2 / 30
ヒロイン、俺ってマジかよ(2)
しおりを挟む
部室の空気が少しだけ緩む。
ひととおり本読みが終わり、各自が台本にメモを入れたり、内容について話し合ったりしはじめたころ。
ようやく椅子に座れた翠心は、テーブルに肘をついて深いため息をついた。
「……疲れた……マジで、芝居って体力使うんだな……」
台本をめくりながらぼやく翠心の前に、ぽん、と小さな袋入りのお菓子が差し出された。
「お疲れッス。甘いもん食うと疲れ取れるッスよ」
声の主は1年生、坂本蓮真。ニッと口角を上げながら、他の部員にも順にお菓子を配っていた。
「……あ? ありがとな」
「いやぁ、噂で聞いてたッスよ。無理やり演劇部に入れられたって」
「大丈夫ッスか? 逃げたいとか思ってないッスか?」
からかうように笑って、蓮真はテーブルの端にちょこんと腰かける。
翠心は、ちらっとお菓子に目を落として、肩をすくめた。
「大丈夫じゃねーよ……っつーか、気づいたら本読まされてたんだよ、俺」
「ッスよね~~」
蓮真は喉を鳴らして笑う。
「でも、演目の“ヒロイン”ってけっこうおいしいポジションッスよ? 注目されるし、舞台映えもするし。ま、期待してますから。これからよろしくッス」
軽く右手を上げて、にっと笑う蓮真。
「……あー、うん。こっちこそ、よろしくな」
まだ慣れないながらも、翠心も少しだけ笑い返した——そのときだった。
「蓮真~! 俺にもお菓子ちょーだい!」
不意に背後から肩越しに身を乗り出してきたのは、もちろん清水桔平だった。
「わっ、ちょ、やめっ……!」
翠心の背中に軽く覆い被さるように、顔をぐいっと近づけてくる。
「翠心だけずるいじゃん。僕にも優しくしてよ~」
「うっせぇ! やめろ、バカ! 重てぇ!」
体をひねって払いのけようとする翠心だったが、桔平はにやにやと悪戯っぽい笑みを浮かべたまま。
「ほらほら~、仲良しアピールしとかなきゃ。部内の印象大事だからな?」
「いらねぇだろ、そんな印象!」
「あるある~~」
隣で蓮真が笑っている。
にぎやかな部室の中で、翠心は再び深いため息をついた。
けれど、どこかほんの少しだけ――この空気に慣れつつある自分を感じていた。
---
蓮真の笑い声が混じる中、翠心はじたばたと桔平を振り払おうと必死になっていたが、その光景を数歩離れたところからじっと見ている人間がいた。
「ふふ……」
にこにこと目元を細めながら、まるで何かを確信したような微笑みを浮かべているのは、有安遥登。
その様子にすぐ隣にいた蓮真が目ざとく気づいた。
「……遥登先輩。なにニヤニヤしてんスか……」
「あ、ぼく? なんでもないよ♡」
とぼけながらも目線はしっかりと翠心と桔平に向けたまま。
「いや、絶対なんかあるでしょ……」
蓮真が眉をひそめて小声でつぶやくと、遥登はそのままの柔らかい声でぽつりと言った。
「いいね、青春って感じ……ふふ」
「せ、先輩やめてください!!」
翠心がバッと顔を赤くして振り返る。さっきまでの疲れなんかどこかに吹っ飛んだような勢いだった。
「えー? なにが~?」
遥登はとぼけながらも目が完全に笑っていた。
「……なにそれ、どういう意味なんスか……」
蓮真は呆れたように首をかしげる。
「てか、遥登先輩は青春してないんスか~?」
「ぼく? どうかなぁ~……」
遥登は口元に指を添え、わざとらしく空を見上げる。
その時——
「おーっす、楽しそうやな~。進捗どや?」
部室の扉ががらりと開いて、ラフな関西弁が響いた。顧問の宮吉皓介が、プリントの束を片手に入ってきた。
「ミヤキチ~! 今ちょうど本読み終わったとこっスよ~」
「お、そうなんや。ええな、ええな~。ほな、次は動きつけてくか~。立ち稽古や、立ち稽古!」
一気に部室の空気が切り替わった。
台本を抱えて、各自がそれぞれのポジションへと移動しはじめる。
桔平がぽんと翠心の背中を叩いた。
「ほらほら、ヒロイン様。立つぞ」
「……ぜってぇ今日、筋肉痛くるやつだ……」
ぼやきながらも立ち上がる翠心。
新たな青春劇の幕は、静かに、そして着実に開かれようとしていた。
ひととおり本読みが終わり、各自が台本にメモを入れたり、内容について話し合ったりしはじめたころ。
ようやく椅子に座れた翠心は、テーブルに肘をついて深いため息をついた。
「……疲れた……マジで、芝居って体力使うんだな……」
台本をめくりながらぼやく翠心の前に、ぽん、と小さな袋入りのお菓子が差し出された。
「お疲れッス。甘いもん食うと疲れ取れるッスよ」
声の主は1年生、坂本蓮真。ニッと口角を上げながら、他の部員にも順にお菓子を配っていた。
「……あ? ありがとな」
「いやぁ、噂で聞いてたッスよ。無理やり演劇部に入れられたって」
「大丈夫ッスか? 逃げたいとか思ってないッスか?」
からかうように笑って、蓮真はテーブルの端にちょこんと腰かける。
翠心は、ちらっとお菓子に目を落として、肩をすくめた。
「大丈夫じゃねーよ……っつーか、気づいたら本読まされてたんだよ、俺」
「ッスよね~~」
蓮真は喉を鳴らして笑う。
「でも、演目の“ヒロイン”ってけっこうおいしいポジションッスよ? 注目されるし、舞台映えもするし。ま、期待してますから。これからよろしくッス」
