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ヒロイン、俺ってマジかよ(3)
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「じゃあ、1ページ目から順番に動きつけてこか~。台本持ったままでええし、まずは“立ち読み”の感覚でな」
宮吉が手をパン、と鳴らすと、部員たちがぞろぞろと“舞台エリア”に移動し始める。
部室の一角には即席のバミリ(立ち位置を示すテープ)が貼られていて、今日の稽古はそこで行われる。
「よし、翠心。お前はここな」
桔平がさっさと翠心を引っ張って、中央のポジションに立たせる。
「お前さぁ……俺まだセリフ頭に入ってねぇってのに……」
「だから台本持ってていいんだよ。“動きながら喋る”練習ってやつ。ほら、最初のシーンいくぞ」
桔平が演じるのは、翠心(巫女の生まれ変わり)を守る狐の妖。
最初の立ち位置を確認しながら、後ろで発声準備を整えていた他の部員たちも、それぞれのポジションについた。
「照明、落としまーす」
部室の隅にいた凌央が、照明のスイッチをカチッと操作。
部屋の灯りが一瞬落ち、薄暗い雰囲気に変わる。
「じゃ、いきまーす。『花に宿る』、第一幕、シーン一、始めっ!」
遥登が軽快な声でキューを出した。
——
〈第一幕:神社の境内〉
人と妖が交わることの少ない世界で、唯一その境界を歩む者——“選ばれし巫女の生まれ変わり”が目を覚ます。
「……ここ、は……?」
台本を持つ手がわずかに震える。けれど、翠心の声は思ったよりしっかり出ていた。
「ようやく目ェ覚めたか。まったく、手間かけさせやがって」
狐耳のカチューシャを仮でつけた桔平が、腕を組んで舞台奥から出てくる。
普段のノリと打って変わって、低めのトーンで言葉を放つ。
「お、桔平……ちょっと役入ってんじゃん……」
翠心は小声でぼそっとつぶやいたが、すぐに次のセリフに戻る。
「……あなた、誰?近づくな、私は別に……!」
セリフと一緒に台本を胸に抱え、じりじりと後ずさる翠心。
その仕草が自然と見えるよう、数人の部員が黙って見守っている。
「フフ、いいじゃん翠心。動きつけながらやると表情もついてくるねぇ」
遥登がにこにこしながら、台本にメモを走らせている。
「その“怯える感じ”、いいッスね。声のトーン、ちょっと上ずるくらいがリアルかもッス」
蓮真も後ろからぽそっとコメント。
「お、お前ら黙って見てるだけじゃねぇのかよ……!」
「おい、芝居中! 集中しろ」
桔平が軽く翠心の額を小突く。
「いってぇ……!」
部室にささやかな笑いが起きた。
照明が徐々に明るくなり、第一幕の途中で一度、宮吉が手を上げた。
「よっしゃ、そこまでや! うん、ええ感じやなぁ~。まだ初日やけど、イメージはできてるわ」
「翠心、ほんとに初めてか~? 思ったより動けてたじゃん」
桔平がふっと笑う。
「……だろ? ……いや、まだ全然わかんねーけど……」
翠心は俯きつつも、頬を少しだけ赤くしていた。
---
稽古漬けだった1週間がようやく終わり、土曜の昼。
和泉翠心は部屋のベッドに寝転がって、ゲームのコントローラーを片手にポテチをつまんでいた。
「……は~~~~、やっと休みだ……」
口元には力の抜けた笑み。部活も宿題も一旦放り出し、好きなだけ寝て、好きなものを食べて、ゲームして過ごす日。それこそが、翠心にとっての「幸福」だった。
そのとき、スマホの通知音が鳴る。
画面を覗きこむと、LINEのメッセージが届いていた。
《清水桔平》
「メシでも行かね?」
「……なんで桔平なんだよ……」
けど、今日くらいは好きなもん食っていいよな――そう思って、指が勝手に動いていた。
《和泉翠心》
「パフェ食べたいからファミレスがいい」
すぐに「OK」のスタンプが返ってきた。
---
