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──夏の夜、画面越しのふたり。
「おい、そっちカバーできてねぇぞ、桔平」
「わかってるって。今のはオトリだよオトリ」
「いや、お前毎回オトリって言ってるじゃん」
「ふふっ、でも今回は成功しただろ?」
「……まあ、俺がフォローしたからな」
いつもの、軽口の応酬。
けれど不思議と、呼吸はぴたりと合っていた。
東京と地方──今は違う場所にいるふたり。
それでも、まるでひとつの舞台に立っているように、
この時間だけは、どこよりも近くにいられた。
「なあ、次帰ってくるのって、再来週だっけ?」
「うん。ゼミの発表さえ乗り切れれば、週末には」
「そっか。……じゃあさ、今度水族館行かね? 夜景の見えるとこで飯食ってさ。べつに、ロマンチック狙ってるわけじゃ――」
「いや狙ってるだろ、それ」
「ちげーよ。たまたま“そういう台本”になってるだけだって」
「……あっそ。演出ミスじゃなきゃいいけどな」
ふたりで作ってきた舞台。
すれ違ったことも、ぶつかったこともあった。
でも、あの照明の下で交わしたセリフや眼差しは、
今も心にくっきり残っている。
あのときのシラユキとミナトのように──
ただの“役”じゃなく、“生きた気持ち”で言葉を交わせたあの瞬間。
「なあ、翠心」
「ん?」
「……俺さ、演劇って、台本どおりじゃないとダメだと思ってたんだ。ミスは許されないし、間違えたらアウトだって」
「……うん。俺もずっと、そう思ってた」
「でもさ、お前と一緒にやって気づいた。
台詞飛ばしても、予定外の感情が溢れても、
“隣にお前がいる”ってだけで、舞台は続けられるって」
少しの沈黙のあと、翠心は小さく笑った。
「それ、……すげーわかる。俺、たぶん今も台本通りの恋なんてできないけどさ、でも桔平となら、アドリブだって楽しめそうだって思えるんだよな」
ボイチャの向こうで、桔平が照れたように鼻を鳴らす。
「……ほんと、演劇バカだなお前」
「お前が言うなよ」
ふたりの笑い声が、夜の部屋にやさしく響いた。
「……遠距離ってさ、台本で言うなら“別のシーン”かもしれないけど、」
「でも、同じ舞台には立ってる」
「だな。……幕が下りるそのときまで、ちゃんと最後まで演じきろうぜ。俺たちらしく」
「……うん、最後まで」
ラウンドが終わり、ふたりのアバターが並んで立ち尽くす。
けれどその無言の時間は、決して“無”じゃなかった。
ふたりだけのアドリブで繋がれた、言葉のない会話。
演じることは、選ぶこと。
選んだ未来を信じ続けること。
──かつての“隣”とは少し違っても、
“新しいシーン”が、いまここから始まっていく。
夏の夜、窓の外では虫の声が鳴き始めていた。
そして、画面越しのふたりは、また笑い合う。
関係は、変わっていく。
でも、それは終わりなんかじゃない。
むしろ、幕が上がったばかりの、新しい物語だ。
「おい、そっちカバーできてねぇぞ、桔平」
「わかってるって。今のはオトリだよオトリ」
「いや、お前毎回オトリって言ってるじゃん」
「ふふっ、でも今回は成功しただろ?」
「……まあ、俺がフォローしたからな」
いつもの、軽口の応酬。
けれど不思議と、呼吸はぴたりと合っていた。
東京と地方──今は違う場所にいるふたり。
それでも、まるでひとつの舞台に立っているように、
この時間だけは、どこよりも近くにいられた。
「なあ、次帰ってくるのって、再来週だっけ?」
「うん。ゼミの発表さえ乗り切れれば、週末には」
「そっか。……じゃあさ、今度水族館行かね? 夜景の見えるとこで飯食ってさ。べつに、ロマンチック狙ってるわけじゃ――」
「いや狙ってるだろ、それ」
「ちげーよ。たまたま“そういう台本”になってるだけだって」
「……あっそ。演出ミスじゃなきゃいいけどな」
ふたりで作ってきた舞台。
すれ違ったことも、ぶつかったこともあった。
でも、あの照明の下で交わしたセリフや眼差しは、
今も心にくっきり残っている。
あのときのシラユキとミナトのように──
ただの“役”じゃなく、“生きた気持ち”で言葉を交わせたあの瞬間。
「なあ、翠心」
「ん?」
「……俺さ、演劇って、台本どおりじゃないとダメだと思ってたんだ。ミスは許されないし、間違えたらアウトだって」
「……うん。俺もずっと、そう思ってた」
「でもさ、お前と一緒にやって気づいた。
台詞飛ばしても、予定外の感情が溢れても、
“隣にお前がいる”ってだけで、舞台は続けられるって」
少しの沈黙のあと、翠心は小さく笑った。
「それ、……すげーわかる。俺、たぶん今も台本通りの恋なんてできないけどさ、でも桔平となら、アドリブだって楽しめそうだって思えるんだよな」
ボイチャの向こうで、桔平が照れたように鼻を鳴らす。
「……ほんと、演劇バカだなお前」
「お前が言うなよ」
ふたりの笑い声が、夜の部屋にやさしく響いた。
「……遠距離ってさ、台本で言うなら“別のシーン”かもしれないけど、」
「でも、同じ舞台には立ってる」
「だな。……幕が下りるそのときまで、ちゃんと最後まで演じきろうぜ。俺たちらしく」
「……うん、最後まで」
ラウンドが終わり、ふたりのアバターが並んで立ち尽くす。
けれどその無言の時間は、決して“無”じゃなかった。
ふたりだけのアドリブで繋がれた、言葉のない会話。
演じることは、選ぶこと。
選んだ未来を信じ続けること。
──かつての“隣”とは少し違っても、
“新しいシーン”が、いまここから始まっていく。
夏の夜、窓の外では虫の声が鳴き始めていた。
そして、画面越しのふたりは、また笑い合う。
関係は、変わっていく。
でも、それは終わりなんかじゃない。
むしろ、幕が上がったばかりの、新しい物語だ。
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