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時期社長の座
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「おはようございます。
えー、北口社長については皆さんも心配していたことと思いますが、診断としては過労と言う診断で、命に別状は無いことを報告しておきます。
北口社長がいつ会社に戻って来られるか分かりませんが、今いる私たちでこの会社を一生懸命盛り上げられるように、皆さん協力して頑張っていきましょう。
今日は土曜であり、出荷は無いですが、連絡事項がある方はいらっしゃいますか」
水谷専務が腕を九十度に曲げたまま手を挙げた。
「立見君ね、毎朝仕切ってくれるのはいいけど、別に社長がいなくなったからって、君がその代わりの掛け声みたいなことはしなくてもいいんじゃないかな?社長の真似事みたいな」
「恐れ入りますが、そのようなつもりはございません。
私はただ心配されている皆さんの指揮をあげようと思っての」
「そうなのか、なら良かった。えー、北口社長がご不在の間は、何か大きな問題がありましたら、水谷までお願いします。
本日はこれで朝礼を終わります。それでは掃除に移ってください」
せっかくの太陽は曇り一つで曇っていく。
七月には似合わない曇り空が社内に広がっている。
水谷専務の一言に誰も何も言えなかった。何もなかったように各々掃除を始めている。
「立見常務」
「あぁ、ごめんね。大の大人がみっともない。皆の前で」
「いえ。あの、あまり気になさらないで下さい」
「あぁ。私のことはいいから、春奈さんも掃除しておいで」
「はい」その後に続く言葉を探している。
直ぐに出てくる気がせず、何も言わずに背を向けた。
今日は一日曇り空のような日で、その空の色が変わる事はなかった。
こんなことになるぐらいなら、少しでも無理をして社長に会社に来てもらったほうが良かったかとも思った。
土曜日は電話もほぼ無く、出荷もないため、特に大きな問題もなく終わった。
何となくモヤモヤした気持ちのままの日曜日を過ごした。
何となく母親からの連絡を待っていたが、結局連絡が来ることはなかった。何度も掛けようと思ったが、頼ってるような気がして、ついつい掛けられなかった。
平日九時の月曜日。ドキドキしながら、出社した。
「おはようございます」ドスのある声が大会議室に響いた。
「先週はご迷惑をおかけしました。単なる過労とのことで、特に心配になるようなことはありません」
珍しく丁寧な言葉で締め括った。
「社長、ありがとうございます」今日の出荷と連絡事項とが続いた。
掃除が終わって直ぐ、水谷専務と立見常務が社長室に呼ばれた。緊張した面持ちで、二人は腰を掛けた。
「すまないな、週明けの忙しい時に」
「いえ、とんでもありません」立見常務の言葉の後、沈黙が続いた。
「というのもな、薄々感じているだろうが、後継者問題について話をしておきたいと思う」
水谷専務の猫背がスッと伸び、息を呑んだ。
「正直に言う。次の社長を今回の件があり、考えている。そして、その候補は水谷、立見、そして北口春奈だ」
「それでは、春奈さんもお呼びした方が良いのではないでしょうか」
立見常務がお伺いを立てるように言葉にした。
「まぁ、待て。水谷君と立見君には十月の社内コンペの出来具合にて、評価を決めている。ただ、これは評価の一つであり、全てではない。」
「社長、御言葉ですが、順当に行けば専務である私が時期社長かと。
娘さんだと経営をまだ分かってはいないかと思います」
「水谷、今のお前が本当にこの会社を背負っていけると考えてるのか」
「はい、私は誰よりも長くこの会社に貢献しております」
「それは分かっている。今日のお前はどうだ。今のお前はどうなんだ。これでもお前の顔を立てて、候補に選んでいる」
何も言葉が出なかった。おこぼれの試合出場はプライドが許されなかった。
「北口さん、私はね、ずっとあなたに付いてきて、誰よりもあなたの考え方やこの会社の風土を分かってますよ。