軽く右手を上げて、にっと笑う蓮真。
「……あー、うん。こっちこそ、よろしくな」
まだ慣れないながらも、翠心も少しだけ笑い返した——そのときだった。
「蓮真~! 俺にもお菓子ちょーだい!」
不意に背後から肩越しに身を乗り出してきたのは、もちろん清水桔平だった。
「わっ、ちょ、やめっ……!」
翠心の背中に軽く覆い被さるように、顔をぐいっと近づけてくる。
「翠心だけずるいじゃん。僕にも優しくしてよ~」
「うっせぇ! やめろ、バカ! 重てぇ!」
体をひねって払いのけようとする翠心だったが、桔平はにやにやと悪戯っぽい笑みを浮かべたまま。
「ほらほら~、仲良しアピールしとかなきゃ。部内の印象大事だからな?」
「いらねぇだろ、そんな印象!」
「あるある~~」
隣で蓮真が笑っている。
にぎやかな部室の中で、翠心は再び深いため息をついた。
けれど、どこかほんの少しだけ――この空気に慣れつつある自分を感じていた。
---
蓮真の笑い声が混じる中、翠心はじたばたと桔平を振り払おうと必死になっていたが、その光景を数歩離れたところからじっと見ている人間がいた。
「ふふ……」
にこにこと目元を細めながら、まるで何かを確信したような微笑みを浮かべているのは、有安遥登。
その様子にすぐ隣にいた蓮真が目ざとく気づいた。
「……遥登先輩。なにニヤニヤしてんスか……」
「あ、ぼく? なんでもないよ♡」
とぼけながらも目線はしっかりと翠心と桔平に向けたまま。
「いや、絶対なんかあるでしょ……」
蓮真が眉をひそめて小声でつぶやくと、遥登はそのままの柔らかい声でぽつりと言った。
「いいね、青春って感じ……ふふ」
「せ、先輩やめてください!!」
翠心がバッと顔を赤くして振り返る。さっきまでの疲れなんかどこかに吹っ飛んだような勢いだった。
「えー? なにが~?」
遥登はとぼけながらも目が完全に笑っていた。
「……なにそれ、どういう意味なんスか……」
蓮真は呆れたように首をかしげる。
「てか、遥登先輩は青春してないんスか~?」
「ぼく? どうかなぁ~……」
遥登は口元に指を添え、わざとらしく空を見上げる。
その時——
「おーっす、楽しそうやな~。進捗どや?」
部室の扉ががらりと開いて、ラフな関西弁が響いた。顧問の宮吉皓介が、プリントの束を片手に入ってきた。
「ミヤキチ~! 今ちょうど本読み終わったとこっスよ~」
「お、そうなんや。ええな、ええな~。ほな、次は動きつけてくか~。立ち稽古や、立ち稽古!」
一気に部室の空気が切り替わった。
台本を抱えて、各自がそれぞれのポジションへと移動しはじめる。
桔平がぽんと翠心の背中を叩いた。
「ほらほら、ヒロイン様。立つぞ」
「……ぜってぇ今日、筋肉痛くるやつだ……」
ぼやきながらも立ち上がる翠心。
新たな青春劇の幕は、静かに、そして着実に開かれようとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】恋した君は別の誰かが好きだから
海月 ぴけ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。
青春BLカップ31位。
BETありがとうございました。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
二つの視点から見た、片思い恋愛模様。
じれきゅん
ギャップ攻め
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
【完結】俺とあの人の青い春
月城雪華
BL
高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。
けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。
ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。
けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。
それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。
「大丈夫か?」
涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。
王様の恋
うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」
突然王に言われた一言。
王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。
ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。
※エセ王国
※エセファンタジー
※惚れ薬
※異世界トリップ表現が少しあります
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる