純白少女と転生者

おすねこ

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第1章『聖霊樹の巫女』

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 ダンジョンから転移で飛んできた深い森のようなエリアの中、舞い散る青葉吹雪のその奥で巨木の根元に眠る一人の少女。
 俺はまるで誘われるかのように彼女の方へと歩を進めて行く。

 近づけば明らかになってくるその容姿。
 年の頃は少女と呼んで差し支えない年齢、十六~十八といった所だろう。
 色の抜け落ちた、けれどもつややかさを感じる白銀の髪は長く、腰のあたりまでは伸びていそうだ。
 眠っているので瞳の色はわからないが、顔立ちはとても整っておりうつ伏せにさらされた裸体はまるで美術品のように白くかがや……裸体!?

 俺は自分の服をその場でバサッと脱ぎ捨てると、慌てて彼女に近づいて彼女の裸体に俺の服をかぶせて隠した。
 はぁ、はぁ……焦った。
 生前童貞の俺にはさすがに女の子の裸体はあまりに刺激が強すぎる。

「ん……」

 服をかぶせた刺激で目を覚ましたのか?
 少女がゆっくりと上体を起こして目をこする。
 瞳の色は周囲の青葉と同じ深い緑色をしていた。

 幸い服をつかんで起き上がってくれたおかげで、胸がポロンという事はなかった。
 少女は眠そうな目で俺の方を見て、自分の体を見下ろし、俺の服を見て、そしてもう一度俺の方を見つめてぽつりと呟いた。

「………事後?」

「違うわ!」

「ん、冗談」

 本人は冗談と口にしているが、思いっきり無表情なので本当に冗談を言ったのかどうか疑わしい。
 だがまぁ本人がそうだと言っているし、俺としても本気で事後だと思われても困るのでそのまま流す事にする。

「服」

「ん、ああ。まぁそれは俺のだが」

「返す。きっと寒いと思う」

「いやいやいやいや、そうなったらお前、着る物ないじゃないか!」

「平気。寒いのはきっと得意。くちゅん」

「くしゃみしてるだろうが!」

「ん、きっと花粉が鼻をくすぐったせい。だから平気」

「というか、着る物ないと裸じゃないか!恥ずかしくないのかよ!?」

 そこまでは会話が連続していたが、俺のその発言に少女は黙ってしばらく考え込むとぽつりと呟いた。

「……状況的に、恥ずかしい?」

「なんで疑問形なんだよ!?」

 つ、疲れる……何だろうこの子は。
 俺が息を荒げて呆れたように彼女の方をみつめている間も、少女はぽやんとした様子で俺の事をただ見つめ返してくる。
 くっ、俺の方が圧倒的に恥ずかしいじゃないか……

「と、とりあえず……俺はカイト。カイト=インディナル。冒険者……予定の男だ」

「ん、よろしくカイト」

 少女はそう言って俺に手を差し出してきたが……少女からの名乗りはない。

「えっと、君の名前は?」

 俺の問いかけに少女は、表情は変えずにこてんと首をかしげる。
 この子は確たる答えを持ってるときは、かなりテンポよく返してくれる子だ。
 こうして返答が滞ったという事はまさか……

「無い、よ?」

「え?」

 俺は普通に『分からない』とか『思い出せない』と返ってくると思っていたが、彼女の答えはほんの少しニュアンスが違っていた。
 無い、という事は初めから少女には名前が付けられていないという事だ。

 どういう事なんだろう?
 俺は周囲を見渡す。
 深い森の中、巨木の根元で青葉吹雪に包まれ眠る髪も、肌も、感情すらも純白の少女。

 俺はそれからも根気よく彼女に色々尋ねてみるが、彼女は知識的には一般人と言っても遜色がない……むしろ知識人と言ってもしっくりくるほどの色々な知識を持っていた。
 けれど、いざ自分の事となると全く答えられないのだ。
 そう、まるで『今この瞬間にこの場に生まれてきた』かのような純白っぷりだ。

「ふぅ……まぁ、ずっとこうしていてもしょうがないよな。でも、名前がないとさすがに不便だよな……」

「カイトが付けていいよ?」

「……いいのか?」

「大丈夫、問題ない」

 そう言って少女は親指をぐっと立てた。
 こういった動作の色々も、表情が伴わないのでまるでこういう発言をしたらこういうポーズをするという知識に従って動いているだけのように感じてしまう。
 そこまで完璧なら、表情も作れるんじゃないだろうか?

 俺はしばらく少女の名前を考える。
 正直あんまり名づけはうまい方じゃないんだよな……ゲームでも主人公の名前はもうカイトのままでいいんだが、ヒロインとかの名前入力を求められると、さんざん悩んだ末に結局デフォルトにすることが多かった。

「………木、青葉吹雪、葉っぱ、リーフ……いや、リーフィア。そうだ、リーフィアでどうだ?」

「ん、いい。私リーフィア」

 俺の問いかけに少女は拒否することなく、頷いて答える。
 これ、物凄いセンスのかけらもないような、ふざけた名前でも頷いてくれたんだろうか?
 最初に裸だったから『マッパージョ』とか言ったら「ん、いい。私マッパージョ」……ぶはっ!

「……カイト変な顔してる。絶対変なこと考えてる」

「え、そ、そんなことないぞ!?」

「えっち」

「断じてそんな方向じゃねえぇぇ!!」

 両手で体を抱きしめるようにして呟くリーフィアに、俺は絶叫するように否定した。
 感情はまだ薄い感じだが、意外と冗談が好きな子なのかもしれない。
 このまま彼女と一緒にいれば、彼女もいつか感情豊かな子になってくれるのだろうか?

「じゃあ、カイト。やり直し」

「ん?」

「よろしく、カイト」

 そう言ってリーフィアは俺の方に手を差し出してくる。
 そんな彼女の手を、俺は今度こそぎゅっと握り返した。

「ああ、こちらこそ。リーフィア」

 そう言って笑顔を向ける俺に合わせるように、少女もぎこちないながらもかすかに笑顔らしいものを見せてくれた。

ルゥオオォォォォォォ!

「な、なんだ!?」

「お化けなんていない。きっと木の間を噴いた風が音を鳴らしただけ」

「いやいやいや、そういう感じの声じゃないだろ!明らかに今のは獣の唸り声……」

ガサガサガサガサガサッ

 草をかき分け何かが欠けてくるような音が聞こえる。
 俺は戦闘に入る前に、大慌てで英魂を付け替える。
 幸い今ここにいるのは、俺とリーフィアだけだ。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
名前:カイト=インディナル 種族:人間
性別:男 年齢:十八 職業:輪廻士ソウルリンカー
レベル:78
HP:950/950(-100) MP:930/930(+100)
STR:100 VIT:100 AGI:100(+120)
DEX:100(+20) INT:100(+10) MIN:100(+20)
スキル:
ソウルリンク『暗殺者ジョーカー』『蛇眼盗賊王マカラブル』『神官プロヴァンス』
アクティブ: 『暗殺術』『弱点露出』『変装術』『短剣術』『トラップマスター』『毒の盃』『鈍器術』『神聖魔法』『祈り』
パッシブ:『シャドウウォーカー』『盗賊王の瞳』 『成り上がり神官』
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 今の装備が短剣である以上、これが最適だろう。
 俺はやってくる獣を待ち構える。
 走りこんできた獣は、三匹の狼だった。
 鑑定眼がないので、ゲーム知識だよりにはなるがバウンドウルフだったはず。

 おいおいおい、初心者ダンジョンで出てくるような奴じゃないぞ。
 こいつらがゲームで出てくるのは、レベル三十台ぐらいの頃の中級ダンジョンやちょっと深い森の奥だ。
 ステータス的にもそのレベル帯にちょうどいいぐらいのステータスだし、何より集団で襲い掛かってくるためかなり質が悪い。

 だが、今の俺なら特に問題なく対処できる相手だ。
 俺は走りこんでくる三匹を迎え撃つように駆けだした。

 とはいえ、リーフィアからは離れすぎない。
 そばで戦えば乱戦からは守りにくいが、かといって離れすぎるといざという時にフォローがきかないからだ。

 俺は順番に時間差でとびかかってくるバウンドウルフの爪や牙をやすやすと回避していく。
 ステータス補正もあるが、『シャドウウォーカー』はAGI補正が高い上に回避力の向上効果もついている。
 HPにマイナス補正があるが、それを補って余りある性能だ。

 そして『弱点露出』。
 このスキルを使う事で、標的の弱点部位を正確に知ることができる。
 俺はその弱点部位に正確にダガーを差し込んでいく。
 その一撃だけで、確実にバウンドウルフを一匹ずつ屠っていく。

ガサァッ!

 その時視界の隅に常に納めていたリーフィアのすぐそばに、少し大きなバウンドウルフが姿を現した。
 あれがボスだろう、つまりこの三匹はおとりでボスが一番弱そうで美味しそうに見えたリーフィアをこっそりと狙う算段だったに違いない。

 だが……

ドンッ!

 飛び出したボスの喉元、弱点部位に俺の投げた短剣が深々と突き刺さる。
 奴の狙いがリーフィアなら、俺は標的にされていない。
 標的にされていない相手への命中とダメージを大幅に引き上げるスキル『暗殺術』。

 俺の周囲の狼三匹も既にドロップアイテムに変化している。
 そしてボス狼もまた、その一撃を受けて即時絶命しドロップアイテムへとその姿を変えた。
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