40 / 331
第十五話【記憶】後
しおりを挟む
水分休憩と言われ、冬真は近くの椅子へと座りこんだ。時季外れの厚着に、日差しが強い中での撮影はこたえる。加えてここ最近睡眠時間が減り休みもとれてないことで、激しい運動をしたわけでもないのに息が切れる。
不意に冬真の前に日差しを遮るように影が差した。顔を上げれば、深い帽子をかぶりメガネをかけ、口元をストールで隠した男がいた。男は冬真に水のペットボトルを差し出していた。
「あ、ああ。サンキュー」
エキストラの一人だろう、男に差し出された水を受け取った冬真の耳元に男の顔が近づいてきた。
「お疲れ様」
笑いを含んだ声に、冬真は口に含んだ水を吹き出した。対して見事、悪戯が成功し力也はケラケラと笑いながら色つきのメガネとストールをずらし軽く片目をつぶった。
本来は衣装を着ているときにするような悪戯ではないが、すでに汗で濡れているので大丈夫だと結論付けての悪戯だ。
「力也!?」
水で服を濡らした冬真へ力也の持っていたスポーツタオルが渡された。
「なんでここに」
「エキストラのヘルプ頼まれたんだよ」
冬真がいるとは思っていなかったが、偶然にも会えたことを力也は喜んでいた。
「傷は?」
「大丈夫だって」
相変わらず、何事もなかったかのように笑う力也へ冬真は眉をひそめた。
「お前この後は?」
心配と説教を混じらせた言葉を飲み込み、話を逸らす。
「終ったら帰るだけだけど、冬真の方が忙しいだろ?」
「これが順調に終われば少し時間あんだよ」
移動時間を含めて二時間ほど空き時間がある。移動はマネージャーが迎えにきてくれると言っていたから力也を乗せればその分も一緒にいられるだろう。自分が次の現場についたら、力也を駅まで送ってもらえばいい。
頭の中でシミュレーションした冬真の問いに、力也は一瞬驚くも笑った。
「じゃあ、NGださないようにしなきゃな」
はっきりとした返事ではない物の、そう返した力也へ軽く指だけで手招きをすれば腰を折り顔を近づけてきた。
「おかえし」
その額へとデコピンをする。目を見開いた力也だったが、次の瞬間少し首を傾げた。
「痛かった?」
「…ううん、違う違う。びっくりしただけ」
力は込めていないが、痛かったかと思った冬真に力也は笑い返した。
「力也―!」
「あ、いまいく!じゃあ、また後で」
エキストラたちの集合の合図がかかり、力也は軽く手を振ると走って行った。
その後ろ姿を見送り気合を入れなおした冬真だったが、現実はそんなにうまくいくはずもなくこの後は何度も取り直しとなった。
人数が多いだけに、小さい失敗が重なり、ついには冬真まで失敗をしてしまった。
咄嗟に振り向くと、何度も繰り返されたダンスシーンの所為で息が上がり苦しそうな力也と目が合った。
冬真と目が合うと力也は、軽く笑い返し“ドンマイ”と口には出さずにつぶやいた。
(ダメだな)
負担をかけたくはないと思っていたのにままならないことにいら立ちと、消沈心を感じつつ冬真は目線を元に戻した。
この時、冬真は力也と長続きしないDom達の気持ちが少しわかった気がした。
結局この日、何度もやり直しがあり、冬真には先ほどの予定を中止にしそのまま帰るようにいわれた。体調を気遣ってくれたのはわかるが、別に大丈夫だったのにと力也は部屋に帰りベッドの上に横になった。
ひと眠りしようかと思うが、こんな時になって朝の夢が思い出される。
「コンビニでもいくか」
意味もなくついていたテレビを消そうとした瞬間、柔軟剤のCMが目に止まった。
冬真にデコピンされたあの時気になった、嗅ぎ慣れない甘い匂い、冬真の家にいったときはしなかったあの匂いはスタイリストによるものだろうか?
どこかで嗅いだ覚えのある匂いだったそれを力也は思い出すことのないまま、コンビニへと向かった。
不意に冬真の前に日差しを遮るように影が差した。顔を上げれば、深い帽子をかぶりメガネをかけ、口元をストールで隠した男がいた。男は冬真に水のペットボトルを差し出していた。
「あ、ああ。サンキュー」
エキストラの一人だろう、男に差し出された水を受け取った冬真の耳元に男の顔が近づいてきた。
「お疲れ様」
笑いを含んだ声に、冬真は口に含んだ水を吹き出した。対して見事、悪戯が成功し力也はケラケラと笑いながら色つきのメガネとストールをずらし軽く片目をつぶった。
本来は衣装を着ているときにするような悪戯ではないが、すでに汗で濡れているので大丈夫だと結論付けての悪戯だ。
「力也!?」
水で服を濡らした冬真へ力也の持っていたスポーツタオルが渡された。
「なんでここに」
「エキストラのヘルプ頼まれたんだよ」
冬真がいるとは思っていなかったが、偶然にも会えたことを力也は喜んでいた。
「傷は?」
「大丈夫だって」
相変わらず、何事もなかったかのように笑う力也へ冬真は眉をひそめた。
「お前この後は?」
心配と説教を混じらせた言葉を飲み込み、話を逸らす。
「終ったら帰るだけだけど、冬真の方が忙しいだろ?」
「これが順調に終われば少し時間あんだよ」
移動時間を含めて二時間ほど空き時間がある。移動はマネージャーが迎えにきてくれると言っていたから力也を乗せればその分も一緒にいられるだろう。自分が次の現場についたら、力也を駅まで送ってもらえばいい。
頭の中でシミュレーションした冬真の問いに、力也は一瞬驚くも笑った。
「じゃあ、NGださないようにしなきゃな」
はっきりとした返事ではない物の、そう返した力也へ軽く指だけで手招きをすれば腰を折り顔を近づけてきた。
「おかえし」
その額へとデコピンをする。目を見開いた力也だったが、次の瞬間少し首を傾げた。
「痛かった?」
「…ううん、違う違う。びっくりしただけ」
力は込めていないが、痛かったかと思った冬真に力也は笑い返した。
「力也―!」
「あ、いまいく!じゃあ、また後で」
エキストラたちの集合の合図がかかり、力也は軽く手を振ると走って行った。
その後ろ姿を見送り気合を入れなおした冬真だったが、現実はそんなにうまくいくはずもなくこの後は何度も取り直しとなった。
人数が多いだけに、小さい失敗が重なり、ついには冬真まで失敗をしてしまった。
咄嗟に振り向くと、何度も繰り返されたダンスシーンの所為で息が上がり苦しそうな力也と目が合った。
冬真と目が合うと力也は、軽く笑い返し“ドンマイ”と口には出さずにつぶやいた。
(ダメだな)
負担をかけたくはないと思っていたのにままならないことにいら立ちと、消沈心を感じつつ冬真は目線を元に戻した。
この時、冬真は力也と長続きしないDom達の気持ちが少しわかった気がした。
結局この日、何度もやり直しがあり、冬真には先ほどの予定を中止にしそのまま帰るようにいわれた。体調を気遣ってくれたのはわかるが、別に大丈夫だったのにと力也は部屋に帰りベッドの上に横になった。
ひと眠りしようかと思うが、こんな時になって朝の夢が思い出される。
「コンビニでもいくか」
意味もなくついていたテレビを消そうとした瞬間、柔軟剤のCMが目に止まった。
冬真にデコピンされたあの時気になった、嗅ぎ慣れない甘い匂い、冬真の家にいったときはしなかったあの匂いはスタイリストによるものだろうか?
どこかで嗅いだ覚えのある匂いだったそれを力也は思い出すことのないまま、コンビニへと向かった。
43
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
世界で一番優しいKNEELをあなたに
珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。
Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。
抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。
しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。
※Dom/Subユニバース独自設定有り
※やんわりモブレ有り
※Usual✕Sub
※ダイナミクスの変異あり
ふたなり治験棟 企画12月31公開
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
Dom/Subユニバース読み切り【嘉島天馬×雨ケ谷颯太】
朝比奈*文字書き
BL
🖤 Dom/Subユニバース
毎週日曜日21時更新!
嘉島天馬(クーデレ・執着Dom)× 雨ケ谷颯太(ワンコ系・甘えんぼSubよりSwitch)
読み切り単話シリーズ。命令に溺れ、甘やかされ、とろけてゆく。
支配と愛情が交錯する、ふたりだけの濃密な関係を描いています。
あらすじは各小説に記載してあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる