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光と闇
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「林、分かるよな」
「え?」
「え?じゃないよ。営業部長になるなら、効率良く行かなきゃ。春奈が送信後の立見のメールからそのフォルダを消すんだよ。簡単だろ?」
「はい、分かりました」
「何だよ、つれない表情で。もっと上司に対して敬うとかご機嫌を取るとかないのか?そんなんじゃ営業部長は務まらんぞ」
すみませんといった表情を浮かべたままで、何も言い返せないままでいた。
「水谷社長、詰めが甘いんじゃないんですか?」
「ん?」
「あの小娘がメールする時にはCCにあの子も入ってるんでしょ?そこも消しておかなくちゃ。それに、小娘本人のパソコンからも消し去ってようやく意味があるんじゃ無いかしら?」
「おぉ、流石関東専務だな」絵に描いたような悪人の笑顔が鼻に付く。
「水谷部長、関東さん、私達のチームはそこまでしないと春奈さんに勝てないのでしょうか?」
「何が言いたい?」
「いえ、正直に正々堂々戦っても関東さんなら勝てるんじゃないかと思っていまして」
「あら、林部長も上手くなったじゃない?」思わぬ角度からの意見に関東さんも鼻高々になる。
「なるほどな。林のその意見も分かる。俺もそれは思う。ただ今回は綺麗に決着が着いても良くないんだ」
「それはどういうことですか?」
「あぁ、言ってなかったが、今回の全体のコンペの出来が立見の評価になってるらしい。
だから、コンペ毎機能しない形にしたいんだ。
そんな中でこちらは素朴に発表し、向こうの危険試合となれば、こちらの勝ちとコンペの意味の無さが同時に意味を成してくる。
その為だ、分かるよな」
「分かりました」
ロボットの返事のように答えるしか無かった。
正直、変な片思いが拗れて、良くないことをしてしまっていたが、これ以上嫌な思いをさせるのはしんどかった。
自分なりに距離を置き、遠くから春奈さんが成長しているのが嬉しかった。
向こうからは嫌われたままでいるだろうが、もうそれでも良かった。
でも、ここまでくると引き下がれない自分もいた。
「発表前日には林の仕事はあのノロマの黒川に振っておくから任せとけ。林、出来るよな」
「はい、分かりました」
ポジションと年齢と年収が上だが、熱意やちょっとした考え方ならすっかり黒川の方が上なのも辛かった。
全てのメールにCCを付けるようにしているため、黒川の力量が日に日に上がっていっているのが分かっていた。
ぎこちなかったメールもいつの間にか丁寧になり、仕事もスムーズに出来るようになっていた。
実際、自分が無理だと思った仕事を振っても、何とかこなしていく部下の姿が眩しく思えた。
ちょこちょこ春奈さんや立見常務に質問に行っているのを見るので、二人のやり方だろうが、それをこなしてきた黒川にずっと嫉妬していた。
そして、羨ましくもあった。
ただ、直属の上司である自分には聞かれないことに苛立ちを覚えていることも事実だった。
「三人共から消すようにします」
「良し、よく言った」
「流石出来る後輩を持つと違うわね。スムーズだわ。このチーム」
「ありがとうございます。それで関東さんのスライドは出来上がったんですか?後一週間ですよ?」
「分かってるわよ。まだ一週間あるでしょ?それに七月の時点であんなに高評価だったじゃないの。林君も聞いてたでしょ?」
もうこれ以上は聞かないでおこうと思った。
迎えた発表前の金曜日。社内にはすこし緊張が走る。
「おはようございます。今日は出荷が三件と新規様のご来客が一件あります。
また、関東さんと春奈さんは本日中に使用するスライドを私と念の為に推薦者をCCに入れてメール送信してください。
また、発表の順番ですが、中間発表と同じで、関東さんからの発表とさせていただきます」
立見常務の言葉の後に
「あの、何時までにメールを送っておけばよろしいでしょうか」関東さんがポロリと口にした。
「今日の十五時までに送っていただければと思います。
ただ、もうお二人共出来ているとは思うので、午前中に送っていただいても問題ありません」
「分かりました。ありがとうございます」
「他に質問等ありますか?」特に手は上がらず、皆は息を合わせたように社長の顔を見た。
「遂に来週に控えた社内コンペだが、中間発表から約三ヶ月、二人共練り直したことだとは思う。
社運をかけた製品が並ぶことをそして、選ばれることを願っている」
いつもの拍手が少しだけ、生きているように感じた。
掃除と昨晩で貯まったメール、朝イチでの仕事をこなし、十一時の第一会議室、三人の姿があった。
「いよいよ来週だね」
「はい、今から緊張してても意味無いんですが、やっぱり緊張しちゃいますね」
「そりゃ、その日のために準備してたもんね。仕方ないよ」
黒川君は何も話していないが、久々に怒肩になっている。
ここ数ヶ月はすっかりなで肩に戻っていたのに。彼も私と同じ目線で戦ってくれていることが嬉しい。
「黒川君もありがとね。本当はもっと部署でやらなきゃいけないことが沢山あるはずなのに、この会議にいつも参加してくれて」
「いえ、多分普通に働いていると聞けないようなことを沢山聞けて、凄く勉強になってました。こちらこそありがとうございます」
二会議室にも三人の姿があった。
「それで、どういう計画なんだね?林君」
「まぁ、見てて下さい。上手くやるので。ただ一つ、水谷部長と関東さんにそれぞれお願いがあるのですが」
いつの間にか心にあった罪悪感は消えて、水谷部長と同じ目の色になり始めていた。
そのことに本人も周りも気付かず、時間をかけて変色していく。
いつの間にか社会の雨に濡れ、隣人の液が流れ、暗色に変わっていく。
そこからはどう足掻いても、黒になる他道は無かった。
何色を足しても、後から明色を足しても黒になる他道は無かった。
三人は言葉少ないままに、第二会議室を後にした。
「え?」
「え?じゃないよ。営業部長になるなら、効率良く行かなきゃ。春奈が送信後の立見のメールからそのフォルダを消すんだよ。簡単だろ?」
「はい、分かりました」
「何だよ、つれない表情で。もっと上司に対して敬うとかご機嫌を取るとかないのか?そんなんじゃ営業部長は務まらんぞ」
すみませんといった表情を浮かべたままで、何も言い返せないままでいた。
「水谷社長、詰めが甘いんじゃないんですか?」
「ん?」
「あの小娘がメールする時にはCCにあの子も入ってるんでしょ?そこも消しておかなくちゃ。それに、小娘本人のパソコンからも消し去ってようやく意味があるんじゃ無いかしら?」
「おぉ、流石関東専務だな」絵に描いたような悪人の笑顔が鼻に付く。
「水谷部長、関東さん、私達のチームはそこまでしないと春奈さんに勝てないのでしょうか?」
「何が言いたい?」
「いえ、正直に正々堂々戦っても関東さんなら勝てるんじゃないかと思っていまして」
「あら、林部長も上手くなったじゃない?」思わぬ角度からの意見に関東さんも鼻高々になる。
「なるほどな。林のその意見も分かる。俺もそれは思う。ただ今回は綺麗に決着が着いても良くないんだ」
「それはどういうことですか?」
「あぁ、言ってなかったが、今回の全体のコンペの出来が立見の評価になってるらしい。
だから、コンペ毎機能しない形にしたいんだ。
そんな中でこちらは素朴に発表し、向こうの危険試合となれば、こちらの勝ちとコンペの意味の無さが同時に意味を成してくる。
その為だ、分かるよな」
「分かりました」
ロボットの返事のように答えるしか無かった。
正直、変な片思いが拗れて、良くないことをしてしまっていたが、これ以上嫌な思いをさせるのはしんどかった。
自分なりに距離を置き、遠くから春奈さんが成長しているのが嬉しかった。
向こうからは嫌われたままでいるだろうが、もうそれでも良かった。
でも、ここまでくると引き下がれない自分もいた。
「発表前日には林の仕事はあのノロマの黒川に振っておくから任せとけ。林、出来るよな」
「はい、分かりました」
ポジションと年齢と年収が上だが、熱意やちょっとした考え方ならすっかり黒川の方が上なのも辛かった。
全てのメールにCCを付けるようにしているため、黒川の力量が日に日に上がっていっているのが分かっていた。
ぎこちなかったメールもいつの間にか丁寧になり、仕事もスムーズに出来るようになっていた。
実際、自分が無理だと思った仕事を振っても、何とかこなしていく部下の姿が眩しく思えた。
ちょこちょこ春奈さんや立見常務に質問に行っているのを見るので、二人のやり方だろうが、それをこなしてきた黒川にずっと嫉妬していた。
そして、羨ましくもあった。
ただ、直属の上司である自分には聞かれないことに苛立ちを覚えていることも事実だった。
「三人共から消すようにします」
「良し、よく言った」
「流石出来る後輩を持つと違うわね。スムーズだわ。このチーム」
「ありがとうございます。それで関東さんのスライドは出来上がったんですか?後一週間ですよ?」
「分かってるわよ。まだ一週間あるでしょ?それに七月の時点であんなに高評価だったじゃないの。林君も聞いてたでしょ?」
もうこれ以上は聞かないでおこうと思った。
迎えた発表前の金曜日。社内にはすこし緊張が走る。
「おはようございます。今日は出荷が三件と新規様のご来客が一件あります。
また、関東さんと春奈さんは本日中に使用するスライドを私と念の為に推薦者をCCに入れてメール送信してください。
また、発表の順番ですが、中間発表と同じで、関東さんからの発表とさせていただきます」
立見常務の言葉の後に
「あの、何時までにメールを送っておけばよろしいでしょうか」関東さんがポロリと口にした。
「今日の十五時までに送っていただければと思います。
ただ、もうお二人共出来ているとは思うので、午前中に送っていただいても問題ありません」
「分かりました。ありがとうございます」
「他に質問等ありますか?」特に手は上がらず、皆は息を合わせたように社長の顔を見た。
「遂に来週に控えた社内コンペだが、中間発表から約三ヶ月、二人共練り直したことだとは思う。
社運をかけた製品が並ぶことをそして、選ばれることを願っている」
いつもの拍手が少しだけ、生きているように感じた。
掃除と昨晩で貯まったメール、朝イチでの仕事をこなし、十一時の第一会議室、三人の姿があった。
「いよいよ来週だね」
「はい、今から緊張してても意味無いんですが、やっぱり緊張しちゃいますね」
「そりゃ、その日のために準備してたもんね。仕方ないよ」
黒川君は何も話していないが、久々に怒肩になっている。
ここ数ヶ月はすっかりなで肩に戻っていたのに。彼も私と同じ目線で戦ってくれていることが嬉しい。
「黒川君もありがとね。本当はもっと部署でやらなきゃいけないことが沢山あるはずなのに、この会議にいつも参加してくれて」
「いえ、多分普通に働いていると聞けないようなことを沢山聞けて、凄く勉強になってました。こちらこそありがとうございます」
二会議室にも三人の姿があった。
「それで、どういう計画なんだね?林君」
「まぁ、見てて下さい。上手くやるので。ただ一つ、水谷部長と関東さんにそれぞれお願いがあるのですが」
いつの間にか心にあった罪悪感は消えて、水谷部長と同じ目の色になり始めていた。
そのことに本人も周りも気付かず、時間をかけて変色していく。
いつの間にか社会の雨に濡れ、隣人の液が流れ、暗色に変わっていく。
そこからはどう足掻いても、黒になる他道は無かった。
何色を足しても、後から明色を足しても黒になる他道は無かった。
三人は言葉少ないままに、第二会議室を後にした。
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