これだけやってきて、ちょろっと出てきた人に奪われるなんておかしくないですか?」
「それは立見君と春奈のことか?」
「えぇ、はい。すみません、こんなこと」
「まぁ立派な言葉を並べてもらったが、結果として何をした?それを並べてくれ。気持ちや熱意や過去など要らん。社歴も性別もない。
信長のようなリーダー。家康のようなリーダー。色んな形があると思う。
その覚悟と人柄、地域から世界から信頼される関係性を、責任を持って担える者に努めて貰いたい。
その覚悟が無いのなら、早くこのテーブルから降りてくれ」
また、沈黙が続いた。
「そ、それで社長、このお話は内密と言うことでよろしいですよね」
場を和ませるように、立見常務が口を開いた。
「それも任せる。今までは私が口を出し過ぎていた。元々考えられる者からもその力量を奪っていた。これは素直に私の反省するところだ」
「いえ、そのようなことは。私の不徳の致すところでございます」
「いや、いいんだ。水谷、立見。過去の経歴は見ない。成功や失敗も見ていない。
今日、お客様に対して、喜びの旗を振り続けられる者にこの座を譲りたい。
水谷は関東との票の獲得を。立見はどのようにすればこのコンペが成功するかの企画力を評価として見ている」
「ありがとうございます」二人の言葉が重なった。その声色は正に合戦の長としての重みが二人から感じられた。
「宜しく頼む」強い圧を持つその男の声色は少しだけ穏やかさを持ち、静かにその部屋を出た。ただ二人、目が合うことはなく、その場を後にした。
第二会議室、小さな声で男の声が重なっている。
「水谷部長、お話とは何でしょうか」
「あぁ、少し待て。もう一人呼んでる」暫くして、ノックの音がした。
「失礼します」今日もきつい香水がパーソナルスペースを埋めている。
「今回の社内コンペ、林はどちらに勝ってほしい?」
「水谷部長と関東さんのチームです」本当は春奈さんに勝って、祝賀会を二人だけでしたいし、偉そうな水谷部長が気に食わないから、その方が良かった。
だが、聞かれたら、答えは一つしかなかった。
えー、北口社長については皆さんも心配していたことと思いますが、診断としては過労と言う診断で、命に別状は無いことを報告しておきます。
北口社長がいつ会社に戻って来られるか分かりませんが、今いる私たちでこの会社を一生懸命盛り上げられるように、皆さん協力して頑張っていきましょう。
今日は土曜であり、出荷は無いですが、連絡事項がある方はいらっしゃいますか」
水谷専務が腕を九十度に曲げたまま手を挙げた。
「立見君ね、毎朝仕切ってくれるのはいいけど、別に社長がいなくなったからって、君がその代わりの掛け声みたいなことはしなくてもいいんじゃないかな?社長の真似事みたいな」
「恐れ入りますが、そのようなつもりはございません。
私はただ心配されている皆さんの指揮をあげようと思っての」
「そうなのか、なら良かった。えー、北口社長がご不在の間は、何か大きな問題がありましたら、水谷までお願いします。
本日はこれで朝礼を終わります。それでは掃除に移ってください」
せっかくの太陽は曇り一つで曇っていく。
七月には似合わない曇り空が社内に広がっている。
水谷専務の一言に誰も何も言えなかった。何もなかったように各々掃除を始めている。
「立見常務」
「あぁ、ごめんね。大の大人がみっともない。皆の前で」
「いえ。あの、あまり気になさらないで下さい」
「あぁ。私のことはいいから、春奈さんも掃除しておいで」
「はい」その後に続く言葉を探している。
直ぐに出てくる気がせず、何も言わずに背を向けた。
今日は一日曇り空のような日で、その空の色が変わる事はなかった。
こんなことになるぐらいなら、少しでも無理をして社長に会社に来てもらったほうが良かったかとも思った。
土曜日は電話もほぼ無く、出荷もないため、特に大きな問題もなく終わった。
何となくモヤモヤした気持ちのままの日曜日を過ごした。
