藍は墓泣く

のんカフェイン

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作戦会議

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「やっぱり部長の部下ね。教育が行き届いているわ」関東さんの高笑いはボリュームが大きい。

「まぁ、これは内緒だが、先ほど社長から次の社長を選んでいると言う話があった」

「えっ?」水谷部長からの言葉に関東さんと林君も目を丸くさせた。

「その候補が俺と立見と北口春奈の三人らしい」

「あの小娘、やっぱり」

「林は誰に次の社長になってもらいたい?」

「私は水谷部長になっていただきたいです」

「そうか、それなら林に一つお願いがある」

「はい、何でしょう」

「本番発表の時に春奈のデータを全て消しておいてくれ。そうすれば、春奈を叩き落とせる。

そして、このコンペ自体が俺の不戦勝となれば、企画はガタガタで立見も一気に叩き落とせる。


社長になる条件は他にもあると言っていたが、まずこの勝負を勝ちに行きたい。


勿論、お前にはまだ早いだろうが、営業部長の肩書きと給料アップを社長になる私が約束する。悪い話じゃないだろ?」


「はい、ありがとうございます」

「水谷社長、私は?」

「まだ早いよ。関東さんには専務の職になっていただきたい」

まんざらでも無い顔で答えた。
「ありがとうございます」

「今回のコンペは関東さんが気に入らない春奈を蹴落とすゲームかと思えば、知らない間にどんどんこちらの有利な方になってる。
推薦性で社長候補の種にもなってる。徹底的に潰すぞ」

「一つだけ部長すみませんが、あまり快勝をしたら、ショックで春奈さんが会社を辞めてしまいませんか?」

「辞めたら困るのか?邪魔だろ?」

「いや、林君の気持ちも分かるよ。そろそろ結婚したいんでしょ?君も。

そんな時に可愛い顔の年頃の女の子が恋人と別れて、独り身で帰ってきた。狙うには十分だもんね。

でも、大丈夫よ。君は若くして営業部長になって、給料も増えたら、寄ってくる可愛い女の子なんて、ごまんと増えてくるわよ。

この勝負、裏切ったら大損よ」


「流石は関東さんですね。僕の心を隅まで分かってる」

「男と女は難しいもんよ。でもね、林君。恋人が欲しい時にたまたま出会った人を運命の人だなんて、簡単に思ったらダメよ。失敗するわよ」


何故か説得力のある彼女の言葉に何も言い返せなかった。

ただ、この瞬間に三人のチームになったことは確かだった。その後の言葉は無く、会議室を後にした。

第一会議室では、幾つもの数字が並んでいる。

キタグチデニムを参考に幾つもの数値を叩き出した。

クレームによる返品率の計算から損益分岐点、適正生産ロットから原料費に労務費。

黒川君は口をポカンと開けているが、私もそれに近い状態だった。

立見常務が如何に全体を見て仕事をされているかが、痛い程分かった。

段々と提案書から計画書の形となり、その枚数は日に日に増えていった。


計画を作りながら、十月の実機試作の前にスモールスケールでの試作も並行して行っていった。

手伝ってくださる方や、完全に手伝わない方等、目に見えない組織図が段々と見えてくる。

その住み分けをすると、中間発表の拍手の大きさと完全に相関関係があった。

何ともぎこちない感じの中間層みたいな方々もちらほら感じ取られた。

何ともくだらない社内政治が見え隠れしておりうんざりするが、ここで頑張るしかなかった。

トライアンドエラーを繰り返し少しずつ形にしていく。まだまだすべてを機械化出来ていないが、本当に細かな作業はなかなか機械では難しい。

しかしそれも時間の問題だとは思っている。実際に現場に出ると、改めて色んなことを考えさせられる。

ただ中には積極的に協力してくださる方もいて大変助かった。計画と行動、評価と改善。

物の地盤が出来るまで、徹底的に繰り返した。将来的には行動のみで回していけるようにただひたすらに繰り返した。


アバウトだった数字は段々と正確さを増していき、膨れ上がった計画書は段々と枚数が少なくシンプルになっていった。


「いつの間にかこの計画書が少なくなっていきましたね。多いほうがよく伝わるんじゃないんですか?」


「いや、もともとね。こんなに増やす必要も無かったんだよ」


「どういうことですか?」


「ここまで考えなきゃいけないんだよってことを僕は二人に伝えたかったんだ。

結局この商品は何の為に誰の為にあるのか。そしてそれはいくらなのか。突き詰めると、少なくて良いんだよ。だけど、今回はボリュームを残してる」

「私もボリュームが日に日に減っていく時に心配になってました。頑張っているのに段々と減ってきていて。

でも、よくよく考えたら、中身がギュッと詰まってて、本当に言いたいことだけが残っている気がして」


「そうその通り。知りたいことを伝えることに意味があるんだよ。要らない情報は要らないし、時間の無駄。

下手をすると、自分の自己満足にしかならないんだよ」


「危なかったです。私は伝えたい言いたいの想いで、スライド枚数を増やすことに一生懸命になってました。良い意味で頭が冷えました」


「ハハハ。何だか春奈さんらしく無い言葉だね。何か一つでも気づきになってくれたら嬉しいよ。

でも、作ったデータは消さなくて良いからね。良いところだけを選んで使えばいいからね」


「なんだか、ホテルのバイキングみたいですね」

「お、黒川君良い例えするね。本当にその通りかもしれないね。お客様が食べたい物を食べたい量だけお皿に取る。それを綺麗に並べたら、貰った時により嬉しいよね」

二人は終始感心しきった様子で立見常務を見つめた。

「そんなに見ないでよ。流石に私も恥ずかしいから。さぁ、本番まであと一息だよ」

納得がいくまで、試作と計画書を練り直す日々は夏を超えた。



夏の面影を忘れ、秋色が街に目立ち始めた頃、立見常務から朝礼にて発表があった。

「早くも来週に控えた七十周年特別企画製品の社内コンペですが、こちらの形式で行いたいと思います」

そのルールは社内匿名での電子投票とし、棄権を無しとするものだった。

過半数を取った者を勝ちとし、商品化されるというものである。使用データは前日に立見のパソコンへ推薦者をメールのCCに入れて、使用資料を送ることと発表があった。

このルールは皆が納得した様で、社長も問題ないとした。朝礼と掃除が終わった第二会議室には三人の姿があった。
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