カーテンコールは君の隣で

あしゅ太郎

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スポットライトの届く場所で(1)

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蝉の鳴き声がゆるく鳴く、夏の午後。

大学の帰り道、翠心のスマホに一通の通知が届いた。
表示された名前に、心臓が一瞬だけ強く打つ。

《蓮真》「先輩、夏休みの部活来てもらえないッスか? OB指導、部長会で通したッス。桔平先輩にも声かけてます」

電車の中。窓から射す光がスマホの画面に映り込み、翠心はそっと目を細めた。

──桔平も来るんだ。

半年ぶり。あの日の春から、ほとんど連絡を取っていなかった。
連絡を絶ったわけではない。ただ、なんとなく、どちらからも触れなかった。

それでも──
演劇のこととなれば話は別だ、と心のどこかで思っていた自分に気づく。

《翠心》「了解。日程と内容、また教えて」



同じく、別の場所で。

東京の大学の広いキャンパスを歩いていた桔平もまた、同じようにLINEを開いていた。

《蓮真》「翠心先輩もOKッス! ぜひふたりに演技指導してもらいたいって、みんなで決めたッス」

「……そういうことかよ」

桔平は苦笑する。
自分が“部長の指名”として蓮真を推薦したこと、それを蓮真が覚えていてくれたことが少しだけ嬉しかった。

そして、翠心も来る──。

それだけで、胸の奥が少しざわめく。
でも、逃げるつもりはなかった。むしろ、もう一度ちゃんと向き合わなければと思っていた。

《桔平》「わかった。俺も行く」



──そして、夏休みのある日。

燈ノ杜学園・演劇部室。
午前の陽が差し込む部室の前には、数人の部員たちが集まり、準備に追われていた。

その扉の前で、桔平は立ち止まっていた。

「……久しぶりだな、ここも」

扉に手をかけようとした瞬間。

「……来てたんだ」

聞き慣れた、静かで芯のある声。
振り返ると、そこには翠心が立っていた。
高校時代よりも少しだけ短くなった髪が、夏の光に柔らかく揺れている。
服装もどこか大人びていて、雰囲気は確かに、大学生らしくなっていた。


「おう。お前も、来たんだな」

「うん……あの日のままじゃ、なんか嫌だったから」

桔平はわずかに目を見開いたあと、小さく笑った。

「僕も、たぶん同じ」

ふたりのあいだに流れた半年分の沈黙が、少しだけゆるむ。
目をそらすことなく、お互いを見た。

──そして、扉が開く。

「おーっす! 来てくれたッスか、先輩たち!」

坂本蓮真が部室から顔を出す。
笑顔はいつもの軽さだが、その奥にほんの少し、緊張も見えた。

「蓮真。……久しぶり」

「お前、背、伸びた?」

「ちょっとだけッスよ。そっちこそ、大学生っぽくなってるッス」

軽い会話に紛れて、怜央が奥から顔を出す。

「翠心先輩、桔平先輩……来てくれて、ありがとうございます。副部長、引き継ぎました。よろしくお願いします」

丁寧に頭を下げる怜央に、翠心が微笑む。

「しっかりしてきたね、怜央。安心したよ」

「だな。頼りにしてるぞ、次世代」

怜央は照れながらもまっすぐ頷いた。

「演劇部、ちゃんと続いてますから。ふたりの背中、ちゃんと見てきたんで」

部室に差し込む陽光が、ポスターや衣装ラックを照らす。

「……じゃあ、やろうか」

翠心が言った。

「蓮真、台本と配役、見せて」

「はいッス!」

「動きのアドバイスは僕が入る。翠心、感情の流れと表情頼む」

「うん。久しぶりだけど、なんか懐かしいね、こういうの」

桔平がうなずき、ふたりで並んで立つ。

同じ舞台の上。
すれ違いを抱えたままでも、こうして再び、演劇という“共通言語”を通じて関われる場所があった。

桔平がふと、翠心の横顔を見やる。
淡い光の中、少しだけ笑っていた。

「……お前、まだ演劇、好きか?」

「……好きだよ。桔平は?」

「僕も。多分、ずっと好きなんだと思う」

“演劇”も、“お前のこと”も。
でもそれは、今ここで言う言葉ではなかった。

──それでも、もう逃げない。

---

部活の見学という名目だったはずが、気づけばふたりとも立ち上がり、演技に熱が入っていた。
発声をチェックし、立ち位置を整え、細かな仕草まで口を出す。かつての自分たちと重ねるように。

「怜央、もっとセリフの最後、語尾残せ。余韻、意識して」
「はいッス……!」
「あと、蓮真。間で空気止まってる。感情がそこで止まっていいか、一回自分に聞け」
「うわ、怖っ……懐かしい感じしてきた」

蓮真のぼやきに、後方から声が飛んだ。

「ほんま、懐かしい光景やなぁ。桔平に翠心。やっぱり息ぴったりやわ」

演出席に座って腕を組んでいたのは、演劇部顧問の宮吉 皓介。ラフなシャツ姿にスニーカー、相変わらずの気さくな雰囲気だ。

「高校んときの稽古、そのまんま戻ってきたみたいやで」

「そりゃ、長い付き合いですからね」
桔平が肩をすくめると、宮吉はにやりと笑った。

「せやな。……けど、懐かしい言うて油断しとったら、怜央あたりに足元すくわれるで?」

「うっ……がんばります……!」
怜央が真顔で立ち直る横で、蓮真も苦笑いを浮かべる。

「まあでも、ええ空気になっとる。こうやって先輩が戻ってきてくれるんは、後輩にとってもでっかい励みやさかいな」

顧問の言葉に、一同の表情が少しだけ引き締まる。

翠心が、苦笑いしつつも真っ直ぐ前を向いて言った。

「……部員に見られてるんだから、いい加減な指導できないよ。こっちも、覚悟して来てるし」

「さすがやなぁ。相変わらず真面目や」

宮吉は満足げにうなずき、稽古場を見渡した。

「ほな、今日の稽古。しっかり追い込んでいこか。今日の二人の指導、ちゃんと盗んどきやー。タダで見れるもんやないで」

「え~、マジで……」
蓮真のぼやきに笑いが起き、稽古場の空気は一気に和んだ。

けれどその和やかさの奥には、どこか懐かしく、熱を秘めた時間が確かに流れていた。
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