何となく母親からの連絡を待っていたが、結局連絡が来ることはなかった。何度も掛けようと思ったが、頼ってるような気がして、ついつい掛けられなかった。
平日九時の月曜日。ドキドキしながら、出社した。
「おはようございます」ドスのある声が大会議室に響いた。
「先週はご迷惑をおかけしました。単なる過労とのことで、特に心配になるようなことはありません」
珍しく丁寧な言葉で締め括った。
「社長、ありがとうございます」今日の出荷と連絡事項とが続いた。
掃除が終わって直ぐ、水谷専務と立見常務が社長室に呼ばれた。緊張した面持ちで、二人は腰を掛けた。
「すまないな、週明けの忙しい時に」
「いえ、とんでもありません」立見常務の言葉の後、沈黙が続いた。
「というのもな、薄々感じているだろうが、後継者問題について話をしておきたいと思う」
水谷専務の猫背がスッと伸び、息を呑んだ。
「正直に言う。次の社長を今回の件があり、考えている。そして、その候補は水谷、立見、そして北口春奈だ」
「それでは、春奈さんもお呼びした方が良いのではないでしょうか」
立見常務がお伺いを立てるように言葉にした。
「まぁ、待て。水谷君と立見君には十月の社内コンペの出来具合にて、評価を決めている。ただ、これは評価の一つであり、全てではない。」
「社長、御言葉ですが、順当に行けば専務である私が時期社長かと。
娘さんだと経営をまだ分かってはいないかと思います」
「水谷、今のお前が本当にこの会社を背負っていけると考えてるのか」
「はい、私は誰よりも長くこの会社に貢献しております」
「それは分かっている。今日のお前はどうだ。今のお前はどうなんだ。これでもお前の顔を立てて、候補に選んでいる」
何も言葉が出なかった。おこぼれの試合出場はプライドが許されなかった。
「北口さん、私はね、ずっとあなたに付いてきて、誰よりもあなたの考え方やこの会社の風土を分かってますよ。
これだけやってきて、ちょろっと出てきた人に奪われるなんておかしくないですか?」
「それは立見君と春奈のことか?」
「えぇ、はい。すみません、こんなこと」
「まぁ立派な言葉を並べてもらったが、結果として何をした?それを並べてくれ。気持ちや熱意や過去など要らん。社歴も性別もない。
信長のようなリーダー。家康のようなリーダー。色んな形があると思う。
その覚悟と人柄、地域から世界から信頼される関係性を、責任を持って担える者に努めて貰いたい。
その覚悟が無いのなら、早くこのテーブルから降りてくれ」
また、沈黙が続いた。
「そ、それで社長、このお話は内密と言うことでよろしいですよね」
場を和ませるように、立見常務が口を開いた。
「それも任せる。今までは私が口を出し過ぎていた。元々考えられる者からもその力量を奪っていた。これは素直に私の反省するところだ」
「いえ、そのようなことは。私の不徳の致すところでございます」
「いや、いいんだ。水谷、立見。過去の経歴は見ない。成功や失敗も見ていない。
今日、お客様に対して、喜びの旗を振り続けられる者にこの座を譲りたい。
水谷は関東との票の獲得を。立見はどのようにすればこのコンペが成功するかの企画力を評価として見ている」
「ありがとうございます」二人の言葉が重なった。その声色は正に合戦の長としての重みが二人から感じられた。
「宜しく頼む」強い圧を持つその男の声色は少しだけ穏やかさを持ち、静かにその部屋を出た。ただ二人、目が合うことはなく、その場を後にした。
第二会議室、小さな声で男の声が重なっている。
「水谷部長、お話とは何でしょうか」
「あぁ、少し待て。もう一人呼んでる」暫くして、ノックの音がした。
「失礼します」今日もきつい香水がパーソナルスペースを埋めている。
「今回の社内コンペ、林はどちらに勝ってほしい?」
「水谷部長と関東さんのチームです」本当は春奈さんに勝って、祝賀会を二人だけでしたいし、偉そうな水谷部長が気に食わないから、その方が良かった。
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