カーテンコールは君の隣で

あしゅ太郎

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継がれる声、照らす夏(1)

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窓際の席で向かい合うふたり。

蓮真はストローをくわえながら、目の前でクリームソーダを小さく揺らしていた。
対面に座る遥登は、どこか言い出すタイミングを探っているように見える。

「……ねぇ、蓮真くん」

「ん?」

「来週、演劇部、ちょっと顔出すことになったんだよ。凌央くんと悠嵩くんと三人で」

「え……燈ノ杜に、っスか?」

「うん。演技指導っていうか、OBとして、一回は行かないといけないって……去年、悠嵩くんが言ってたからね」

蓮真の目がぱっと見開かれた。

「マジっスか……! え、じゃあ、遥登先輩も……!?」

「うん。行くよ。もちろん、君にも会いたいから」

不意に視線をそらす遥登の横顔に、蓮真は耳まで赤くなって言葉を詰まらせた。

「……先輩、そういうこと、サラッと言うの、ずるいっス」

「え、そうかな……? でも、本当のことだよ」

蓮真がグラスを持つ手をそっと沈める。
嬉しい、けれどそれを顔に出せない照れくささが、頬に出る。

「……ってことは、今日からその話、部室で共有した方がいいッスよね」

「うん。“どうやら来るらしい”くらいに、曖昧に伝えていいよ。サプライズにはしないけど、緊張はさせたくないし」

「了解ッス」

---

後日夕方──燈ノ杜学園 演劇部・部室

「え、マジで? 凌央先輩たち来るんすか!?」

「遥登先輩が言ってた。なんか、演技指導しに来るって」

「いや~、緊張するわ……」

部室に集まったメンバーがざわつくなか──

ガラッ

「……よう」

ドアが開いて、最初に入ってきたのは、ラフなジャケットを羽織った辻井凌央。

「久々に来たけど、ここ全然変わってねぇな。相変わらず雑多で、ホコリくせぇ」

続いて、落ち着いた表情の安楽 悠嵩が入ってくる。

「ごめんね、急に。……でも、今日はちゃんと演技見ていくから」

そして最後に──ふわっとした笑みとともに、有安 遥登が姿を現した。

蓮真の目がぱっと輝く。

「──遥登、先輩……!」

その瞬間、遥登が一直線に駆けて──

「蓮真!」

そのまま胸に飛び込んだ。

「ちょっ……!?」

蓮真が面食らう間もなく、遥登は目を閉じて満面の笑み。

「会いたかったんだよ……!」

「ちょ、ちょっと遥登!? 人前では……!」

すかさず後ろから悠嵩が止めに入る。

「はーいはい、遥登、ちょっと落ち着いて? それはさすがに、ここではね……」

「だ、だって……!」

「分かるけど、ね?」

遥登がようやく離れ、蓮真は顔を赤らめながら後ろ頭をかく。

その様子を見ながら、凌央がソファにだらりと座る。

「……あーあ、相変わらずうるせぇわ。ったく、今日は演技指導もやんだよ。それが伝統だろ?」

「……伝統?」

翠心が少し眉をひそめた。

「そう。燈ノ杜のOBは、一回は必ず、演技見に来て口出すのが暗黙のルールなんだよな?」

悠嵩が小さく笑いながらうなずく。

「そうそう。……だから、今日はちょっと“本気”で観るからね」

部室の空気が一気に引き締まる。

そして──“先輩たちの指導”という、新たな幕が、静かに開かれようとしていた。

---

脚本の第三場──
アヤメが“真実の欠片”を語ろうとするが、シラユキが拒絶するシーン。

アヤメ(怜央):「あの日──あたしは、あんたに嘘をついたんだよ。ずっと、言えなかった」

シラユキ(翠心):「言わないで……もう、聞きたくない……!」

アヤメ:「あたしは、あんたの幸せのために……!」

シラユキ:「それは、“私が知らない”ことが幸せだったって言いたいの!?」


翠心の声が、感情に任せて荒れたところで──

「──ストップ!」

凌央の声がピシャリと割って入る。

「悪くねぇ。……悪くねぇけどよ、怒りが雑だ。翠心、今のおまえの“拒絶”は、ただの怒鳴りに見えた」

翠心が少し悔しそうに顔を伏せる。

「……でも、“もう聞きたくない”って本気で思ってるから……」

「そこはわかってんだよ。けどな? おまえのシラユキは“拒絶”の中に“期待”があるんだよ。“姉が本当のことを言ってくれるかもしれない”って。……その矛盾を声に入れろ。でなきゃただのヒステリー女に見えんぞ」

一瞬、場の空気が張り詰める。
だが、凌央は緩く笑って続けた。

「おまえの声はまっすぐだからな。ちゃんと届く。だからこそ、ちゃんと“ぶつけ方”を計算しろ」

翠心はゆっくりと台本を閉じ、深く一礼する。

「……ありがとうございます」

それを見ていた遥登が、ふわりと空気を変えるように拍手を一つ。

「うん、いい空気になってるよ。翠心くん、君の声は舞台の外まで響く。……だから、“言いたくないことを言ってしまう痛み”も、もう少し抑えめに表現してもいいと思うな」

悠嵩も補足する。

「感情の波が急だと、見る側が“振り落とされる”ことがあるからね。観客に“寄り添わせる”意識を持つと、ぐっと深くなるよ」

翠心は、両手で顔を覆うように照れながら笑った。

「すご……なんか、あの人ら、やっぱ本物だわ」

すると隣で台本を開いていた桔平がぽつりと。

「……だから、去年は勝てなかったんだよな、俺ら」

「でも、おまえはちゃんと“超えよう”としてるよ」

凌央が言った。

「だから、次のシーン、やってみろ。ミナトと町長の対話シーン。蓮真、おまえも立て」

---

別シーン:町長(蓮真)とミナト(桔平)の対話

町長(蓮真):「……だからこそ、“この町の優しさ”を守る必要があると思ったんだ」

ミナト(桔平):「それは……隠すってことか? 真実を?」

町長:「あの夜、君の家族を助けられなかった。それでも、彼女を守るために、“優しい嘘”が必要だったんだ」


少し台詞を詰まらせた蓮真に、遥登がそっと声をかける。

「蓮真くん……“町長”としてじゃなく、“人として苦しんでいる姿”も、少し見せてあげて」

「……人として、苦しんでる……?」

「うん。町のため、彼女のため──正しいと信じてやったことが、正しくなかったかもしれないって思ってる人の声。……それを出してほしいな」

蓮真は大きく息を吸い、目を閉じて、もう一度台詞を口にする。

町長:「俺は……あの夜、君の家族を助けられなかった。それでも、君をひとりぼっちにしたくなかったんだ……!」


桔平の目が少し揺れた。
今度のミナトは、言葉に詰まる。

ミナト:「……そんなこと……言われたって……!」


凌央がふっと口元をゆるめた。

「よし、いいぞ。おまえら、今のは“観客の息”止められる芝居だ」

悠嵩がにっこりと微笑む。

「すごくよかったよ。去年よりもずっと“人間を演じてる”。演技に命が通ってた」

遥登も、蓮真に近づいて、やさしくぽんと肩を叩いた。

「……がんばってるね。僕、うれしいよ」

蓮真の目が潤んだように見えたのは、きっと気のせいじゃなかった。

---

部室の空気が、少しだけ誇らしさをまとっていた。

『シラユキの告解』という物語に、
それを紡ぐ演者たちに、
そして──それを受け継ごうとする者たちに、

今、この場所にしかない“演劇の灯”が確かに揺れていた。
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