6 / 38
第1章『聖霊樹の巫女』
05
しおりを挟む
「ここだ」
エミリオに連れられてきたのは、予想していた洒落たレストランのような場所ではなく、ごく普通の大衆食堂のようだった。
彼の王子様然とした見た目と語り口調からは想像もつかないが、本当は見目がよいだけの平民なのかもしれない。
ウエイトレスのお姉さんに案内されて、俺たち三人は奥のテーブルへと腰かけた。
そこで早速乾杯用にアルコールの入った飲み物を注文する。
よくゲームや異世界物で出てくるエールだった。
まぁ、ビールみたいなものなんだろう。
元の世界でも父親から『母さんには内緒だぞ』とこっそり舐める程度に飲んでみたことはあるが……苦いだけの炭酸ぐらいにしか感じなかった。
「は~い、エール三丁お待ちどうさまっ!料理の方はちょ~っと待ってくださいねー」
店内はちょうど夕食時という事もあってそこそこに混雑している。
注ぐだけのエールと違い、料理が少し遅くなるのは当然の流れだった。
「よしっ、それではカイトよ。われらの出会いを祝して乾杯といこうではないか!」
「あ、はい。そうですね……」
この人のテンションの高さは一体何なんだろう。
ここに来る前はあまりの事につい素で突っ込みを入れてしまってはいたが、相手は一年とはいえ年配だしこの世界においてはそれこそ十九年分の先輩であり、なんとなく高貴な雰囲気もあってどうしても敬語になってしまう。
だが、彼の表情を見るに、どうもそれは彼の望むところではないらしい。
「カイトよ、さっきまでの勢いはどうしたのだ?別に私に対してかしこまる必要などないのだぞ。なぜなら私とカイトは既に友なのであるからな!」
「あ、ああ。そう、なのか?」
「もちろんだ、友よ!そして友とは持ちつ持たれつの存在であるだろう。それにこうして酒を酌み交わし、料理を囲い、そして奢り奢られるものなのだ。この席は私の奢りである。なので次の機会があればお主が私に奢ってくれると嬉しく思うぞ」
そう言ってエミリオはにかっと人好きのする笑みを浮かべた。
ああ、そうか。俺が必要以上にかしこまったり恩義を感じたりしないようにふるまってくれてるのか。
多少変な奴ではあるが……いい奴なんだな、こいつは。
「……ああ、そうだな。じゃあ、エミリオ。それとセレンさん。改めてよろしく頼むよ」
「うむ!」
「はい、よろしくお願いしますカイトさん」
エミリオは鷹揚に頷き、セレンさんは軽く会釈してくれる。
セレンさんはエミリオのあまりのインパクトのせいでどうも控えめな印象を受けるが……彼を褒め称える時だけはテンションが高いことを考えると、むしろあえてエミリオを立てるために自分から一歩引いているのではないかと思ってしまう。
「では、カイトよ。乾杯の音頭を頼むぞ」
「え、お、俺!?」
てっきりこのままエミリオが音頭をとるのかと思っていた所にいきなり降られて、俺はあわあわとたじろいだ。
ちらっとセレンさんの方を見るも、エミリオの決定には異議は無いようで俺の音頭を待っている。
「えー……うん。異郷の地での得難い友との出会いを祝いまして……乾杯っ!」
『乾杯っ!』
俺の少し照れが混じるたどたどしい音頭にも、二人はまったく気にすることなくグラスを打ち付けあってくれた。
エールはやはり元の世界のビールのようにほろ苦かったが、心はむしろどこか暖かくなるのを感じていた。
「先にも言ったが私は聖騎士を志しているのだよ」
「聖騎士かぁ」
俺はゲームの知識を掘り起こす。
聖騎士は騎士というクラスの上位職業だ。
守備を得意とするタンクの役割に優れると同時に、聖属性の魔法をある程度習得でき物理もこなせるオールラウンダー。
もちろん他の特化型職業にはどれも一歩劣るが、聖騎士はまるで勇者のようなスキル構成からゲームでも聖騎士を目指すプレイヤーは多かった。
