純白少女と転生者

おすねこ

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第1章『聖霊樹の巫女』

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「なるほどね、聖霊樹の巫女か……」

 馬車の中、俺はギルドマスターの依頼内容とその推測をレイオス王子に語っていた。
 だが実際に聖霊樹の巫女という物自体伝説的な話だし、それがこのリーフィアだといってもそれを証明できるものは存在しない。

 俺の証言と状況証拠から、ギルドマスターがそうだと判断したからという以上の説得力は存在しないのだ。
 それでも、レイオス王子は俺たちの発言を疑っている様子がなかった。
 彼サイドから見ても何かしら心当たりのある事が、あるんだろう。
 そしておそらくそれは……

「聖霊樹は実際どうなんですか?もしや既に枯れかかっている?」

 外から見た際には枝葉も問題なく元気そうだったが、それもあくまで天辺の方の視界に収められる部分のみだ。
 それより下、建物に隠れている部分は既に枯れていたとしても不思議ではない。

「……そうだな、これから見せる君たちに隠しておく意味はないだろう。確かに枯れかかっているよ。下の方から既に半分ほどはね」

「やはり……じゃあ俺たちの話を疑わないのは、聖霊樹が枯れかかっているからなわけですね」

「そう。もちろん疑っていないわけじゃないが……今はむしろ疑わしい伝説であれ、それが真実であってほしいと願っているという方が正しいかもしれないな。仮にもギルドマスターの紹介まで受けた君たちが、まさか聖霊樹を害そうなどと考える者たちではないだろうと考えれば、見せておいて損はないし、うまくすれば聖霊樹を回復させられるかもしれないのだから」

「うん、多分できるよ?」

 それを聞いて今まで黙っていたリーフィアがぽつりとつぶやいた一言は、とんでもない爆弾発言だった。
 俺もレイオス王子も凄い勢いで彼女の方に顔を向ける。

「できるって、リーフィア。えっと、どうやって?」

「祈るの。それで大丈夫、だと思う」

 祈る……彼女のスキルの中にあった『神への祈祷』がそれだろうか?
 ただ、だと思うというのがなんとも不安をあおる発言だった。

「だと思うというのは、確実ではないという事かな、お嬢さん?」

「う~ん……」

 レイオス王子もそこが引っかかったらしい。
 それはそうだろう。
 本当に癒せるのだとするならば、今すぐにでも確証が欲しいだろうから。

「そう思ったから、としか言えない。例えば……うーんと。カイトは、この後に食事が出るとして、そのご飯を残さず食べられる、と思う?」

「ん?あー、そうだな。そこそこお腹もすいてるしできるんじゃないか?」

「そうだよね『できると思った』よね? きっと一緒」

 つまり彼女の中では、根拠は示せないけれど普通なら出来ないこともないけれど実際に見てみないことには解らないぐらいの感覚という事かな?

 まぁ、彼女は生まれたてな訳で、何事にも経験がなさすぎる。
 聖霊樹の回復ができるという『知識』はあっても回復させたという『経験』がなければ、そういう言い方になっても仕方ないわけか。

「そういえばレイオス王子、俺たちを入れてくれるのはありがたいんですけど、他に誰か許可は取らなくていいんですか?例えば、王様とか……」

「父上は最近ずっと臥せっておられてね。今現在の国の内政を取り仕切っているのは、現王太子である僕になる」

「王太子!じゃあ第一王子なんですね……けれど、そんな状況で隣の領へ視察に?」

「ああ、もちろんそんなはずはないよ。実際には……『聖霊樹の巫女』の噂が隣の領で出回っていてね。もちろん裏は取って、領の街おこしのためのでっち上げではないかという所までは調査はしていたんだ。けれど実はそこの領主が巫女を囲っている可能性も出てきてね……」

 その話の出どころは解らないが、もしそうであるなら領主もそう簡単に巫女の存在を明るみには出さないだろうと、現在城を離れる事の出来る最高権力者である王太子が直接確認に向かう必要が出てきたのだという。
 しかも国民に極力知られたくない事情『聖霊樹が枯れかけている』という事実を公にしない為には、公式的な訪問にして目立つわけにはいかなかったそうだ。
 そして彼が国を空ける事で滞りそうな政務に関しては、第二王子であるべリオスが引き受けてくれているという。

「それで、結果的には空振りだったんですか?」

「そうだね。空振りかどうかは実の所よくわからなくてね」

「はい?」

「その地方の領主だが……僕が領についた頃には亡くなっていたんだよ。彼の一家もろともね」

 なんでもレイオス王子が領についた時には既に大騒動になっていたらしかった。
 領主の屋敷が魔物の群れに襲われたという話で。

 この領主の館は、街の端の小高い丘の上にあったそうだが、その領主の館を魔物の群れが襲撃したというのだ。
 しかも普段なら軽々蹴散らせていたはずの、ゴブリンやオークといったそれほど強くもないはずの魔物達だったらしい。

 だが……それらが強くないのは、聖霊樹の加護があってこそだ。
 今聖霊樹は半分枯れかけており、その力を大きく減退させているのだろう。
 ゆえに狂暴化した魔物の群れに、領主の館の護衛兵は蹴散らされたのだというのがレイオス王子の判断だった。

 そして屋敷の中では魔物の死骸と屋敷の物の死骸が散乱しており、もし囲われていた巫女が混ざっていたとしても判別はつかなかっただろう状況だったと。

「すでに被害は出ているんだ。今は枯れかけた聖霊樹の加護がこれ以上減退しないように、宮廷魔術師のオラスという男が必死になってくれている。実際彼の魔術のおかげで多少なりと聖霊樹は持ち直したのだ。とはいえ、彼の力をもってしても半分程に回復した聖霊樹の力をこれ以上回復させることができないという。そんな折に出会ったのが君たちだ。どうかよろしく頼むよ」

 彼が決断を急いで俺たちを中に入れたのは、すでに魔物の被害を見てきたから、というわけか……

「行けそうか、リーフィア」

「ん、任せて」

 俺の問いにリーフィアはぐっと握りこぶしを作って見せる。
 『経験』がないからと、少し弱気だった彼女がやる気になっているのも、レイオス王子から聞いた被害の為かもしれない。

 俺としても、こんな話を聞いた以上、できる限り聖霊樹の回復に協力できればと思っていた。
 そして城門を抜けた馬車は馬車止めにたどり着き、レイオス王子の案内で城内へと入っていく。
 彼はそのまま俺たちを自らの足で聖霊樹の元まで案内してくれるつもりのよう……

「これはこれは、お帰りなさいませ兄上。聖霊樹の巫女は見つかりましたかな?」

 ……だったのだろうが、とある男の出現によりその足を止めざるを得なくなってしまっていた。

「ベリオス……ああ、もちろん。彼女が『聖霊樹の巫女』だ」

 そう言ってレイオス王子は、第二王子べリオスにリーフィアを紹介した。
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