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しおりを挟むさあ、俺様の本領発揮と行きますか。
スタジオにリピートで流れているHate or Fate。この曲は、こんなもんじゃない。イントロのシンセが流れ出したところから、カウントを取り始める。
8小節目の4拍目。8分休符からの8分音符。バスとスネアとクラッシュを同時に鳴らすのが、開幕の合図だ。
スタジオ中の人間が、一斉に俺を見る。ああ、見とけ。これがこの曲の本当の姿だ。
イントロが進みAメロへ。準備が整ったヤツから、俺のドラムに乗っかって来る。アンプを通してない音は全然聴こえないけど、動きを見てたらわかる。礼華も朱雨も、まったく気後れしてない。リハーサルで指摘された部分も、躊躇わず弾いてる。その姿だけで、ヤツらがレベルアップしてるのが伝わって来た。
Bメロを通って、サビへ。宵闇がベースで加わってくる。いつも通り、冷静だ。こいつの無表情は、集中してるってことだ。
そして、綺悧が歌い始めた。音程が高いところは僅かに聴こえる。いい調子じゃねぇの。
間奏挟んで、Bメロ。そこからのギターソロ。Bメロ。聴かせるCメロに入って、ラストの大サビへ。
楽器隊が派手に鳴らすアウトロの最後は、フリーのライドシンバルが余韻を残す。
気が付くと、全員が中央を向いていた。互いの顔を見合って、ニヤニヤしてる。宵闇も、口角を少し上げてる。
こいつら、今、めちゃめちゃ楽しんでたな。
楽しいもんなんだよ、音楽はさ。こいつらは、今まで音楽は「バンドなんだから」って義務感みたいなもんでやってた部分があったんじゃないか。でも、今のこいつらの顔は違う。楽しんだし、しっかり遊んだ、やんちゃ坊主の顔だよ。
楽しけりゃ、もっと楽しみたいって欲が出る。もっと楽しむには、腕を上げることも必要だ。目的がもっと楽しみたい、遊びたい、なら練習も楽しめるようになるし、出来ることが増えりゃ、音で自由に遊べるようになるんだ。
今、こいつらは音楽で遊ぶ楽しさに気付いたはずだ。そうだ。もっと遊ぼうぜ。
監督が、俺たちに声をかける。
「一回、テストで撮るよ」
そして、それぞれに立ち位置を指示する。俺以外は、やや外に向かって立つ形だ。
室内の音が止まる。
「宵闇くん、Bメロからで良かったよね?」
監督から確認された宵闇は、一秒も迷わずに答えた。
「通しでお願いします」
「コンテではイントロとAメロでは使わないってなってるけど」
「変更します。使うんで、全部全通しだけ撮ってください」
宵闇も、わかったんだ。メンバー全員がテンションが上がっているこの状態。この状態なら、確実にいい顔で、いいアクションが撮れる。これを使わない手はない。
「わかった。じゃあ、イントロから行こう。音出すよ! 3、2、1」
また、シンセ音が聴こえてくる。重くて、でも闇の中で何かが輝いているような、今からの展開を期待させる音。俺には進軍ラッパに聴こえる。
8小節目、1、2、3。
絶妙な力加減で、両手と右足が同時にアタックする。力を入れ過ぎても抜きすぎてもダメだ。この加減で綺麗に振り抜く。
叩きながら、それぞれの様子を見る。本番に沿って、円の外を正面にしてプレイしている。ちゃんとカメラを意識して、「ベルノワールのギタリスト」であり「ベルノワールのベーシスト」であり「ベルノワールのヴォーカリスト」だ。カメラが回ってくると、しっかりアクションを決めながらプレイするし、カメラが通り過ぎても映り込みをちゃんと意識していて隙がない。背中しか見えない綺悧も、背中だけ見てりゃわかる。歌詞を全身で体現してる。
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