俺のように課金で何でもこなせる輪廻士(ソウルリンカー)を除けば最もソロプレイに適した職業でもあったな。
「弱気を助け悪をくじく、まさにエミリオ様のためにこそあるような職業です!セレンはエミリオ様のその志を必ず遂げられますよう力添えいたします!」
「うむ、その心は実にうれしく思う。しかしセレン、そなたもまた夢を持ち、それを叶えるのだ。そして私も微力ながらそれを助力することを約束しよう」
「そんな!私の夢はエミリオ様のお役に立つことです。なのでこうして貴方様に連れ添う事こそが私の夢であり幸せなのです」
「してカイトよ。そなたは希望する職業は既に決めておるのか?」
エミリオはセレンさんのヨイショをサラッと華麗にスルーしてこちらに話を振ってきた。
まぁ、彼女の話に乗っかってしまうとひたすら二人の世界になってしまうだろうから、それも仕方ないのかもしれないな。
「俺は輪廻士になるよ」
正直課金というシステムがこの世界においてどうなっているのかわからないが、俺はずっと輪廻士一本でやってきたのだ。
ここで他の知識程度にしか知らない職業になっても、この世界でうまくやっていける気がしなかった。
「輪廻士?はて、聞かぬ職業だが……」
「え?」
エミリオの言葉に、俺は目を見開いて唖然とした。
まさかこの世界には輪廻士そのものが存在しない?
確かに輪廻士だけが妙に独立したシステムに支えられていたが……まさか存在しないとは思わなかった。
いや、単純にエミリオが知らないだけという可能性だってまだある。
「輪廻士っていうのはだな、かつて世界に存在した英雄の魂を……」
ガシャアァァァンッ!
俺が説明を始めようとしたその時、食堂全体にガラスの割れるような音が響き渡った。
エミリオに連れられてきたのは、予想していた洒落たレストランのような場所ではなく、ごく普通の大衆食堂のようだった。
彼の王子様然とした見た目と語り口調からは想像もつかないが、本当は見目がよいだけの平民なのかもしれない。
ウエイトレスのお姉さんに案内されて、俺たち三人は奥のテーブルへと腰かけた。
そこで早速乾杯用にアルコールの入った飲み物を注文する。
よくゲームや異世界物で出てくるエールだった。
まぁ、ビールみたいなものなんだろう。
元の世界でも父親から『母さんには内緒だぞ』とこっそり舐める程度に飲んでみたことはあるが……苦いだけの炭酸ぐらいにしか感じなかった。
「は~い、エール三丁お待ちどうさまっ!料理の方はちょ~っと待ってくださいねー」
店内はちょうど夕食時という事もあってそこそこに混雑している。
注ぐだけのエールと違い、料理が少し遅くなるのは当然の流れだった。
「よしっ、それではカイトよ。われらの出会いを祝して乾杯といこうではないか!」
「あ、はい。そうですね……」
この人のテンションの高さは一体何なんだろう。
ここに来る前はあまりの事につい素で突っ込みを入れてしまってはいたが、相手は一年とはいえ年配だしこの世界においてはそれこそ十九年分の先輩であり、なんとなく高貴な雰囲気もあってどうしても敬語になってしまう。
だが、彼の表情を見るに、どうもそれは彼の望むところではないらしい。
「カイトよ、さっきまでの勢いはどうしたのだ?別に私に対してかしこまる必要などないのだぞ。なぜなら私とカイトは既に友なのであるからな!」
「あ、ああ。そう、なのか?」
「もちろんだ、友よ!そして友とは持ちつ持たれつの存在であるだろう。それにこうして酒を酌み交わし、料理を囲い、そして奢り奢られるものなのだ。この席は私の奢りである。なので次の機会があればお主が私に奢ってくれると嬉しく思うぞ」
そう言ってエミリオはにかっと人好きのする笑みを浮かべた。
ああ、そうか。俺が必要以上にかしこまったり恩義を感じたりしないようにふるまってくれてるのか。
