純白少女と転生者

おすねこ

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第1章『聖霊樹の巫女』

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 見慣れない天井、眠った覚えのない自分。
 そんな状況も、ここ数日の間だけでもう三回目ですっかり慣れてしまった気がする。

「おう、目が覚めたか!」

 声には聞き覚えがあった。
 その声の方に視線を向けると、そこにはロンド先生の姿があった。

「ロンド先生?」

「いやぁ、びっくりしたぜ。俺との戦闘訓練でぶっ倒れる奴は今まで星の数ほど見てきたがよ。まさかそれよりはるか前の段階でぶっ倒れる奴がいるとは思いもしなかったぜ」

 そういえば俺はギルドカードのスキルを得て、そこから輪廻士ソウルリンカーに転職することに同意した瞬間膨大な知識が脳を埋め尽くして……気絶したのか。

「ギルドカードのスキルはMPを消費しないスキルだから、ちょっと油断してたわ。きっとあたしも知らない何らかの理由でMP切れを起こしたのよね」

 そう言って頷いているのはリサ先生だった。
 この部屋はきっとギルドの一室なんだろう。
 ベッドがほかにも六つ置かれていて、それらのベッドは全部が埋まっていた。

 リックス達三人と俺、そしてエミリオでそれぞれ一つずつ。
 そして残る一つのベッドは、ごろつき二人が積み重ねられたかのように寝かせられていた。
 ちなみにエミリオのベッドの側には当然のようにセレンさんが付き添っていた。

「えーっとこれは一体……」

「さっきもバカが言ったでしょ。戦闘訓練よ。ほら、昨日実技試験があるって言ってあったでしょ?」

「ああ、そういえば確かに……」

「お前さんがぶっ倒れてる間に、実技試験は滞りなく終了って奴だ。まぁお前さんは実技試験はやってないが……どうする?」

「いえ、さすがに今日はやめておきます……」

 惨憺たる有様を目の当たりにして及び腰になった……訳ではない。
 多分だが、実技試験はしない方がいいと思ったのだ。

「そうか。まぁ採点にゃあ響くが戦闘だけが冒険者ってわけでもねぇしな。無理に全部やる必要もねえか」

 ちなみにゲームでは『これより戦闘におけるチュートリアルを開始します。スキップする/しない』とか、そういう文章が出たような気がする。
 もちろんスキップせずに受けておけばクエスト達成経験値を入手できたが、まぁ微々たる量だ。
 それとシステム的には同じものなんだろう。

 ……だめだな。
 変にチート能力が手に入ったせいで、またゲーム脳になってきている気がする。
 ここは現実、ここは現実、ここは現実………よし。

「とりあえず、今日のところはこれで終了よ。最終日は実際にパーティーを組んでダンジョンに潜ってもらうことになるわ。だから今日は各自ゆっくり休んでおくこと。いいわね?」

 そう言い残し二人の先生は部屋から出ていった。
 俺はそっと小さく『“ギルドカード・オープン”』と口にする。
 そうして出てきた俺のギルドカードは……

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
名前:カイト=インディナル 種族:人間
性別:男 年齢:十八 職業:輪廻士ソウルリンカー
レベル:78
HP:950/950 MP:930/930
STR:100 VIT:100 AGI:100
DEX:100 INT:100 MIN:100
スキル:
ソウルリンク『未設定』『未設定』『未設定』
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ………ああ、うん。間違いなく俺がプレイしていた当時のステータスそのままだな。
 なお、能力がキリよく並んでるのは別に偶然じゃなくて、レベルアップによる能力アップボーナスを均等に割り振るようにしていった結果だ。

 普通はこんなステータスは器用貧乏以外の何物でもないのだが、輪廻士ソウルリンカーの場合英魂の組み合わせ次第で、戦士にも魔法使いにも生産職にもいつでも切り替え可能なので結果的に全ステータスが重要なのだ。

 もちろん同レベル帯の専門職キャラクターに比べれば、見劣りする場面も多いがそこを英魂の組み合わせで補い有利に進めていくのも輪廻士ソウルリンカーの魅力なのだ。
 ちなみにレベル自体は、そこそこやりこんではいるが廃ゲーマー程じゃない。

 英魂のセットはできるだろうか?
 俺は早速『未設定』の部分を指で……いや、もういいや。
 画面をスマホに見立てて、タップした。

 すると、見覚えのある課金のたまものの英魂達の名前がずらっと表示された。
 よしよし……とにかく今は戦闘職より便利職の方がいいよな。
 俺はリストの中から『宝石商ゴードウェル』『旅芸人メランコリー』『神官プロヴァンス』を選択した。
 それによってスキル欄が大きく様変わりする。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
HP:950/950 MP:930/930(+100)
STR:100 VIT:100 AGI:100(+30)
DEX:100 INT:100(+10) MIN:100(+20)
スキル:
ソウルリンク『宝石商ゴードウェル』『旅芸人メランコリー』『神官プロヴァンス』
アクティブ:『宝石研磨』『真贋判定』『鑑定眼』『歌唱術』『舞踏術』『コンサート』『鈍器術』『神聖魔法』『祈り』
パッシブ:『商人の豪運』『軽業師』『成り上がり神官』
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 名前とかその辺は変わらないのでまぁ置いておくとして、ステータス補正とアクティブスキル九種にパッシブスキル三種が追加された。

 ステータス補正は『軽業師』『成り上がり神官』のおかげだ。
 こういう部分や……英魂によってはスキルのダブりなんかもあったりで、組み合わせ次第でありとあらゆる場面に対応可能な職業。
 これが輪廻士ソウルリンカーの神髄だった。

 とりあえず今は『鑑定眼』と『コンサート』、いざという時の『神聖魔法』を目的に組んでいる。
 『鑑定眼』はいついかなる時も役に立つだろうし、『コンサート』は路上で歌ったり踊ったりでおひねりをもらうスキルだ。
 『神聖魔法』は身を守るのにもうってつけだし、最悪『鈍器術』があるからメイスみたいな武器で戦うこともできる。
 俺はそこまで作業を済ませると、ベッドから立ち上がりエミリオのいるベッドへと足を向けた。

「セレンさん、エミリオは……?」

「エミリオ様なら平気です。カイトさんはもう大丈夫ですか?」

「ああ、俺の方は平気だが……うん、大丈夫そうだな」

 エミリオから安らかな寝息が聞こえてくる。
 外傷もなさそうだし、特に問題はないのだろう。

 窓から外を見ると日はまだ高く、夕方までには時間があるようだ。
 今から明日までは自由時間という事だろう。

「セレンさん、俺ちょっと出かけてこようと思うんですが……」

「解りました。それでは十七の刻に昨日の宿で待ち合わせにしましょうか?」

 俺はその言葉にうなずきギルドを後にした。
 そして約束の時間まで『コンサート』のスキルを使い、路上ブレイクダンスでおひねりに銀貨四枚と銅貨五枚、鉄貨(……十円ぐらいか?)八枚を手に入れた。

 頭が摩擦熱でヒリヒリしたが、その甲斐はあったようだ。
 ちょっとばかり禿が心配になったりもしたが、深く考えない様にしよう……
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