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しおりを挟む「とりあえずレコーディングおつかれさん! 乾杯!」
「乾杯」
グラスをかち合わせ、ビールを飲む。やっぱり生は美味いな。うん。
それから、箸を取って刺身に手をつける。白身で綺麗な刺身だ。
「俺、タチウオ初めて食うわ」
「俺は好きだよ。ギリギリまだ旬だから美味いはず」
「おっ、そうか。じゃ」
刺身に山葵を少し乗せてつまみ上げ、手元の小皿の醤油を付ける。
宵闇は手首に嵌めていた髪ゴムで前髪をまとめた。俺の言いつけちゃんと覚えてたな。
口に入れた刺身は、歯ごたえがあって、脂がのっててなかなか美味い。そしてビール。いける。
「美味いな、これ」
「だろ?」
宵闇はにっこり笑う。ほんと、会ったばっかの時はこいつがこんな風に笑うなんて想像出来なかったよな。つうか、多分他のメンバー、特に綺悧なんかはこんな顔を想像したこともないんだろう。
こんなに口調が柔らかいのも、バンドの場面では絶対ないはずだし。
こんな宵闇を知ってんのは、俺だけってことか。
里芋サラダにも箸をつける。ツナと一緒にマヨネーズであえてあるっぽい。刻んだパセリが上から散らしてある。
食べてみると、角切りのクリームチーズも入ってた。里芋っつったら茹でたヤツに醤油つけて食うあれとか、煮物しか知らなかったけど、これもアリだ。
ふと見ると、宵闇は箸も持ってない。ただただ、俺が食ってるとこを真顔で凝視してやがる。おい、食いにくいじゃねぇか。
「お前も食えよ」
「ん? ああ。食べる」
そう言うと、やっと箸を持って刺身を食べ始めた。それとグレープフルーツジュースは合うのか?
「お、美味いな。ここ当たりだな」
「当たりだなって、何でこの店にしたんだ?」
「食べログで調べて」
食べログって。ヴィジュアル系が食べログって。ダメだっちゅー決まりはないけど、とてもファンには聞かせられねぇな。
「この辺で居酒屋で…」
それなら鳥貴族でもいいじゃねぇか。
「個室で…」
個室って条件は…ミュージシャンだからって理由にしておいて欲しい。
「…デート向きの」
「で…」
デート向きは、流石にミュージシャンが理由にはならねぇ。何てツッコんだらいいんだこれ! 聞かなかったことにしてもいいか? 聞かなかったことにしよう。そうしよう。
「他の料理も美味そうだな。期待出来るんじゃね?」
強引にハンドルを切って話題を変える。振り落とされるなよ、っていうか、振り落とされてくれ、何なら。
「…そうだな」
宵闇は一瞬眉を上げ、頷く。まだ何か言いたげだけど、それには触れないでおく。
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