ファミレスの窓際席。
休日の昼間でにぎわう店内の中、翠心と桔平は向かい合って席に座っていた。
「俺、ハンバーグにするわ。翠心は?」
「ナポリタン。あと食後にパフェ。チョコ系な。あれマジでうまいからな」
「チョコな。了解」
桔平がクスっと笑う。
注文を終えると、すぐに料理が運ばれてきた。
ハンバーグにナポリタン、それにドリンクバーで取ってきたメロンソーダ。目の前には幸福のセット。
「はー……マジでやっと羽伸ばせた……。一週間、腹筋だの走り込みだの、ありえねーだろ……」
ナポリタンをフォークで巻きながら、翠心がぶつぶつと愚痴をこぼす。
「……俺、本来こういう生活なんだよ……」
「でも、頑張ってたじゃん」
桔平は笑いながらハンバーグを切っている。
「頑張ってねーよ。無理やり引きずり込んだのお前だしな……」
「……俺は、休みの日もお前に会えて嬉しいけどな」
突然の桔平の“本音”に、翠心のフォークがぴたりと止まった。
「……な、なにサラッと言ってんだよ。……うぜえ……」
ぼそっと言いながらも、耳までほんのり赤い。
「お前、顔に出るタイプだよな、やっぱ」
「出てねぇよ!」
そんなやりとりをしているうちに、パフェが運ばれてきた。
チョコレートアイスに、ブラウニーと生クリームがどっさり盛られた甘々なパフェ。
「おー、これこれ。最高だろ、これ……」
パフェを前にした翠心のテンションは明らかに上がっている。
スプーンですくって、アイスと生クリームを頬張った。
「うまっ……マジで正義……」
その幸せそうな顔を見て、桔平がふいに口を開く。
「なあ、1口ちょうだい」
「は?」
「いいじゃん。な?」
桔平はぐっと顔を近づけてくる。
「……勝手にしろよ」
翠心が軽く舌打ちして、スプーンにひと口分すくって渡す。
桔平はそれをぱくりと口に入れた。
「……あまっ」
「当たり前だろ。チョコパフェだぞ」
そう言いながらも、どこか楽しげな翠心。
桔平の隣で、いつもの“日常”とはちょっと違う、けれど落ち着く空気に包まれていた。
宮吉が手をパン、と鳴らすと、部員たちがぞろぞろと“舞台エリア”に移動し始める。
部室の一角には即席のバミリ(立ち位置を示すテープ)が貼られていて、今日の稽古はそこで行われる。
「よし、翠心。お前はここな」
桔平がさっさと翠心を引っ張って、中央のポジションに立たせる。
「お前さぁ……俺まだセリフ頭に入ってねぇってのに……」
「だから台本持ってていいんだよ。“動きながら喋る”練習ってやつ。ほら、最初のシーンいくぞ」
桔平が演じるのは、翠心(巫女の生まれ変わり)を守る狐の妖。
最初の立ち位置を確認しながら、後ろで発声準備を整えていた他の部員たちも、それぞれのポジションについた。
「照明、落としまーす」
部室の隅にいた凌央が、照明のスイッチをカチッと操作。
部屋の灯りが一瞬落ち、薄暗い雰囲気に変わる。
「じゃ、いきまーす。『花に宿る』、第一幕、シーン一、始めっ!」
遥登が軽快な声でキューを出した。
——
〈第一幕:神社の境内〉
人と妖が交わることの少ない世界で、唯一その境界を歩む者——“選ばれし巫女の生まれ変わり”が目を覚ます。
「……ここ、は……?」
台本を持つ手がわずかに震える。けれど、翠心の声は思ったよりしっかり出ていた。
「ようやく目ェ覚めたか。まったく、手間かけさせやがって」
狐耳のカチューシャを仮でつけた桔平が、腕を組んで舞台奥から出てくる。
普段のノリと打って変わって、低めのトーンで言葉を放つ。
「お、桔平……ちょっと役入ってんじゃん……」
翠心は小声でぼそっとつぶやいたが、すぐに次のセリフに戻る。
「……あなた、誰?近づくな、私は別に……!」
セリフと一緒に台本を胸に抱え、じりじりと後ずさる翠心。
その仕草が自然と見えるよう、数人の部員が黙って見守っている。
「フフ、いいじゃん翠心。動きつけながらやると表情もついてくるねぇ」
遥登がにこにこしながら、台本にメモを走らせている。
「その“怯える感じ”、いいッスね。声のトーン、ちょっと上ずるくらいがリアルかもッス」
蓮真も後ろからぽそっとコメント。
「お、お前ら黙って見てるだけじゃねぇのかよ……!」
「おい、芝居中! 集中しろ」
桔平が軽く翠心の額を小突く。
「いってぇ……!」
部室にささやかな笑いが起きた。
照明が徐々に明るくなり、第一幕の途中で一度、宮吉が手を上げた。
「よっしゃ、そこまでや! うん、ええ感じやなぁ~。まだ初日やけど、イメージはできてるわ」
「翠心、ほんとに初めてか~? 思ったより動けてたじゃん」
桔平がふっと笑う。
「……だろ? ……いや、まだ全然わかんねーけど……」
翠心は俯きつつも、頬を少しだけ赤くしていた。
---
稽古漬けだった1週間がようやく終わり、土曜の昼。
和泉翠心は部屋のベッドに寝転がって、ゲームのコントローラーを片手にポテチをつまんでいた。
「……は~~~~、やっと休みだ……」
口元には力の抜けた笑み。部活も宿題も一旦放り出し、好きなだけ寝て、好きなものを食べて、ゲームして過ごす日。それこそが、翠心にとっての「幸福」だった。
そのとき、スマホの通知音が鳴る。
画面を覗きこむと、LINEのメッセージが届いていた。
《清水桔平》
「メシでも行かね?」
「……なんで桔平なんだよ……」
けど、今日くらいは好きなもん食っていいよな――そう思って、指が勝手に動いていた。
《和泉翠心》
「パフェ食べたいからファミレスがいい」
すぐに「OK」のスタンプが返ってきた。
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ファミレスの窓際席。
休日の昼間でにぎわう店内の中、翠心と桔平は向かい合って席に座っていた。
「俺、ハンバーグにするわ。翠心は?」
「ナポリタン。あと食後にパフェ。チョコ系な。あれマジでうまいからな」
「チョコな。了解」
桔平がクスっと笑う。
注文を終えると、すぐに料理が運ばれてきた。
ハンバーグにナポリタン、それにドリンクバーで取ってきたメロンソーダ。目の前には幸福のセット。
「はー……マジでやっと羽伸ばせた……。一週間、腹筋だの走り込みだの、ありえねーだろ……」
ナポリタンをフォークで巻きながら、翠心がぶつぶつと愚痴をこぼす。
「……俺、本来こういう生活なんだよ……」
「でも、頑張ってたじゃん」
桔平は笑いながらハンバーグを切っている。
「頑張ってねーよ。無理やり引きずり込んだのお前だしな……」
「……俺は、休みの日もお前に会えて嬉しいけどな」
突然の桔平の“本音”に、翠心のフォークがぴたりと止まった。
「……な、なにサラッと言ってんだよ。……うぜえ……」
ぼそっと言いながらも、耳までほんのり赤い。
「お前、顔に出るタイプだよな、やっぱ」
「出てねぇよ!」
そんなやりとりをしているうちに、パフェが運ばれてきた。
チョコレートアイスに、ブラウニーと生クリームがどっさり盛られた甘々なパフェ。
「おー、これこれ。最高だろ、これ……」
パフェを前にした翠心のテンションは明らかに上がっている。
スプーンですくって、アイスと生クリームを頬張った。
「うまっ……マジで正義……」
その幸せそうな顔を見て、桔平がふいに口を開く。
「なあ、1口ちょうだい」
「は?」
「いいじゃん。な?」
桔平はぐっと顔を近づけてくる。
「……勝手にしろよ」
翠心が軽く舌打ちして、スプーンにひと口分すくって渡す。
桔平はそれをぱくりと口に入れた。
「……あまっ」
「当たり前だろ。チョコパフェだぞ」
そう言いながらも、どこか楽しげな翠心。
桔平の隣で、いつもの“日常”とはちょっと違う、けれど落ち着く空気に包まれていた。
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