8 / 38
第1章『聖霊樹の巫女』
07
しおりを挟む
ベッドの上、俺はゆっくりと目を開けた。
見知らぬ天井、見知らぬ部屋の中で俺はベッドに眠っていた。
「お、目が覚めたようであるな、カイトよ」
「エミリオ!」
どうやら俺より早く目を覚ましていたらしいエミリオは、普段とまるで変わらない様子で俺に話しかけてくる。
彼の頬を見るが、そこに昨晩殴られたであろう形跡は存在しなかった。
「ん、これかね?なぁに、私は少しばかり人より頑丈にできているものでね。あの程度の一撃を受けたぐらいで傷が残りはせんよ。まぁ、蚊に刺されたようなものだな。はっはっはっは!」
「ったく。蚊に刺されて気絶する奴があるか」
俺は呆れたようにため息をつきながら力なく突っ込みを入れた。
かくいう俺の方は、まだ後頭部がずきずき痛むような気すらしているのに。
コンコン
「エミリオ様、カイトさん、お目覚めですか?セレンです」
「うむ、問題ないぞ。入るがいい」
扉の向こうから聞こえるセレンさんの声にエミリオが答えると、セレンさんは「失礼します」と一声かけてから入室してくる。
「カイトさん、お加減はいかがですか?」
「ああ、ちょっと後頭部がずきずきするような気もするけど、それ以上は特に何もないよ。それよりセレンさん。あの後はどうなったんだ?」
「そうですね……結論から言うと、あの男は私がのしておきました。そのお礼として、食堂のお部屋ですが療養もかねて泊めていただいたんです」
セレンさんはこともなげに言うが、あの巨漢のごろつき冒険者はエミリオと俺を簡単に気絶させる程度には強かったはずなんだが……
俺が怪訝そうな顔をしていると、エミリオが「セレンはとても強いのだよ」と言っていつものように朗らかに笑って見せた。
なんだか複雑な気持ちだったが、それは一旦脇に置いて詳しく聞く所によると、セレンさんがあのごろつきを撃退した後、ウエイトレスの女の子がお礼と療養を兼ねて俺たち三人を泊めてくれる事になったらしい。
彼女はこの大衆食堂の娘さんで、俺とエミリオが泊まったこの部屋は成人後に家を出たという兄が使っていたものだったらしい。
セレンさんは彼女の部屋にお邪魔していたそうだ。
そんな話を聞いていると、再度ノックが響いてくる。
今度は噂の彼女のお出ましのようだった。
「昨晩はありがとうございました。皆さんのおかげで大事には至らず、感謝しています」
そういってぺこりと頭を下げる彼女に、実際には向かっていっただけで簡単にやられた俺としては少々居心地が悪い。
「昨晩は料理を担当している厨房の従業員が、体調不良でお休みしていたんです。でもたまたまそんな時にお店が混んじゃって、なかなか料理を出せなくて……皆さんにもご迷惑をおかけしましたのにあんな風に助けていただいて。本当にありがとうございました」
「ははは……まぁ、言ってもつっかかってやられただけですけどね」
「うむ、それは私も同じだな。はっはっは。だがおかげでほら、カイトよ。宿代が浮いたではないか」
「いや、そういう問題じゃ無くね?」
俺はジト目でエミリオの方を見るが、エミリオは涼しい顔で笑うのみだ。
そんな彼にセレンさんは「さすがはエミリオ様です!」と朝から両手をぐっと握り合わせて興奮していた。
そんな俺たちの様子を、彼女はおかしそうにくすくすと笑ってみていたが、不意に何かを思い出したように声を上げる。
「あ、そうだ。そんな事より、セレンさんから聞いたんですけど、皆さん冒険者養成コースを受講されるんですよね。時間は大丈夫ですか?」
そうだ、九の刻までに受付に行かないと!
「エミリオ、今何時だ?」
「時?ああ、刻の事かね?うむ、八の刻を少し過ぎたところのようだね」
エミリオはぼんやりと答えるが、セレンさんの方は少し表情に緊張が走った。もちろん、俺もだ。
遅刻なんてしたら、それがどんな影響を及ぼすか知れたものじゃない。
「急いで準備してギルドへ行こう。エミリオ、ここからギルドまでってどのぐらいかかったっけ?」
「そうだね。およそ六半刻くらいではないかな?」
半刻というのは元の世界的に言うとおよそ五分単位の事だ。十二半刻=一刻となる。つまり元の世界風に言えば、八時過ぎで目的地まで三十分かかり、九時着でなければならない、と……
「い、急ぐぞエミリオ!」
「荷物はまとめています。エミリオ様も起床されていましたし、後はカイトさんだけです。寝ぐせやその他はこの際後回しにして、すぐに出発されるといいのではないかと」
そういえば起きたのは俺が一番遅かった!
一番慌てている人間が一番寝坊してるって、何だこの最悪なパターン!
「それじゃあえっと……!」
「ヴィオラさんです」
ウエイトレスの彼女の名前を知らずにどもった俺に、すでに聞いていたのであろうセレンさんが一言補足してくれた。
「ヴィオラさん、一晩の宿ありがとうございます!じゃあ、行こうかエミリオ、セレンさん!」
俺の荷物は革袋一つだけ。
寝起きの色々を無視すれば、準備なんて一瞬だった。
「うむ、では行こうぞ。これより我らの新しい伝説が幕を開けるのだ!」
「ふふっ、楽しみですねエミリオ様。それではヴィオラさん、また」
「うむ、息災でな!」
こうして俺たちは大慌てで、冒険者ギルド受付まで駆けだすのだった。
見知らぬ天井、見知らぬ部屋の中で俺はベッドに眠っていた。
「お、目が覚めたようであるな、カイトよ」
「エミリオ!」
どうやら俺より早く目を覚ましていたらしいエミリオは、普段とまるで変わらない様子で俺に話しかけてくる。
彼の頬を見るが、そこに昨晩殴られたであろう形跡は存在しなかった。
「ん、これかね?なぁに、私は少しばかり人より頑丈にできているものでね。あの程度の一撃を受けたぐらいで傷が残りはせんよ。まぁ、蚊に刺されたようなものだな。はっはっはっは!」
「ったく。蚊に刺されて気絶する奴があるか」
俺は呆れたようにため息をつきながら力なく突っ込みを入れた。
かくいう俺の方は、まだ後頭部がずきずき痛むような気すらしているのに。
コンコン
「エミリオ様、カイトさん、お目覚めですか?セレンです」
「うむ、問題ないぞ。入るがいい」
扉の向こうから聞こえるセレンさんの声にエミリオが答えると、セレンさんは「失礼します」と一声かけてから入室してくる。
「カイトさん、お加減はいかがですか?」
「ああ、ちょっと後頭部がずきずきするような気もするけど、それ以上は特に何もないよ。それよりセレンさん。あの後はどうなったんだ?」
「そうですね……結論から言うと、あの男は私がのしておきました。そのお礼として、食堂のお部屋ですが療養もかねて泊めていただいたんです」
セレンさんはこともなげに言うが、あの巨漢のごろつき冒険者はエミリオと俺を簡単に気絶させる程度には強かったはずなんだが……
俺が怪訝そうな顔をしていると、エミリオが「セレンはとても強いのだよ」と言っていつものように朗らかに笑って見せた。
なんだか複雑な気持ちだったが、それは一旦脇に置いて詳しく聞く所によると、セレンさんがあのごろつきを撃退した後、ウエイトレスの女の子がお礼と療養を兼ねて俺たち三人を泊めてくれる事になったらしい。
彼女はこの大衆食堂の娘さんで、俺とエミリオが泊まったこの部屋は成人後に家を出たという兄が使っていたものだったらしい。
セレンさんは彼女の部屋にお邪魔していたそうだ。
そんな話を聞いていると、再度ノックが響いてくる。
今度は噂の彼女のお出ましのようだった。
「昨晩はありがとうございました。皆さんのおかげで大事には至らず、感謝しています」
そういってぺこりと頭を下げる彼女に、実際には向かっていっただけで簡単にやられた俺としては少々居心地が悪い。
「昨晩は料理を担当している厨房の従業員が、体調不良でお休みしていたんです。でもたまたまそんな時にお店が混んじゃって、なかなか料理を出せなくて……皆さんにもご迷惑をおかけしましたのにあんな風に助けていただいて。本当にありがとうございました」
「ははは……まぁ、言ってもつっかかってやられただけですけどね」
「うむ、それは私も同じだな。はっはっは。だがおかげでほら、カイトよ。宿代が浮いたではないか」
「いや、そういう問題じゃ無くね?」
俺はジト目でエミリオの方を見るが、エミリオは涼しい顔で笑うのみだ。
そんな彼にセレンさんは「さすがはエミリオ様です!」と朝から両手をぐっと握り合わせて興奮していた。
そんな俺たちの様子を、彼女はおかしそうにくすくすと笑ってみていたが、不意に何かを思い出したように声を上げる。
「あ、そうだ。そんな事より、セレンさんから聞いたんですけど、皆さん冒険者養成コースを受講されるんですよね。時間は大丈夫ですか?」
そうだ、九の刻までに受付に行かないと!
「エミリオ、今何時だ?」
「時?ああ、刻の事かね?うむ、八の刻を少し過ぎたところのようだね」
エミリオはぼんやりと答えるが、セレンさんの方は少し表情に緊張が走った。もちろん、俺もだ。
遅刻なんてしたら、それがどんな影響を及ぼすか知れたものじゃない。
「急いで準備してギルドへ行こう。エミリオ、ここからギルドまでってどのぐらいかかったっけ?」
「そうだね。およそ六半刻くらいではないかな?」
半刻というのは元の世界的に言うとおよそ五分単位の事だ。十二半刻=一刻となる。つまり元の世界風に言えば、八時過ぎで目的地まで三十分かかり、九時着でなければならない、と……
「い、急ぐぞエミリオ!」
「荷物はまとめています。エミリオ様も起床されていましたし、後はカイトさんだけです。寝ぐせやその他はこの際後回しにして、すぐに出発されるといいのではないかと」
そういえば起きたのは俺が一番遅かった!
一番慌てている人間が一番寝坊してるって、何だこの最悪なパターン!
「それじゃあえっと……!」
「ヴィオラさんです」
ウエイトレスの彼女の名前を知らずにどもった俺に、すでに聞いていたのであろうセレンさんが一言補足してくれた。
「ヴィオラさん、一晩の宿ありがとうございます!じゃあ、行こうかエミリオ、セレンさん!」
俺の荷物は革袋一つだけ。
寝起きの色々を無視すれば、準備なんて一瞬だった。
「うむ、では行こうぞ。これより我らの新しい伝説が幕を開けるのだ!」
「ふふっ、楽しみですねエミリオ様。それではヴィオラさん、また」
「うむ、息災でな!」
こうして俺たちは大慌てで、冒険者ギルド受付まで駆けだすのだった。
0
あなたにおすすめの小説
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主
雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。
荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。
十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、
ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。
ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、
領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。
魔物被害、経済不安、流通の断絶──
没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。
新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる