134 / 233
27-25
しおりを挟む「スタート!」
ゆっくりと、顔を下げる。同時に、ゆっくりと目を見開き、正面を睨む。カメラの位置なんか知らねぇ。そっちで勝手に撮りやがれ。
瞬きをして、歩き出す。周りを見回しながら。俺の視界は、一面の灰色だ。
足を止める。何かに呼ばれた。全身で振り返る。でも、そこには何もない。頭を振って、大きく呼吸をする。1回、2回、3回。そのまままっすぐ進む。一旦止まる。何歩か走る。何者かに阻まれる。
その場で膝をついて、両手を掲げる。でも、つかみたいものは手の中に入らない。
絶望しかけた俺は両手を握り込んで項垂れる。だけど、絶望なんかしてやらない。俺が今探してるものは神とか、そんなもんかもしれない。その神が俺を拒むのなら、俺は神になんか頼らねぇ。
空に向かって、叫ぶ。叫び声は長く尾を引く。俺、こんな声出たのか。腹の底から、全てを吐き出すような叫び。
俺は立ち上がり、笑みを浮かべて見えない何かを挑発する。かかって来い。神でも、悪魔でも、死神でも。
体が動くに任せる。もう、髪も崩れてるだろうし、メイクも見られたもんじゃねぇかもしれない。そんなこと、知らねぇ。どうでもいい。
全力で殴る。俺を邪魔する者を。蹴り飛ばす。俺を阻む者を。手加減なんかしねぇ。覚悟してかかって来い。
ああ、これは無心でドラムソロをプレイしてんのとそっくりだな。
頭じゃない。体がやりたいようにやらせてる時の気分だ。めちゃめちゃ気持ちがいい。今、俺笑ってんな。声出して笑ってる。狂ってる。
この、狂ってんのが俺だ。
雨は冷たいけど、そんなもんで俺の体が熱くなるのは止められやしねぇ。
息が上がってくる。でも、全然苦しくねぇ。
体をまわして攻撃してくる何かを避け、片膝をつく。背けていた顔をあげ、俺にかすり傷ひとつつけられない相手を鼻で笑う。俺を止められるとでも思ったのか?なめてんじゃねぇぞ。
もう一度立ち上がり、大きく振りかぶり、拳を叩き込む。
これが、俺だよ。
俺が行く道を邪魔するヤツがいるなんてことは、認めねぇ。すべてぶっ潰す。
勢いで、俺は地面に転がる。そのまま転がりまわり、起き上がる。顔を上げた先から感じた視線に、ニヤリと笑ってやる。腕を突き出し、相手の心臓をがっちりとつかんで、奪い取る。その握り拳が俺の心臓を叩く。目を見開き、握った手を真上にゆっくりと掲げる。
見てろ。俺を邪魔するヤツの末路はこれだ。
手の中にある心臓を、じわじわと握りつぶしながら、前に差し出す。
死ね。
すうっと顎を上げ、見てるヤツをせせら笑ってやる。
そのまま数秒。
「カット」
宵闇の声が聞こえた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
三十六日間の忘れ物
香澄 翔
ライト文芸
三月六日。その日、僕は事故にあった――らしい。
そして三十六日間の記憶をなくしてしまった。
なくしてしまった記憶に、でも日常の記憶なんて少しくらい失っても何もないと思っていた。
記憶を失ったまま幼なじみの美優に告白され、僕は彼女に「はい」と答えた。
楽しい恋人関係が始まったそのとき。
僕は失った記憶の中で出会った少女のことを思いだす――
そして僕はその子に恋をしていたと……
友希が出会った少女は今どこにいるのか。どうして友希は事故にあったのか。そもそも起きた事故とは何だったのか。
この作品は少しだけ不思議な一人の少年の切ない恋の物語です。
イラストはいもねこ様よりいただきました。ありがとうございます!
第5回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。
応援してくださった皆様、そして選考してくださった編集部の方々、本当にありがとうございました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
神様の住まう街
あさの紅茶
キャラ文芸
花屋で働く望月葵《もちづきあおい》。
彼氏との久しぶりのデートでケンカをして、山奥に置き去りにされてしまった。
真っ暗で行き場をなくした葵の前に、神社が現れ……
葵と神様の、ちょっと不思議で優しい出会いのお話です。ゆっくりと時間をかけて、いろんな神様に出会っていきます。そしてついに、葵の他にも神様が見える人と出会い――
※日本神話の神様と似たようなお名前が出てきますが、まったく関係ありません。お名前お借りしたりもじったりしております。神様ありがとうございます。
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
視える僕らのシェアハウス
橘しづき
ホラー
安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。
電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。
ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。
『月乃庭 管理人 竜崎奏多』
不思議なルームシェアが、始まる。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる