【大スカ 小スカ 1話完結オムニバス】一ノ瀬家は我慢できない!

なまご

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【 次男 】剛毅

キャラ紹介小説・前編【小スカ】

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鏡の前に立ち、俺は何度目かのため息を吐いた。
恨みがましい顔でこっちを睨みつけてくるソイツは、しかし、なんと迫力のない顔付きだろうか。
幅広い二重瞼、長すぎる睫毛。
せっかく鍛え続けている筋肉で盛り上がった身体も、その容姿には不釣り合いに思える。

(お前なんか嫌いだ…)

俺はブロンドに染めた前髪を乱暴に払い、目元を隠した。
少しは“普通”に見えるだろうか。
疼く顎の傷にそっと触れて軽く目を閉じた俺は、乱暴に開くドアの音にびくりと背後を振り返った。

「おー、剛毅戻ってたんか!お前毎日よく走ってんな」

寮のドアから入ってきた、短い金髪を立てたその男はタニザキ マコトと言うらしい。クラスメイトであり、俺のルームメイトだ。
入寮時――入学式の一週間前入寮――から、やたらと絡んでくる。

「うるせぇ……近寄んな。名前呼ぶな」

朝から駄菓子を口に放り込んでいる谷崎に背を向けて、低い声で言い放つ。
しかしこの谷崎はそういった俺の態度を全く意に介さず、この一週間、平気で俺に関わってこようとするのだ。

「わりーわりー。相変わらずツンツンしてんな。ところでお前ちゃんとメシ食った?何か食いに行こうぜ」

チッと小さく舌打ちをして、居心地の悪くなった俺は鞄を手に寮の部屋を出た。
鞄を持つ手がじっとりと濡れ、微かに震えている。

今日は入学式だ。
もう数年、まともに学校に通ってない。
校舎に近づくにつれ人の姿が増え始める。俺は深呼吸をして、震える足を無理やりに動かした。

体育館に向かう途中、数人の柄の悪そうな上級生がジロジロとこっちを見ている。

「おい見ろ。あの新入生のガキ」
「殴りてぇツラしてんな。生意気に金髪にしてやがる」

足を止めて相手を一瞥した。
拳を握ると、上級生は俺からサッと目をそらす。
こいつらはシンプルなんだ。だから、いい。

再び歩き出すと背後で小さく舌打ちが聞こえたが無視して歩みを進める。
絡まれても、喧嘩なら怖くない。自分から仕掛けるつもりはないが…。
ただ、今は心臓がバクバク鳴って、下腹部がぎゅうと締まる感じがした。

(トイレ、行きてぇ……)

緊張して膀胱が縮んでいるのか、尿意が下腹部を重くする。
確か体育館の手前にトイレがあったはずだ。
足早にトイレに向かうが、俺の足はその随分と手前でぴたりと止まり動かなくなってしまった。

トイレには人が並んでいた。
胸に花飾りを付けた、俺と同じ新入生だ。
何人かは元々の知り合いなのか、あるいはその場で仲良くなったのか、楽しげに談笑している。
じり、と一歩足を動かすも、やはりそれ以上前に進めない。

(……怖、い……)

頭の中に笑い声が響く。
クスクス。
アハハハハ。
あの顔見て、オンナ?ガイジン?
クスクス。

俺はたまらず、その声から逃れるように足早にその場から離れた。
まだ人がまばらな体育館の、ずらりと並んだパイプ椅子に逃げ込むように着席した。
まだ身体の震えが収まらない。
無理だ。人の密集した場所になんてとても居られるとは思えない。

少しだけ落ち着いて、気付けば目元に滲んでいた涙を乱暴にぬぐい取る。
入学式はただ黙って座っていたらいい。
誰とも言葉を交わす必要はない。
誰かが言葉を発することもない。

左腕の腕時計にそっと触れた。
父さんがくれた入学祝いの腕時計は、俺に不釣り合いに、シルバーで大人っぽい。
だけど俺は、これをもらったときに誓ったんだ。
もう二度と逃げない。
もう二度と、逃げちゃいけない。





入学式が始まって一時間が経とうとしていた。
今日は、春とは思えないほど足元にひんやりとした空気が流れている。
そのせいだろうか。
あるいは緊張しているせいだろうか。
あの時解放できなかった尿意が、俺の膀胱で暴れて下腹部をキリキリと痛めつけている。

周囲に人がいる緊張から、身動ぎさえ躊躇われる中で、俺は膝の上の震える拳をぎゅっと握り込んだ。
今は校長の式辞がだらだらと続いている。
プログラムだと来賓の祝辞、新入生紹介、誓いの言葉、そして閉式、とあったはずだ。

……間に合うだろうか。
いや間に合わせるしかない。
この場を立つことも、トイレの許可を取りに行くことも、俺にはとてもじゃないけど出来る気がしなかった。
想像しただけで、喉が締め付けられて呼吸ができなくなりそうだ。

また頭の中で嘲笑が聞こえる。
食えよ。
ガイジンが漏らしたぞ。
アハハハハ。
傷痕がズキンズキンと生傷のように痛み出し、顎から首に生暖かい血が流れる感覚がした。





それから、30分が過ぎた。
熱を持った背中にじっとりと汗で濡れたシャツが張り付いている。
式はようやく新入生紹介に移り、号令と共に俺も他の生徒に倣って椅子から立ち上がった。
膀胱がズキンと痛み、脈を打っているようにどくんどくんと存在を主張している。

(ションベン……したい、早くしたい)

司会の言葉がどこか遠くで聞こえるが、俺の頭の中はトイレへスムーズにたどり着くことしか考えられない。
教室に戻る前にトイレに寄る時間くらいはあるはずだ。
体育館のトイレは混むだろうか。
校舎のトイレまで耐えられるだろうか。

絶対に漏らすわけにはいかない。
性器の先を小便がじりじりと撫でつけてくるような、そんな感覚がしている。
気を抜いたら、押し寄せる小便が出口から一気に溢れ出てしまうに違いない。
それは下着を超え、制服を重く濡らし、足元に広がって、アンモニアの臭いで周囲の鼻を刺激するだろう。
そうなれば出所がバレるのは時間の問題だ。

恐ろしい想像に身体がぶるりと震える。
漏らせない。

(早く。早く終われ。じゃなきゃ……)

号令で着席すると、朝はちょうどだったズボンが下腹部に食い込んで膀胱を刺激した。
尿道から出口までがずくんずくんと疼く。

新入生の誓いの言葉が始まる。
祈るように時間が進むのを待った。
目立たないように、しかし何度も尻をもぞもぞと動かす。動けば少し尿意が紛れるような気がした。
誓いの言葉が終わり、いよいよ閉式の挨拶も終わり、永遠とも思えるほど長かった時間が終わった。

後ろの席からパラパラと人が立ち上がり始める。
もうすぐだ……もう、あと少しで出せる。

(早くションベンしたい。
 全部、早く全部出したい……っ)

そわそわと待つが一向に人が動く気配がない。
その時壇上に教師が現れる。別の教師と会話を交わし、なかなか話し始めないが、しばらくしてようやく口元にマイクを近づけた。

「えー……これから写真撮影に移ります。一組から順番に壇上にあがって、終わったクラスから教室に向かってください」

淡々と事務的に伝えられたその言葉に、俺の心臓はどきりと跳ね上がった。
プログラムに書かれていなかった。予想外のことに混乱する。

撮影?
どのくらい時間がかかる?
ひとクラスが終わるのにそんなにスムーズにいくとは思えない。

俺は一組だったが、それでも壇上にひな壇がゆっくりと運び込まれ始めるのを見て絶望した。
もし、もし……、間に合わなかったら…。

最悪の事態が頭をよぎり、体がカタカタと小刻みに震えだす。

だめだ。絶対だめだ。
それどころか、小便を我慢していることさえ誰にもバレたらだめだ。
怖くてトイレに行くことすら出来ない俺を、そんな弱い人間だってことが知られたら、きっと……。

また俺の頭の中で声がする。
嗤っている。
目の前の給食に、何かが蠢く。
食べろ、食べろ。
はやし立てられる。
足が震えて、力が抜けて、僕は……


突然、肩を強く叩かれハッとする。
ここは体育館で、僕――俺は、高校の入学式の最中だ。

「おいってば!剛毅。具合悪いのか?」

まだ混乱する頭を動かしゆっくりと声の方に振り向くと谷崎眞士が少しだけ真面目な顔をしてこっちをのぞき込んでいる。
思わずパッと顔をそらした。

「名前、なれなれしく呼ぶな」

声が少し震える。それでも自然と強気に振る舞えたことで、俺は少しだけ気を持ち直した。
体にぐっと力を入れる。
あと少し頑張るだけだ。
誰にも弱い俺を知られるわけにはいかない。

「一組は壇上に上がってください」

マイクで促され、ぱらぱらと人が立ち上がり歩き出す。
俺も他に倣い、震える足で立ち上がり、重い膀胱を刺激しないようにゆっくり足を前に進めた。
本当にもう、今にも性器の先から小便が溢れ出そうだった。

