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第1章『聖霊樹の巫女』
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「ここだ」
エミリオに連れられてきたのは、予想していた洒落たレストランのような場所ではなく、ごく普通の大衆食堂のようだった。
彼の王子様然とした見た目と語り口調からは想像もつかないが、本当は見目がよいだけの平民なのかもしれない。
ウエイトレスのお姉さんに案内されて、俺たち三人は奥のテーブルへと腰かけた。
そこで早速乾杯用にアルコールの入った飲み物を注文する。
よくゲームや異世界物で出てくるエールだった。
まぁ、ビールみたいなものなんだろう。
元の世界でも父親から『母さんには内緒だぞ』とこっそり舐める程度に飲んでみたことはあるが……苦いだけの炭酸ぐらいにしか感じなかった。
「は~い、エール三丁お待ちどうさまっ!料理の方はちょ~っと待ってくださいねー」
店内はちょうど夕食時という事もあってそこそこに混雑している。
注ぐだけのエールと違い、料理が少し遅くなるのは当然の流れだった。
「よしっ、それではカイトよ。われらの出会いを祝して乾杯といこうではないか!」
「あ、はい。そうですね……」
この人のテンションの高さは一体何なんだろう。
ここに来る前はあまりの事につい素で突っ込みを入れてしまってはいたが、相手は一年とはいえ年配だしこの世界においてはそれこそ十九年分の先輩であり、なんとなく高貴な雰囲気もあってどうしても敬語になってしまう。
だが、彼の表情を見るに、どうもそれは彼の望むところではないらしい。
「カイトよ、さっきまでの勢いはどうしたのだ?別に私に対してかしこまる必要などないのだぞ。なぜなら私とカイトは既に友なのであるからな!」
「あ、ああ。そう、なのか?」
「もちろんだ、友よ!そして友とは持ちつ持たれつの存在であるだろう。それにこうして酒を酌み交わし、料理を囲い、そして奢り奢られるものなのだ。この席は私の奢りである。なので次の機会があればお主が私に奢ってくれると嬉しく思うぞ」
そう言ってエミリオはにかっと人好きのする笑みを浮かべた。
ああ、そうか。俺が必要以上にかしこまったり恩義を感じたりしないようにふるまってくれてるのか。
多少変な奴ではあるが……いい奴なんだな、こいつは。
「……ああ、そうだな。じゃあ、エミリオ。それとセレンさん。改めてよろしく頼むよ」
「うむ!」
「はい、よろしくお願いしますカイトさん」
エミリオは鷹揚に頷き、セレンさんは軽く会釈してくれる。
セレンさんはエミリオのあまりのインパクトのせいでどうも控えめな印象を受けるが……彼を褒め称える時だけはテンションが高いことを考えると、むしろあえてエミリオを立てるために自分から一歩引いているのではないかと思ってしまう。
「では、カイトよ。乾杯の音頭を頼むぞ」
「え、お、俺!?」
てっきりこのままエミリオが音頭をとるのかと思っていた所にいきなり降られて、俺はあわあわとたじろいだ。
ちらっとセレンさんの方を見るも、エミリオの決定には異議は無いようで俺の音頭を待っている。
「えー……うん。異郷の地での得難い友との出会いを祝いまして……乾杯っ!」
『乾杯っ!』
俺の少し照れが混じるたどたどしい音頭にも、二人はまったく気にすることなくグラスを打ち付けあってくれた。
エールはやはり元の世界のビールのようにほろ苦かったが、心はむしろどこか暖かくなるのを感じていた。
「先にも言ったが私は聖騎士を志しているのだよ」
「聖騎士かぁ」
俺はゲームの知識を掘り起こす。
聖騎士は騎士というクラスの上位職業だ。
守備を得意とするタンクの役割に優れると同時に、聖属性の魔法をある程度習得でき物理もこなせるオールラウンダー。
もちろん他の特化型職業にはどれも一歩劣るが、聖騎士はまるで勇者のようなスキル構成からゲームでも聖騎士を目指すプレイヤーは多かった。
俺のように課金で何でもこなせる輪廻士(ソウルリンカー)を除けば最もソロプレイに適した職業でもあったな。
「弱気を助け悪をくじく、まさにエミリオ様のためにこそあるような職業です!セレンはエミリオ様のその志を必ず遂げられますよう力添えいたします!」
「うむ、その心は実にうれしく思う。しかしセレン、そなたもまた夢を持ち、それを叶えるのだ。そして私も微力ながらそれを助力することを約束しよう」
「そんな!私の夢はエミリオ様のお役に立つことです。なのでこうして貴方様に連れ添う事こそが私の夢であり幸せなのです」
「してカイトよ。そなたは希望する職業は既に決めておるのか?」
エミリオはセレンさんのヨイショをサラッと華麗にスルーしてこちらに話を振ってきた。
まぁ、彼女の話に乗っかってしまうとひたすら二人の世界になってしまうだろうから、それも仕方ないのかもしれないな。
「俺は輪廻士になるよ」
正直課金というシステムがこの世界においてどうなっているのかわからないが、俺はずっと輪廻士一本でやってきたのだ。
ここで他の知識程度にしか知らない職業になっても、この世界でうまくやっていける気がしなかった。
「輪廻士?はて、聞かぬ職業だが……」
「え?」
エミリオの言葉に、俺は目を見開いて唖然とした。
まさかこの世界には輪廻士そのものが存在しない?
確かに輪廻士だけが妙に独立したシステムに支えられていたが……まさか存在しないとは思わなかった。
いや、単純にエミリオが知らないだけという可能性だってまだある。
「輪廻士っていうのはだな、かつて世界に存在した英雄の魂を……」
ガシャアァァァンッ!
俺が説明を始めようとしたその時、食堂全体にガラスの割れるような音が響き渡った。
エミリオに連れられてきたのは、予想していた洒落たレストランのような場所ではなく、ごく普通の大衆食堂のようだった。
彼の王子様然とした見た目と語り口調からは想像もつかないが、本当は見目がよいだけの平民なのかもしれない。
ウエイトレスのお姉さんに案内されて、俺たち三人は奥のテーブルへと腰かけた。
そこで早速乾杯用にアルコールの入った飲み物を注文する。
よくゲームや異世界物で出てくるエールだった。
まぁ、ビールみたいなものなんだろう。
元の世界でも父親から『母さんには内緒だぞ』とこっそり舐める程度に飲んでみたことはあるが……苦いだけの炭酸ぐらいにしか感じなかった。
「は~い、エール三丁お待ちどうさまっ!料理の方はちょ~っと待ってくださいねー」
店内はちょうど夕食時という事もあってそこそこに混雑している。
注ぐだけのエールと違い、料理が少し遅くなるのは当然の流れだった。
「よしっ、それではカイトよ。われらの出会いを祝して乾杯といこうではないか!」
「あ、はい。そうですね……」
この人のテンションの高さは一体何なんだろう。
ここに来る前はあまりの事につい素で突っ込みを入れてしまってはいたが、相手は一年とはいえ年配だしこの世界においてはそれこそ十九年分の先輩であり、なんとなく高貴な雰囲気もあってどうしても敬語になってしまう。
だが、彼の表情を見るに、どうもそれは彼の望むところではないらしい。
「カイトよ、さっきまでの勢いはどうしたのだ?別に私に対してかしこまる必要などないのだぞ。なぜなら私とカイトは既に友なのであるからな!」
「あ、ああ。そう、なのか?」
「もちろんだ、友よ!そして友とは持ちつ持たれつの存在であるだろう。それにこうして酒を酌み交わし、料理を囲い、そして奢り奢られるものなのだ。この席は私の奢りである。なので次の機会があればお主が私に奢ってくれると嬉しく思うぞ」
そう言ってエミリオはにかっと人好きのする笑みを浮かべた。
ああ、そうか。俺が必要以上にかしこまったり恩義を感じたりしないようにふるまってくれてるのか。
多少変な奴ではあるが……いい奴なんだな、こいつは。
「……ああ、そうだな。じゃあ、エミリオ。それとセレンさん。改めてよろしく頼むよ」
「うむ!」
「はい、よろしくお願いしますカイトさん」
エミリオは鷹揚に頷き、セレンさんは軽く会釈してくれる。
セレンさんはエミリオのあまりのインパクトのせいでどうも控えめな印象を受けるが……彼を褒め称える時だけはテンションが高いことを考えると、むしろあえてエミリオを立てるために自分から一歩引いているのではないかと思ってしまう。
「では、カイトよ。乾杯の音頭を頼むぞ」
「え、お、俺!?」
てっきりこのままエミリオが音頭をとるのかと思っていた所にいきなり降られて、俺はあわあわとたじろいだ。
ちらっとセレンさんの方を見るも、エミリオの決定には異議は無いようで俺の音頭を待っている。
「えー……うん。異郷の地での得難い友との出会いを祝いまして……乾杯っ!」
『乾杯っ!』
俺の少し照れが混じるたどたどしい音頭にも、二人はまったく気にすることなくグラスを打ち付けあってくれた。
エールはやはり元の世界のビールのようにほろ苦かったが、心はむしろどこか暖かくなるのを感じていた。
「先にも言ったが私は聖騎士を志しているのだよ」
「聖騎士かぁ」
俺はゲームの知識を掘り起こす。
聖騎士は騎士というクラスの上位職業だ。
守備を得意とするタンクの役割に優れると同時に、聖属性の魔法をある程度習得でき物理もこなせるオールラウンダー。
もちろん他の特化型職業にはどれも一歩劣るが、聖騎士はまるで勇者のようなスキル構成からゲームでも聖騎士を目指すプレイヤーは多かった。
俺のように課金で何でもこなせる輪廻士(ソウルリンカー)を除けば最もソロプレイに適した職業でもあったな。
「弱気を助け悪をくじく、まさにエミリオ様のためにこそあるような職業です!セレンはエミリオ様のその志を必ず遂げられますよう力添えいたします!」
「うむ、その心は実にうれしく思う。しかしセレン、そなたもまた夢を持ち、それを叶えるのだ。そして私も微力ながらそれを助力することを約束しよう」
「そんな!私の夢はエミリオ様のお役に立つことです。なのでこうして貴方様に連れ添う事こそが私の夢であり幸せなのです」
「してカイトよ。そなたは希望する職業は既に決めておるのか?」
エミリオはセレンさんのヨイショをサラッと華麗にスルーしてこちらに話を振ってきた。
まぁ、彼女の話に乗っかってしまうとひたすら二人の世界になってしまうだろうから、それも仕方ないのかもしれないな。
「俺は輪廻士になるよ」
正直課金というシステムがこの世界においてどうなっているのかわからないが、俺はずっと輪廻士一本でやってきたのだ。
ここで他の知識程度にしか知らない職業になっても、この世界でうまくやっていける気がしなかった。
「輪廻士?はて、聞かぬ職業だが……」
「え?」
エミリオの言葉に、俺は目を見開いて唖然とした。
まさかこの世界には輪廻士そのものが存在しない?
確かに輪廻士だけが妙に独立したシステムに支えられていたが……まさか存在しないとは思わなかった。
いや、単純にエミリオが知らないだけという可能性だってまだある。
「輪廻士っていうのはだな、かつて世界に存在した英雄の魂を……」
ガシャアァァァンッ!
俺が説明を始めようとしたその時、食堂全体にガラスの割れるような音が響き渡った。
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