多少変な奴ではあるが……いい奴なんだな、こいつは。
「……ああ、そうだな。じゃあ、エミリオ。それとセレンさん。改めてよろしく頼むよ」
「うむ!」
「はい、よろしくお願いしますカイトさん」
エミリオは鷹揚に頷き、セレンさんは軽く会釈してくれる。
セレンさんはエミリオのあまりのインパクトのせいでどうも控えめな印象を受けるが……彼を褒め称える時だけはテンションが高いことを考えると、むしろあえてエミリオを立てるために自分から一歩引いているのではないかと思ってしまう。
「では、カイトよ。乾杯の音頭を頼むぞ」
「え、お、俺!?」
てっきりこのままエミリオが音頭をとるのかと思っていた所にいきなり降られて、俺はあわあわとたじろいだ。
ちらっとセレンさんの方を見るも、エミリオの決定には異議は無いようで俺の音頭を待っている。
「えー……うん。異郷の地での得難い友との出会いを祝いまして……乾杯っ!」
『乾杯っ!』
俺の少し照れが混じるたどたどしい音頭にも、二人はまったく気にすることなくグラスを打ち付けあってくれた。
エールはやはり元の世界のビールのようにほろ苦かったが、心はむしろどこか暖かくなるのを感じていた。
「先にも言ったが私は聖騎士を志しているのだよ」
「聖騎士かぁ」
俺はゲームの知識を掘り起こす。
聖騎士は騎士というクラスの上位職業だ。
守備を得意とするタンクの役割に優れると同時に、聖属性の魔法をある程度習得でき物理もこなせるオールラウンダー。
もちろん他の特化型職業にはどれも一歩劣るが、聖騎士はまるで勇者のようなスキル構成からゲームでも聖騎士を目指すプレイヤーは多かった。
俺のように課金で何でもこなせる輪廻士(ソウルリンカー)を除けば最もソロプレイに適した職業でもあったな。
「弱気を助け悪をくじく、まさにエミリオ様のためにこそあるような職業です!セレンはエミリオ様のその志を必ず遂げられますよう力添えいたします!」
「うむ、その心は実にうれしく思う。しかしセレン、そなたもまた夢を持ち、それを叶えるのだ。そして私も微力ながらそれを助力することを約束しよう」
「そんな!私の夢はエミリオ様のお役に立つことです。なのでこうして貴方様に連れ添う事こそが私の夢であり幸せなのです」
「してカイトよ。そなたは希望する職業は既に決めておるのか?」
エミリオはセレンさんのヨイショをサラッと華麗にスルーしてこちらに話を振ってきた。
まぁ、彼女の話に乗っかってしまうとひたすら二人の世界になってしまうだろうから、それも仕方ないのかもしれないな。
「俺は輪廻士になるよ」
正直課金というシステムがこの世界においてどうなっているのかわからないが、俺はずっと輪廻士一本でやってきたのだ。
ここで他の知識程度にしか知らない職業になっても、この世界でうまくやっていける気がしなかった。
「輪廻士?はて、聞かぬ職業だが……」
「え?」
エミリオの言葉に、俺は目を見開いて唖然とした。
まさかこの世界には輪廻士そのものが存在しない?
確かに輪廻士だけが妙に独立したシステムに支えられていたが……まさか存在しないとは思わなかった。
いや、単純にエミリオが知らないだけという可能性だってまだある。
「輪廻士っていうのはだな、かつて世界に存在した英雄の魂を……」
ガシャアァァァンッ!
俺が説明を始めようとしたその時、食堂全体にガラスの割れるような音が響き渡った。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
転生したら王族だった
みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。
レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる