エキゾチックアニマル【本編完結】

霧京

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番外編【年を重ねる】前

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 暮れと正月は家族と過ごすのはよく聞くが、力也はあまりそういう感覚がなかった。正月だろうが、好きな時に訪れる力也の母のご主人様は暮れが近くなると、泊まり込むことがあった。
 血縁上だけとは言え、力也の父親にあたるのだから家族と言えば家族だったのかもしれないが、本当の家族がいただろう事を考えると不思議だった。
 母はくるか来ないかもわからないご主人様のため、大掃除も仕事も調整していた。力也も寒くても大丈夫なように隣の空き室に布団を持ち込んで置いたり、ちょっとした食料を隠して置いたりもした。
 母がシングルマザーと言うこともあり、子供の頃は近くの大家さんのところに遊びに行くこともできたが、さすがに暮れ近くに泊まり込むことはできなかった。
 母が仕事と偽ってもアパートの部屋には明かりがついているのだからすぐにバレてしまう。Subだと明かしていたのだから、事情を話してもよかったのかも知れないが、他に家族がいるDomの主人の存在はあまり公にしたい物ではない。
 大家さんはよい人だったが、お年を召した女性だった為、何ができるわけでもなく、穏やかに暮らしている彼女をこれ以上深く関わらせたくはなかった。
 それに母にとっても泊まり込みは大切な時間で、力也にそれを邪魔するつもりはなかった。
 その為、動物の巣ごもりの準備のように少しでも過ごしやすくするために隣の空き室を勝手に改造していた。その時はちょっとした秘密基地作りのようで楽しかったが、今思えば後々空き室だったはずの部屋が改造されていてちょっとした騒ぎになったかもしれない。
 そういうわけで力也には年の変わり目にこれと言って習慣化されている物がなかった。
 空き室だった部屋で除夜の鐘を聞いたり、事が済んでから母と少しだけ豪華な物を食べたりはしたが・・・・・・。

「ってことで、除夜の鐘とか初日の出とか意識したこともなかったんだよな」
「・・・・・・」

 せっかくだからと除夜の鐘を付きに来た冬真は、待ち時間の間に何気なく聞いた話に頭を抱えた。力也はなんてことのないように笑いながら話しているが、想像すると泣けてくる。

「正月ぐらいいい思いしろよ」
「金なかったし。あ、でもおじちゃんとおばちゃんのとこに住み始めたらおせち食べれるようになったから嬉しかったな。暮れも正月も休みなかったから忙しかったけど」
「飲食店ってそういうとこあるよな」

 とはいえ、寒い中一人暗い部屋で過ごしていた時代を聞いてしまった冬真は、その内容にすこしホッとした。冬真の想像する力也の冬は過酷すぎて、冬という季節さえも恨みたくなる。

(母さんが悪い訳じゃないのはわかってるんだけど、やりきれねぇよな)
「秘密基地みたいで意外とたのしかったんだけどな。母さんも手伝ってくれたし。二人で寒さ対策に段ボールもらいにいったりして、わりと好き放題してたな~」
「少しでも楽しめたならよかったけど」

 力也の母も力也を一人外に出したくはなかっただろう。それでも、激しいPlayをみせるのは力也の為にならないし、その身が危険でもあった。幼子にみられることを躊躇う力也の母を楽しむようなゲスな相手ならば尚更見せるわけにはいかなかっただろう。
 そもそも、なんでそういうときに限り泊まるのか、Playだってホテルに行けば力也は部屋で待っていることもできたのに、金をかけたくないのか家でやっていたらしい。
 つくづくそんなときにそんな時に傍にいられなかったことが悔しい、傍にいれば例え年の差があったとしてもそれなりに力也に寄り添うことができたのに。

(寒くたって、二人でいればきっと・・・・・・)

 体を寄せ合い温めあえば、いくらかマシだろう。電気も何もないところでも、二人でいれば寂しくはないし辛くもない。
 隣の部屋から聞こえてくる声に耳を背けることもできただろう。そもそも、冬真が近くにいれば即座に家に連れ帰っていただろう。

(力也が小学校じゃ、俺はまだ幼稚園ぐらいだろうけど・・・・・・)

 そんな小さい子供ができる訳がないと言われそうだが、自分ならきっとそうしていたと確信できる。

「冬真?」
「ああ、悪い」

 頭の中でその頃の力也を助けることを考えていたら、話しを聞き流してしまったらしく、不思議そうな顔を向けられた。

「なんだっけ?」
「だから、冬真はおせちで何が好きかって話し」
「あー、悪い。聞いてなかった。お前は何が好きなんだ?」
「俺は錦卵と伊達巻き、栗きんとん、黒豆も結構うまいよな」
「甘いのばっか」

 予想通りの答えに、思わず笑みがこぼれる。子供が好きそうな甘い物ばかりだ。聞けば、居候させてもらっていた食堂で、お正月のお弁当代わりとしてつくっていたらしい。

「おばちゃんとおじちゃんのおせちすごくうまかったんだよな。それで好きになったんだよ。冬真は?」
「カニ」
「カニっておせちにあったっけ?」
「なかったっけ?」

 冬真の記憶は正月になると、用意されていた実家のおせち料理だ。当たり前のように出てきていたから特に何がどうとか聞いたこともないし、名前を覚えているものも少ない。
 実のところなにが入っていたかもあまり思い出せない。ただ、毎年カニが出てきて嬉しかったことは覚えていた。

「おばちゃん達が正月に作ってたおせちにエビなら入ってたけど」
「エビだっけ? 俺の記憶カニなんだけど」
「別に用意してたとかかな」
「実はエビの代わりだったとか・・・・・・」
「カニの方が高いだろ」

 段々記憶が曖昧になってきた。毎年食べていたはずなのに、あの頃の自分はなにを思いながら食べていたのだろうか。油断すると姉に食べられてしまうから、無心で食べていた気がする。

「カニといくらとかまぼこと・・・・・・もち」
「数の子と雑煮ならわかるんだけど」

 記憶を探るがよく思い出せない。そもそも、このおせちの記憶は本当に実家での物だったのかもわからない。

「正月って言うと、母さんの実家に行ってたし」
「一日に行ってたんだ」
「それも思い出せない。初詣も行った気がするけどいつだかわからない」
「さては冬真なんも考えてなかっただろ」
「だと思う」

 特になにも考えなくとも苦労する事もなかったからか、記憶が大分曖昧になっていた。大方出された物を食べて、連れていかれるままに親戚の家に連れて行かれていたのだろう。
 力也とは違い、いつも通りの穏やかな正月を送っていたのだろう。
 
「まぁ、普通はそんなもんか」
「お前の記憶と比べるとなんか申し訳なくなる」
「わりとマイペースに過ごしてたし、そんなに大変じゃなかったって」
「そうは聞こえないんだけど」

 そう返せば、力也は楽しそうに笑い声を上げた。笑えるだけマシなのだろうか、それとも感覚がズレたまま戻っていないのか、それもわからない。

(ごまかしじゃないとは思うけど)

 たいしたことではないと思い込む事で笑い話にしているのかもしれない。当時を実際にみなければ答えはわからない。

「にしてもカニか。カニは買ってないんだけど」
「もしかしておせち買ってあるのか?」
「錦卵と伊達巻きと栗きんとんは買った」
「食べたいの買っただけだろ」

 突っ込めば、力也はまた楽しそうに笑った。どうやら二人きりで過ごす正月らしい内容を楽しんでいるらしい。冬真からすれば別に好きな物がなくとも力也が楽しそうならば何でもいい。この後も初日の出と初詣、できたら初売りもいきたいと思っている。

「帰りにスーパー寄って帰る?」
「そうだな。初日の出みて、初詣して帰りに寄って初売り・・・・・・やってるか?」
「あー、どうだろ? やってるとこもあると思うけど。カニはないかも」
「いや、どうしてもカニが食べたいわけじゃないからそれはいいけど」

 こう言ってはなんだが、力也が食べたいものを食べていれば冬真はなんでもよかった。食べられるならば食べたいが、いつでもいい。

「コンビニにも少しならおせちあるかも知れないけど、どうしても食べたいものとかってないのかよ」
「特にないな。あえて言うなら・・・・・・力也とか」
「・・・・・・今の流れでなんでそうなるんだよ」

 ウケを狙ったはずなのに、外してしまったらしい。すごく変な物をみるような目線をむけられてしまった。

「食べたいものって言っただろ」

 それでも、その目線を楽しんでしまうのはDom性に関係あるのだろうか。そう思いながら更に言えば、大きくため息をつかれた。

「はぁっ・・・・・・この煩悩除夜の鐘でなんとかなるかな」
「お前も好きなくせに」
「そりゃ好きだけど・・・・・・」

 行列に並んでいる時に話す話しかと言われれば、話す話しではないだろう。実際、コソコソ話していなかった所為か、何人かこちらをチラチラ見ている人がいる。

「普通の食べ物言えよ」
「じゃあ、酒とつまみがほしい」
「それならコンビニで買えるな」
「酒飲んで酔った力也とのんびりしっとりしたい」
「またそっちに持ってく、スケベ」

 人目もはばからずなにをしているのかと思うほど、戯れていると二人の順番が回ってきた。促されるまま、鐘つきから伸びる紐を二人で持つ。

「これ思いっきりいっていいんだよな」
「そんなことしたら煩悩飛んでちゃうだろ」
「冬真は多少飛んでいっても大丈夫だから、煩悩退散!」
「ひでぇ」

 そう笑いながら、気合いをいれて構えた力也の所為で一際大きな鐘の音が辺りに響き渡った。
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