕生日会の会場である園庭に着くまでには、石畳の道をいくらか歩かなければならない。
石畳の両脇にはよく手入れされた花壇があり、瑞々しく色とりどりの花を咲かせている。今日は天気がいいから、太陽の光を浴びた花たちの美しく気持ちよさそうなこと。
園庭まで半分ほどの道のりを歩いたとき、ジェナの目の前にイーサンが姿を現した。黒い燕尾服を身につけたイーサンは、ジェナの行く手を塞ぐと嫌味たらしく口角を上げた。
「よぉ、また一つババアに近づいちまったな」
いつもどおり軽口を叩くイーサンを、ジェナは無言で見つめた。
1ヶ月と少し前に、ジェナがイーサンに宛てた誕生日会の招待状。その手紙にイーサンから返事が届いたのは、誕生日会の3日前のことだった。
仰々しい便箋に書かれた言葉は『行く』のただ一言。時候の挨拶も、祝いの言葉も、何も書かれていなかった。
ジェナの沈黙を敵対と捉えたのか、イーサンは表情を変えずに悪口を重ねた。
「おい、聞いてんのか? 耳の方が先にお年を召しちまったか?」
いつものジェナならば、イーサンの悪口に躍起になってつっかかったところ。しかし今日は挑発にのることなく、落ち着いた口調でイーサンに話しかけた。
「イーサン、私ね。貴方の態度にはいいかげん愛想が尽きたのよ」
「は?」
「顔を合わせれば悪口ばかり、手紙の返事はろくに返さない。こんな関係のままじゃ、結婚したってうまくやっていけるわけがないわ」
状況が飲み込めず硬直するイーサンに、ジェナは冷たい眼差しを向けた。
「だから今日、お父様にお願いして貴方との婚約は破棄してもらうわ」
「婚約破棄……え?」
イーサンは見るからに動揺した。少し前までの嫌味な表情は見る影もなく、ぽっかりと口を開けてジェナの顔を見返している。
いい気味ね、とジェナは顎先を上げた。
「……でもね。最後に一度だけ、貴方にチャンスをあげようと思うの」
イーサンは縋るようにジェナを見た。まるで親猫に捨てられた子猫のような表情だ。そんな情けない顔のイーサンを見るのは、出会ってから初めてのことだった。
ジェナは優雅な仕草で左手を持ち上げた。
その手をイーサンの顔の前に差し出して、謳うような口調で言った。
「私の足下に跪いて、指輪をはめてちょうだい。言うとおりにできたら婚約破棄は考え直してあげるわ」
「なっ……何で指輪のこと……っ」
「ああ、そうだわ。指輪をはめるとき、『愛』から始まる言葉を口にするのも忘れないでね?」
イーサンの顔からはさっと血の気が引いた。そして次の瞬間には、みるみるうちに真っ赤になった。言葉をなくし、はくはくと唇を動かす様は哀れで、そしてちょっぴり可愛らしい。
ジェナは満面の笑顔で言葉を続けた。
「イーサン、私は全部知っているのよ。にゃー」
その後、イーサンがジェナの足下に跪いたのかどうか。
隠し持っていた指輪をジェナの指にはめたのかどうか。
そして『愛』から始まる甘い言葉を口にしたのかどうか。
それは2人だけの秘密のおはなし。 fin.
今日はジェナの17歳の誕生日会が盛大に開催される。屋敷の園庭にはいくつものテーブルが置かれ、シェフが腕によりをかけた料理がずらりと並んでいる。
園庭にはアシュリー家の人々と、婚約関係にあるブライトン家の人々、そして両家とつきあいのある貴族の家の人々が、談笑をしながら開宴のときを待っていた。
屋敷の一室で身支度を終えたジェナは、園庭に向かうために石畳を歩いていた。伯爵家であるアシュリー邸の外庭は広く、屋敷から誕生日会の会場である園庭に着くまでには、石畳の道をいくらか歩かなければならない。
石畳の両脇にはよく手入れされた花壇があり、瑞々しく色とりどりの花を咲かせている。今日は天気がいいから、太陽の光を浴びた花たちの美しく気持ちよさそうなこと。
園庭まで半分ほどの道のりを歩いたとき、ジェナの目の前にイーサンが姿を現した。黒い燕尾服を身につけたイーサンは、ジェナの行く手を塞ぐと嫌味たらしく口角を上げた。
「よぉ、また一つババアに近づいちまったな」
いつもどおり軽口を叩くイーサンを、ジェナは無言で見つめた。
1ヶ月と少し前に、ジェナがイーサンに宛てた誕生日会の招待状。その手紙にイーサンから返事が届いたのは、誕生日会の3日前のことだった。
仰々しい便箋に書かれた言葉は『行く』のただ一言。時候の挨拶も、祝いの言葉も、何も書かれていなかった。
ジェナの沈黙を敵対と捉えたのか、イーサンは表情を変えずに悪口を重ねた。
「おい、聞いてんのか? 耳の方が先にお年を召しちまったか?」
いつものジェナならば、イーサンの悪口に躍起になってつっかかったところ。しかし今日は挑発にのることなく、落ち着いた口調でイーサンに話しかけた。
「イーサン、私ね。貴方の態度にはいいかげん愛想が尽きたのよ」
「は?」
「顔を合わせれば悪口ばかり、手紙の返事はろくに返さない。こんな関係のままじゃ、結婚したってうまくやっていけるわけがないわ」
状況が飲み込めず硬直するイーサンに、ジェナは冷たい眼差しを向けた。
「だから今日、お父様にお願いして貴方との婚約は破棄してもらうわ」
「婚約破棄……え?」
イーサンは見るからに動揺した。少し前までの嫌味な表情は見る影もなく、ぽっかりと口を開けてジェナの顔を見返している。
いい気味ね、とジェナは顎先を上げた。
「……でもね。最後に一度だけ、貴方にチャンスをあげようと思うの」
イーサンは縋るようにジェナを見た。まるで親猫に捨てられた子猫のような表情だ。そんな情けない顔のイーサンを見るのは、出会ってから初めてのことだった。
ジェナは優雅な仕草で左手を持ち上げた。
その手をイーサンの顔の前に差し出して、謳うような口調で言った。
「私の足下に跪いて、指輪をはめてちょうだい。言うとおりにできたら婚約破棄は考え直してあげるわ」
「なっ……何で指輪のこと……っ」
「ああ、そうだわ。指輪をはめるとき、『愛』から始まる言葉を口にするのも忘れないでね?」
イーサンの顔からはさっと血の気が引いた。そして次の瞬間には、みるみるうちに真っ赤になった。言葉をなくし、はくはくと唇を動かす様は哀れで、そしてちょっぴり可愛らしい。
ジェナは満面の笑顔で言葉を続けた。
「イーサン、私は全部知っているのよ。にゃー」
その後、イーサンがジェナの足下に跪いたのかどうか。
隠し持っていた指輪をジェナの指にはめたのかどうか。
そして『愛』から始まる甘い言葉を口にしたのかどうか。
それは2人だけの秘密のおはなし。 fin.
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