純白少女と転生者

おすねこ

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第1章『聖霊樹の巫女』

07

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 ベッドの上、俺はゆっくりと目を開けた。
 見知らぬ天井、見知らぬ部屋の中で俺はベッドに眠っていた。

「お、目が覚めたようであるな、カイトよ」

「エミリオ!」

 どうやら俺より早く目を覚ましていたらしいエミリオは、普段とまるで変わらない様子で俺に話しかけてくる。
 彼の頬を見るが、そこに昨晩殴られたであろう形跡は存在しなかった。

「ん、これかね?なぁに、私は少しばかり人より頑丈にできているものでね。あの程度の一撃を受けたぐらいで傷が残りはせんよ。まぁ、蚊に刺されたようなものだな。はっはっはっは!」

「ったく。蚊に刺されて気絶する奴があるか」

 俺は呆れたようにため息をつきながら力なく突っ込みを入れた。
 かくいう俺の方は、まだ後頭部がずきずき痛むような気すらしているのに。

コンコン

「エミリオ様、カイトさん、お目覚めですか?セレンです」

「うむ、問題ないぞ。入るがいい」

 扉の向こうから聞こえるセレンさんの声にエミリオが答えると、セレンさんは「失礼します」と一声かけてから入室してくる。

「カイトさん、お加減はいかがですか?」

「ああ、ちょっと後頭部がずきずきするような気もするけど、それ以上は特に何もないよ。それよりセレンさん。あの後はどうなったんだ?」

「そうですね……結論から言うと、あの男は私がのしておきました。そのお礼として、食堂のお部屋ですが療養もかねて泊めていただいたんです」

 セレンさんはこともなげに言うが、あの巨漢のごろつき冒険者はエミリオと俺を簡単に気絶させる程度には強かったはずなんだが……
 俺が怪訝そうな顔をしていると、エミリオが「セレンはとても強いのだよ」と言っていつものように朗らかに笑って見せた。

 なんだか複雑な気持ちだったが、それは一旦脇に置いて詳しく聞く所によると、セレンさんがあのごろつきを撃退した後、ウエイトレスの女の子がお礼と療養を兼ねて俺たち三人を泊めてくれる事になったらしい。
 彼女はこの大衆食堂の娘さんで、俺とエミリオが泊まったこの部屋は成人後に家を出たという兄が使っていたものだったらしい。
 セレンさんは彼女の部屋にお邪魔していたそうだ。

 そんな話を聞いていると、再度ノックが響いてくる。
 今度は噂の彼女のお出ましのようだった。

「昨晩はありがとうございました。皆さんのおかげで大事には至らず、感謝しています」

 そういってぺこりと頭を下げる彼女に、実際には向かっていっただけで簡単にやられた俺としては少々居心地が悪い。

「昨晩は料理を担当している厨房の従業員が、体調不良でお休みしていたんです。でもたまたまそんな時にお店が混んじゃって、なかなか料理を出せなくて……皆さんにもご迷惑をおかけしましたのにあんな風に助けていただいて。本当にありがとうございました」

「ははは……まぁ、言ってもつっかかってやられただけですけどね」

「うむ、それは私も同じだな。はっはっは。だがおかげでほら、カイトよ。宿代が浮いたではないか」

「いや、そういう問題じゃ無くね?」

 俺はジト目でエミリオの方を見るが、エミリオは涼しい顔で笑うのみだ。
 そんな彼にセレンさんは「さすがはエミリオ様です!」と朝から両手をぐっと握り合わせて興奮していた。
 そんな俺たちの様子を、彼女はおかしそうにくすくすと笑ってみていたが、不意に何かを思い出したように声を上げる。

「あ、そうだ。そんな事より、セレンさんから聞いたんですけど、皆さん冒険者養成コースを受講されるんですよね。時間は大丈夫ですか?」

 そうだ、九の刻までに受付に行かないと!

「エミリオ、今何時だ?」

「時?ああ、刻の事かね?うむ、八の刻を少し過ぎたところのようだね」

 エミリオはぼんやりと答えるが、セレンさんの方は少し表情に緊張が走った。もちろん、俺もだ。
 遅刻なんてしたら、それがどんな影響を及ぼすか知れたものじゃない。

「急いで準備してギルドへ行こう。エミリオ、ここからギルドまでってどのぐらいかかったっけ?」

「そうだね。およそ六半刻くらいではないかな?」

 半刻というのは元の世界的に言うとおよそ五分単位の事だ。十二半刻=一刻となる。つまり元の世界風に言えば、八時過ぎで目的地まで三十分かかり、九時着でなければならない、と……

「い、急ぐぞエミリオ!」

「荷物はまとめています。エミリオ様も起床されていましたし、後はカイトさんだけです。寝ぐせやその他はこの際後回しにして、すぐに出発されるといいのではないかと」

 そういえば起きたのは俺が一番遅かった!
 一番慌てている人間が一番寝坊してるって、何だこの最悪なパターン!

「それじゃあえっと……!」

「ヴィオラさんです」

 ウエイトレスの彼女の名前を知らずにどもった俺に、すでに聞いていたのであろうセレンさんが一言補足してくれた。

「ヴィオラさん、一晩の宿ありがとうございます!じゃあ、行こうかエミリオ、セレンさん!」

 俺の荷物は革袋一つだけ。
 寝起きの色々を無視すれば、準備なんて一瞬だった。

「うむ、では行こうぞ。これより我らの新しい伝説が幕を開けるのだ!」

「ふふっ、楽しみですねエミリオ様。それではヴィオラさん、また」

「うむ、息災でな!」

 こうして俺たちは大慌てで、冒険者ギルド受付まで駆けだすのだった。
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