純白少女と転生者

おすねこ

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第1章『聖霊樹の巫女』

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「くそっ……考えが甘かったか」

 俺は王城の地下牢で、でそう吐き捨てるしかなかった。
 正直ベリオス王子たちの連れてきた兵士を蹴散らして逃げ出すこと自体は、決して不可能ではなかったと思っている。
 いや、むしろ簡単だっただろう。

 だが、あそこで抵抗して大暴れすれば俺たちを信じてくれたレイオス王子の立場をさらに悪くするし、俺たち自身が王国に追われる身となってお尋ね者生活になるだろう。
 なのであえて捕まり、弁明の余地をと思ったのが甘かった。

 俺とリーフィアは引き裂かれ、俺はこの地下牢に入れられたがリーフィアがどこに連れていかれたのかはまるで解らない。
 俺と同じように地下牢につながれているだけならいいのだが、俺は何となく嫌な予感をぬぐえずにいた。

 リーフィアは『妨害された』と言っていた。
 つまり、それがどこから誰に妨害されたかは分からないが、少なくとも聖霊樹をリーフィアに癒されては困る存在がいるのだという事だ。
 もしそんな存在がこの捕縛に関わっているのだとすれば、リーフィアの身は危ないかもしれないのだ。

「悠長にしてるような時間はないよな……」

 俺は既にここに投獄される直前に英魂を入れ替えていた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
名前:カイト=インディナル 種族:人間
性別:男 年齢:十八 職業:輪廻士ソウルリンカー
レベル:78
HP:950/950 MP:930/930
STR:100 VIT:100 AGI:100(+40)
DEX:100(+20) INT:100(+100) MIN:100
スキル:
ソウルリンク『蛇眼盗賊王マカラブル』『脱獄王ハンニバル』『魔法探偵シルキー』
アクティブ: 『短剣術』『トラップマスター』『毒の盃』『縄抜け』『開錠術』『隠密』『探査魔法』『博識なる瞳』『探偵宣言』
パッシブ: 『盗賊王の瞳』『拘束系魔術無効』『灰色の脳細胞』
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 これだけスキルがそろっていれば、脱獄は何の問題もない。
 実際脱獄するだけなら『脱獄王ハンニバル』だけで十分なほどだ。
 だが、俺はこれからリーフィアを探さなければならないし、戦闘において無能になるのは困る。

 貴重なのは、戦闘で頼りになる『短剣術』、牢のカギを開ける『開錠術』、その後極力見つからずに探索するための『隠密』、リーフィアの位置を探るための『探査魔法』だ。

 『博識なる瞳』は『鑑定眼』の下位互換で、一定以上の人間が知っている事柄においてのみ鑑定が可能なスキルだ。
 『鑑定眼』程ではないが、かなり有用なスキルだから頼れるだろう。

 俺は周囲に牢番の気配がない事を『探査魔術』で探ると、早速牢のカギを『開錠術』で外しにかかる。
 正直今の俺には『アイテムインベントリ』があるため、荷物を没収されていてもほとんど痛痒無いのだ。
 当然ながら、開錠に使えるピックの類もインベントリに入っていた。

 ガチャリと軽快な音を立てて牢のカギが開く。
 よし、後はリーフィアの位置を探査してから『隠密』で………

「よう、アンタ。ついさっき入れられたばっかりでもう脱獄とは、なかなか肝が据わってるじゃないか」

「うぁっ!?」

 突然声をかけられて、俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。
 危ない危ない、牢番が側にいなくてよかったぜ。

 でも、俺が『探査魔術』で探査したのは『牢番』だった。
 つまり、俺に今声をかけてきた別の牢の囚人に関しては探査範囲外だったわけで、俺も存在に今まで気づいていなかったのだ。

 まぁ、地下牢だけにかなり薄暗いから、相手が牢の柵の側まで来ていなくて、奥の方にいたのなら気づかなくてもおかしくはないだろう。

「よかったら、ついでにアタシも連れてってくれないかねえ?これでもちょっとは名の知れた錬金術師さ。結構役に立つと思うんだがね」

 そう言って牢の柵前までやってきたのは、一人の少女だった。
 ぼさぼさの赤髪は……まぁ、牢屋生活のせいとしても中々可愛らしい少女だ。
 荒い話し方の割には、年齢は結構幼く見えるが……わずかに耳が尖っている。
 赤銅色の肌は、こんな牢に入れられてなお健康的に見える。

 エルフかと一瞬考えたが……ちょっと違う。
 俺は『博識なる瞳』を使って彼女を見つめてみた。

『名前:ニルヴィナ。ドワーフ族の少女。ドワーフの女性は小柄な人間とそう変わらない容姿をしている。全体的に少しふっくらとした体形の物が多い。赤銅色の肌と尖った耳が特徴。腕力と指先の器用さには定評がある。レイバーン王宮に出入りする錬金術師であり、皆からの信頼も厚い。ドワーフらしく無類の酒好きであり、ザル。研究熱心というよりも研究バカ。それでも彼氏がいないことに悩む程度には乙女である』

 ………最後の一文は、どうでもいい気がするが。
 というか、そんな事を一定の人間が知ってるのかよ、おい!

「えーっと……悪いんだけど、俺一人の方が動きやすい。とりあえず、俺の用がしっかり終わったら君の事も出してもらえるようにお願いするから今はもうちょっと待っててくれるとありがたいかな」

「ふぅん……中々の自信家で、慎重派だ。いいね、気に入ったよ。それに、アタシを出してくれるようにお願いしてくれるなんて、いいのかい?ひょっとしたら極悪人かもしれないんだよ?」

「まぁ、直観かな。なんとなく俺と同じで、冤罪か過剰な罪状で入れられたかだと思ってね」

 実際には鑑定結界『皆からの信頼も厚い』となっていたからだが。

「まぁ、しょうがないね。アンタが信じてくれるんだ。アタシもアンタを信じて、もうちょっと待ってみ……」

「これは………助けはいらない感じだったかな?」

 俺とニルヴィナの話がひと段落つこうとしてきたころ、もう一人の乱入者が地下牢にやってきた。
 やってきたのは、中庭で別れて以来だったレイオス王子だった。
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