慎重に壇上の階段を上がる。
教師の指示と生徒の伝達が上手く行かず一部もたついている。ひな壇に上がった数名が降りてくる。五十音順で並べ、と再度教師が指示を出した。

(早く、早く。早くしろ……ションベン出る、漏れる、早く……)

立ち止まっていると強い尿意が込み上げた。
尿道に小便が流れ込んでくる感覚。たまらず腰をくねらせて、内腿をすり合わせた。

(出る…!…おしっこ……)

じわ…
下着がわずかに濡れる。
続けざまに出そうになる小便を必死で押し止めた。

(も、もう……もう、いやだ……)

今にもその場で全て漏らしてしまいそうなのに、俺は出そうになる涙まで堪えなければならなかった。
漏らすのはだめだ。
でも、弱いところを見せるのも、絶対だめだ。

身体の内側が熱く、それなのに妙に身体が冷えていた。
カチカチに冷えた指にぎゅっと力を入れて、体の横で拳をにぎった。
もう足を動かしていないと漏らしてしまいそうで、休ませるふりをして脚を交差させて太腿を締める動きを、左右交互に何度も繰り返した。
もう、いつ漏らしてもおかしくなかった。

少しずつ列が進む。
指示通りの配置につく。
カメラマンが全員の視線を集める。
撮り直し。撮り直し。

永遠にも思える時間だった。
俺はおもらしをしてしまわないように、耐えて、祈るだけだった。

ようやく撮影が終わり、教師の指示で壇上から降り、体育館の出口へ向かう。
体育館を出ればすぐ右手にトイレがある。
もう出せる。
おしっこできる。
おしっこ、おしっこ、早く……!

目はトイレのある方に釘付けだ。
それなのに。
それなのにだ。俺は、そのトイレを、そのまま通り過ぎてしまった。

一歩横へ足を踏み出せば、それで全て終わっていたはずなのに。
他の新入生が並び始めたトイレに、俺は近付くことが出来なかったのだ。
立ち止まって考えることさえ出来なかったのだ。
ただ、何事もないように歩き続けることしか出来なかった。

一気に頭が真っ白になる。
ここでできなかったら、きっと俺は我慢できない。漏らしてしまう。もう漏れる、漏れそうなのだ、すぐにでも。

頭が働かない。
ただプログラムされたように歩き続ける。
全身が汗でじっとりとしている。


チョロッ…

じんわりと下着に温かさが広がる。
顔から血の気が引いていくのが分かったが、考える暇もなく続けてジワッ、ジワッと下着が濡れていく。
それでも俺は平静を装うのを止めることも出来ず、ほとんど操り人形のように足を交互に前に出して歩みを進めている。

ジワッ、ジワッ……

布が重くなっていく。

しょろ……しょろろろ………

出る間隔が長くなっていく。

しょー……じょーーっ……

全く止めることが出来ない。
下着に吸い込みきれない熱い小便が、ツウ、と腿を通る。

じょろろろろ

止め方が分からない。
どうしたらいいか分からない。
頭が真っ白だ。ただ、ずっと嗤い声が響いている。傷が鋭く痛み、流れる熱が首筋まで這う。

その時突然肩を掴まれ、そのまま渡り廊下の切れ目から押し出されるように外に出た。
俺は反射的に肩を掴む手を振り払った。

「触んじゃねえ!…見んな……!」

だが今度は跳ね上げた手を強く掴まれる。掴んだのは谷崎だった。

「いいからこっち来い!」

頭が混乱して、だけど周りの視線から逃れたい気持ちが俺の抵抗を弱くした。
引きずられるように建物の裏に連れて行かれ、掴まれた手が解放されると、俺はいよいよ制服に身を包んで立って小便を漏らしている、その姿を見られていることが明確になった。

我慢を重ねた小便は勢いは弱いが、服越しにくぐもった音を立てている。
俺の足元の地面だけ色が変わっている。

急に、この状況に恐怖が込み上げた。
クラスの人間におもらしを見られている。
俺は未だ濡れ続けているズボンの前をみっともなく両手で押さえてその場にうずくまった。
手の中に熱い小便が広がる。
震えて、ただ断罪されるのを待つことしか出来なかった。

だけど、そんなことは起こらなかった。
頭からそっと上着をかけられた。

「無理やり助けてやりゃ良かったな」

軽いけど優しい声色だ。気付いたら肩に置かれた手が、冷え切った体に暖かさを伝えてくる。
意図せず、頬に熱いものが流れ出した。

「…お、れ……」
「いい いい。大丈夫だから任せとけ」

顔も上げられない俺の頭を、掛けられた制服の上から撫でられる。
言葉も発せないほど不安と恐怖に支配されていた心と体が、なんとかこの場に留まることが出来た。


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